第331話 場の雰囲気が犯罪意識を薄れさせている

 日本にいない間で、一大歓楽街へと変貌した街が目の前にある。でも、私みたいに、か弱そうの女性が歩いていても、直接襲われる事は無い。


(普通の市内よりも、ナンパされる数は多くて、内容もスゴいけど…。)


 16歳の見た目に白ギャルメイクの影響で、完全にアホな子だと思われて口説かれていた。相場は三万円から五万円までで、床の間のお相手をする売春婦、それが今の私の一晩の相場みたい。


(改めて、アホな私と瑠奈はちょっと似ているのかも…。)


 自分を若くて可愛いと思い込み、アホな子のフリをする私は、爆弾娘の瑠奈にソックリだった。


(客観的に見ると、かなりイタイ女。まあ、演じている本人はそのイタさに気付かないモノだけどね。)


 アホな子の私は群がる男たちと楽しく会話をして、上手く若者たちに混じる形で、私が本当に売春しないように、別の誰かに流されて、連れ込まれないようにするため、上手く交わしながら、情報を集めていた。


(なんか、ほとんどの幼い若者たちが笑顔なのが…気になる。)


 しばらくはダラダラしながら、楽しそうに話している若者たちのグループに混じって、世間話っぽい会話を喋っていたが、その若者たちの中にいた一人の少女が私の事を気に入ったのか、私の手を引いて「ちょ、二人で離さへん?」と声を掛けてきた。


「ウチ、ミラって言うんやけど、自分、初めて見る顔やな。なんて言うの?」


 ミラと自己紹介してきたので、「紫音って名前よ」と答えると、


「標準語やし、他所もんかいな。まあ、ウチはそないな事で嫌いになったりせえへん。し~ちゃんやな、よろしく頼むわ。」


 彼女は気さくな感じで話してきたため、私も軽い感じの雰囲気を出して、


「よろしくね、ミラちゃん。でも、なんで…私と二人で話したかったの?」


 理由を尋ねると、私の顔をマジマジと見ながら、


「し~ちゃんの顔、めっちゃ美人やから、相手を選べるやん。今日はどんな奴と過ごすんかな~って…。ほら、私って幼く見えるし、ロリ好きの会社員の人しか寄ってこうへんし、し~ちゃんが選ぶ相手の事、気になってん。」


 ミラちゃんと言うかなり若い女の子は、初めて見た私の行動が気になり、観察するために声を掛けたみたいだった。


「ミラちゃんは高校生?」そう言って年齢を聞いてみると、


「ううん、ウチは中1やで…、お小遣い欲しいから、この辺でバイトしてんねん。」


 中1って年齢相応に見えるよ?それに児童買春だよね?って思ったのだが、今はおバカな紫音ちゃんなので、法律の事はまったく気にしないように装っていた。


「し~ちゃんはいくつなん?高校生?」


 反対に年齢を尋ねられたので、普通に22歳だと答えると、


「え~、見えへんよ~。普通は19歳とか言って嘘つくもんやんか~?し~ちゃんはどう見たって高校生っぽいんやけど?」


 16歳の頃の姿の私が22歳と答えても、当然、見えない。とても、若すぎる見た目のため、成人だと言っても、信用してくれない。そこで私は4歳の娘がいると言って、スマホにある瑠奈と小春の双子の写真を見せると、


「え、ヤバ、この子ら、し~ちゃんに似てて、可愛い過ぎ~。ホンマに子供おんの?そやったら、なんでこんな仕事をしとんの?」


 当然、子供がいるのに、見た目の可愛さだけを利用して、ここで売春をしている私を疑い始めた。今さら、嘘はあれなので、旦那を寝とられた話と子供が四人いるって話した。


(一人は天才少女で、もう一人は私よりも年上女性だけど…。)


 でも、嘘は言ってない。すると、22歳の私がなかなかの不幸女と理解したのか、


「まあ、ここでこんな事をしとる奴にまともな親や彼氏とかがおるわけあらへんか…。堪忍な、し~ちゃんはアイドルみたいに可愛いから、気になっててん。でも、これで分かったわ~、ウチみたいな小遣い稼ぎの人間よりも事情はヤバかったんやな。」


 ミラと名乗る彼女は私の事情を聞いて、体を売って働く理由に納得したみたいだった。そう言う彼女も13歳?でこんな場所で年齢も偽らずに売春をしているんだから、かなりの訳あり少女の気がする。いつもの感じの知的紫音ちゃんモードは出せないため、今は家庭事情を聞かない事にした。


(まずは仲良くなって、本人が話したい空気を作って、話してくれるのを待とうかな。)


 しかし、こんな中学生の少女が普通にいるのに、誰も咎めない。行き場を失った少年少女がこの街のウワサを聞いて集まって来ている。私の見た目が若いから、変に疑われる事は無いけど、こんな特殊な場所で成人の警察関係者がうろついていたら、目に付いてしまい、バレてしまうだろう…。


「ここにおったら、夜が遅なっても、警察に補導されへんねん。ってか、真面目そうな奴が一切おらへんし、なんでなんかな?」


 迂闊に警察が入って来れない、ここの街のヤバさが子供のミラにはまだ理解出来ていないらしい。警察がいなければ、彼女みたいな訳ありの若者が集まってくる。いや、この街に入ってきた警察関係者が警察組織を裏切るのかもしれない…。


(何となくだけど、神里の母さんが16歳の姿に戻った私に頼んで来た理由が分かった気がする…。)


 恐らく、さっき話していた若者の中に、この街を仕切っている奴の仲間がいて、怪しい人は即座に密告されるのだろう。今のところ、アホな子の紫音ちゃんの裏の顔はバレていないし、神里の嫁として、前にテレビ出演した時よりも見た目が幼くなって若返っているし、あの巨乳人妻の紫音と私が同一人物だと思われない。


「し~ちゃん、もっと稼ぎたくないの?男の子たちは、何か分からない事でメチャクチャ儲けているらしいけど、絶対に詐欺とかしてそうだよね。お小遣いがたくさん貰えても、やっぱり…犯罪は良くないよ。」


 いつもの私なら、児童買春と言う犯罪に加担する彼女に、君のやっている事も立派な犯罪…だよ?って言いたいのだが、今はアホな子の紫音ちゃんなので、


「だよね~、犯罪は良くないよね~。」


 と言って、未成年者の体を売る、買春と言う犯罪行為を今は黙認する事にした。


「でしょ?真面目に男の人とエッチする仕事をしているウチらまで、変な目で見られるやん。ホンマに止めて欲しいわ。」


 これは無邪気と呼んで良いのか、無知と呼ぶべきなのか、分からないが…そんな行為が当たり前で許されているこの街の雰囲気が少年少女たちの犯罪意識を薄れさせているのは間違いないと確信していた。

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