第336話 真相は単純でも複雑

 欲望が渦巻く街で、ミラたちと黒幕を探している私は真相に近付きつつあった。


「ミラちゃん、そろそろ誰が黒幕かが分かったんじゃない?AIシステムに引っ掛からず、動ける人間…、それは…。」


 私が彼女に黒幕のヒントを与えると、


「やたらとし~ちゃんを排除したがる、ジェイ君って事?それとも…。」


 ミラは私の膝の上にいるメグを見た。


「今のこの子には害は無いよ。寄生するクラゲに精神を侵され続けた影響で喋れなくなっちゃったけど…ね。」


 無表情で私から離れない彼女には害の無い事を話した。


「えっ…、ねぇ、この子は親に虐待されたから、喋れなくなったんじゃないの?」


 やっぱり、ミラはメグの事情を知らなかった。


「この子が本当に虐待を受けていたなら、得体の知らない私には近付かないはずよ。でも、この子は真っ先に私の側にやって来た。それは、言葉や感情を奪われてしまった彼女が無意識…本能で私に助けを求めていたからなの。」


 事の真相を話す事にした。


「メグちゃんはあの人形にこう言われたんだよ。この事をミラに知らせたら、ミラの感情を奪って、同じ目に遭わせるってね…。だから、私を見た時に彼女はあり得ないくらい接近してきて、何かを伝えようと必死だった。私に知られたく無くて、邪魔したくて、ジェイ君は力ずくで私の排除をしようとしていた…って事かしら?M君。」


 私は彼に問い掛けると、


「はぁ~、これだから、君みたいな奴は嫌いなんだよ。上手く誤魔化して適当な人間を差し出そうとしたんだけど…な。」


 彼は観念して真相を話し始めた。


「私が来る前にさっさとミラちゃんに寄生して壊したら良かったんじゃないの?」


 ミラに寄生して、私を招き入れなければ良かったんじゃないのかを尋ねると、


「僕の寄生能力は欲望の少ない人間に適合しない。メグは愛情欲に溺れてAIの俺に支配された可哀想な人間なんだよ。」


 彼はメグの欲望に取り入り、感情を奪った事を話した。


(だから、メグちゃんの魂の色が抜け殻のように真っ白なんだね。)


 私は彼女をギュッと抱き締めた。そして、


「なるほど…、あなたがチームの頭脳、AIのメグね。人工知能のあなたはクラゲの力を使って、適合するその男子の体を得た。同時に自分の能力を使ってジェイ君をコントロールして、邪魔者を排除していた。この街の統制をするために、わざと犯罪者を招き入れて…無法地帯、ならず者の集まる街に変貌させた。」


 彼の目的は彼なりの生活を守るために行っていただけだ。でも、


「犯罪行為は見過ごせない。自らのAIシステムの使ってハッキングしたり、詐欺や売春組織の胴元として金銭を得ていたり、数々の罪を認めて警察に自首するなら…、今からでも、許してあげるけど?」


 彼に最後通告の形で罪を認めれば許すと問い掛けると、


「君は勘違いしている。この体は僕の能力を投影しているだけに過ぎない。本体はあくまでAIの電脳システムだよ?この体を捕らえても、また別の体に意識を移して活動できる。人間の君にAIの僕を捕らえる事も罰を与える事も出来ない。さあ、どうする?紫音さん。」


 自分は仮の体だから、AIの自分は捕らえられないと言い切った。


「反省する気が無いみたいね、残念だけど…ウチの娘は人工知能のあなたを遥かに上回る生き物。もう逃げられないよ?」


 私の気持ちに呼応する形で、部屋のコンピュータ関連にバグが出始めると、


「君の本体…バックデータはウチの娘がすべて破壊したみたいだよ?君は人の人生を狂わせた。その責任を人間の体で過ごしなさい。それから…、行方不明の人たち全員に君の優秀な人工知能データを植え付けていたらしいけど、適合しなかったみたいね。あなたの所有する建物、研究室だったのかしら?彼らは言葉も話せないし、服も着ていない猿みたいな状態で発見されたらしいわ。」


 普通の人間に人工知能の膨大なデータを植え付けたら、当然…脳が壊れる。彼は詐欺をした若者たちの身元がバレると、警察よりも早く動いて、匿うとウソを付いて、研究先に誘導する。そこで捕らえた男女の若者たちを人体実験の使っていた。


(恵麻が元刑事の美南を使って、警察を踏み込ませたと事後報告してきたけど…、美南は年下にアゴで使われて、納得したのかな?)


 母親の私を現場に向かわせて、恵麻は後方支援に回る…、それが今の私たちの仕事のスタイルだ。私に必要な情報を提供して、真相を解く。そして、目の前の悪い奴を私が力にモノを言わせて捕まえたり、罰を与える。


 裏を明かされた彼は、


「人間は本当に脆いよね…。すぐに壊れちゃうんだもん。この体の男の子は特別だよ。なんたって、君の言っているクラゲ生物と上手く融合したからね。そこに最高の人工知能を与えたのが…、今の僕だ。」


「でも、猿に退化した若い人間の男女を同じ部屋に放つと、気が合う合わないとか、見た目がどうだとか考えずに食事の時以外は交尾ばかりしていたよ。これから産まれてくる赤ちゃんを研究出来ないのは…本当に残念だ。」


 自分の口から罪を認めたあと、操り糸が切れた人形のようにグッタリとして動かなくなってしまった。


「人間として、警察に捕まるくらいなら…、自らの命を断つ選択をしたんだね。命を軽く見るのは、AIの最大の欠陥だと思う。」


 この男の子の脳もすでに改造されたあとだったため、脳内をショートさせて体の機能を停止させた。そんな彼が助かるかは分からないが、私は救急車を呼んだ。


「ほな、ウチも責任を取らなあかんな。この子は何もしてへんし、ジェイ君を連れて全部を話すわ。メグの事は頼んだで…、し~ちゃん。」


 ミラはリーダーとして、責任を取ると告げて自首をすると言った。


「分かった。まあ、適当に惚けて話せば、悪いようにされないでしょ。」


 まだ未成年だから、責任を感じずにすべてを話す必要は無いと言っていると、いつものように私の背後を取り、神里の母さんが抱き付いてきた。


「白ギャル紫音もやっぱり可愛いわ。」


 この母親は16歳の姿の私が好きみたいだ。蓮の妻で同居している時は玲奈を煽らないように遠慮をしていたのか、離婚した途端、昔のように私を可愛がっていた。


「母さんは何がしたいの?それから、離してくれませんか?」


 離れろと母さんに告げたのだが、それを無視しながら、


「紫音…、取り引きしましょう。ここにいる未成年者たち全員の身元を私が保証する代わりに、頼みたい事があるの。」


 いつもタイミング良く現れるこの母親を信用していいのかと考えたが、まずは話を聞いてみる事にした。

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