第332話 快楽に溺れる街の少女
行き場を失った若者が集まる街。そんな通り名が付く街で売春を悪気なく行っている中学生のミラに会った私は、引き続き何故か、なついてくる彼女から話を聞いていた。
「ミラちゃんはエッチする事に抵抗が無さそうだね。なんで?」
わずか13歳で性行為に躊躇いの無さそうな彼女に聞いてみると、
「ウチ、叔父さんがおるんやけど、小5の時に初めてエッチしてん。もちろん合意の上でな、でも…やったらアカンかってんて~。そっからやな、ウチがエッチしたなって、ここにたどり着いたんは…。ここなら、誰も怒られへんねん。」
彼女は自分が性行為の快楽に溺れている事を明かした。
(う~ん、神里の母さんが好みそうな子だ。結局、こう言う子がたくさんいると少子化は解決するんだよね…。)
あの母親の目的は、ここにいる性に積極的な売春少女たちを手の内に入れる事だと理解した私は、さりげなく神里グループの代表なら君の事を理解してくれるよ?と話しておく事にした。それを聞いた彼女は私に、
「ホンマに?大人たちはウチらを悪人みたいな感じで扱いよるで?」
彼女は周囲の大人が、まだ子供なのに、エッチするのは悪い事だと言っていた事を話してきた。
「いや、神里さんは子供を産む女は全員、日本を救う救世主だと言っているし、あのグループに入れば、ミラちゃんみたいな人間は大切にされるはずだよ?」
そう言って、紫音から言われたと言えば、絶対に話を聞いてくれるよ?と告げて、まだ幼い彼女に、この危ない地域から抜け出す道筋を付けてあげた。
「マジで~、なら、し~ちゃん。ウチみたいな子がここにはたくさんおるし、声を掛けてあげてよ。ウチはし~ちゃんの言うとおりにしてみるわ。ほなな。」
彼女は私の言ったとおりにすると告げたあと、お礼を言って去って行った。
(ミラちゃんは居場所があれば、どこでも構わないって考えなんだね。)
私の言葉の力はああいう行き場を失った子にはかなり効果があるらしい。
もちろん、まだまだ未熟な少年少女には、母さんみたいな受け皿になってくれる人間が必要だ。あのグループなら、子供さえ作れば、高等な教育も受けさせてくれる。例え、直接子供を産まなくても、恵麻みたいな両親を失った子供や身寄りの無い訳ありの子供たちを育てる意思さえ持てば、十分、組織として重宝される。性に積極的な女は世の中の有益な存在にしか、なり得ないと考えているあの母親なら、きっと彼女を救ってくれるだろう…。
(なるほど、神里グループはここの若者に目を付けているのかな?若年層の総数が減っているし、若者なら、取りあえず、なんでも取り込むって考えだし、そう言う勧誘活動をさせる目的で私をこの場所に送り込んだのか…。)
またまた、上手く利用された私だったが、金も地位も無い私に彼女らを物理的に救う手段は無い。母さんは少子化で日本が崩壊する事を30年以上も前から予測していて、水面下でこの都市を制圧し、支配下にする方法を考えていた。もちろん、霊能の本部みたいに邪魔な人材を始末する強引な手法も取ってきただろう…。しかし、すべては日本の将来を考えての取り組みで、あの人は私欲で動いていない。
(母さんは本当にスゴい人。紫音が通っていた高校を財力で自分の物にしたのも、運の無い子供や恵まれない境遇に陥った子供たちに機会を与えるため。私を神里家から追い出したのにも、深い理由があるって事なのかも…。)
今なら、自分の子供にわざと困難を与える事を昔からしていた理由も分かったし、あの母親には、精神を鍛えあげられて、魂を強くしてもらった。こんなに仕事がしやすい、万能過ぎる体を与えてもらった。
(人生の全部を手のひらに乗せて踊らされているのは気に入らないけど…。)
このまま、私が若者たちを切り取って行き、この街に関わる人間を徐々に減らして内部破壊していけば、犯罪が横行する街も解除されて上手く行くって事だと考えた私が行動しようと動き始めた時に、
「神里家の元嫁のあんたは、やっぱり、ウチらの街を崩壊させる気なんやな。橘 紫音。」
私を呼ぶ声が聞こえて来たので、予想は的中していた。
「まさか…、ミラちゃんみたいな若い女の子がこの街を支配している人間だとは思わなかったよ?」
容姿で目立つ私は、出会った最初から目を付けられていた。この、ミラと名乗る少女に…。さっきの会話で、母さんと私の目的に気付いた彼女は一旦、その場を離れたあと、私をそそのかして、どう動くかを観察した。そして…、
「そのわりには、し~ちゃんはあんまり驚いて無いやんか。なんでなん?」
この街のトップにベラベラと喋ってしまった私だったが、この街が警察に制圧されない理由をずっと考えていた。黒幕がきっと想像もしていない人物で正体を掴めない以上、警察組織の力で武力制圧しても無駄だと考えているのではないかと…。
常識的に考える警察は成人男性や成人女性をトップだと考えて捜査をし、動いてくるはずだ。こんな大きな歓楽街を一人の少女が牛耳っているなんて…、夢にも思わない。
このミラって言う少女はその幼い見た目を利用して、不審者とは疑われずにあらゆる所へ侵入し、組織の偽情報を漏洩させたあと、警察の突入機会を与えて、陽動して違う人間を誤認逮捕させる…。
(家出売春少女に化けた彼女の存在を軽く見ているから、警察の制圧が失敗する。これでは偽のトップを捕まえても捕まえても、黒幕にたどり着かない。まさに影武者作戦だね、忍好きの恵麻がこれを聞いたら喜びそうだよ…。)
特殊な能力を所持する人間の中でも、一部だが、恵麻や瑠奈みたいに大人の頭脳をはるかに超えてくる天才児が生まれてくる。頭が良いと言う事は、人を統べる資質があるし、闇落ちしていたら、より厄介な存在へ変わる。
養女で血の繋がりが無い恵麻は何だかんだで姉妹の中で一番、私に従順だし、闇落ちの心配はしていない。瑠奈は普段から破天荒で母親の私と似てて隠し事が出来ないタイプだから、闇落ちしたら…、自分で大魔王だと宣言しそうだし、すぐに分かるだろう。
でも、このミラと言う少女は、私みたいな親に恵まれていないから、とっくの昔に闇落ちしている。自分の高い能力に溺れているからこそ、私に勝てると踏んで、再び、現れたのだろうと考えていたが、
「ねえ、し~ちゃん。私と組まない?」
しかし、彼女から飛び出した言葉は「組まない?」と言う、意外な一言だった。
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