第330話 裏で暗躍する彼は紫音が嫌い

 新たな依頼は無法地帯への潜入と詐欺の受け子たちが失踪する理由を探すことらしい…。


 最早、今回の場合、霊は関係ない気がする。恵麻にお母さんは見た目が良いから、すぐに男が群がって来るよって言ってたけど…、


(お母さんは見た目だけじゃ無いよ?中身も結構、自信があるけど…。)


 白ギャルみたいなファッションに髪の毛をブロンド色に染められた私の見た目は、かなり素行の悪そうな女子高校生へと変わっていた。そして、無法地帯と言われている地域へ送り込まれるとそこには、歓楽街に近い場所が広がっていた。


(市税とか、街ぐるみで丸々、踏み倒してそうだね…。かつて、警察が強行手段を取ったが、軽く負けたって聞いたけど…。)


 普通、警察組織が民間人に負けちゃダメでしょ?それとも、ここには戦闘経験ある軍人でも多数いるの?潜入捜査をしていた警察関係者が全員行方不明になったらしいけど…、それを私一人で相手取るってヤバくない?


 警察関係者が行方不明になる理由は恐らく、快楽に嵌められて、闇落ちしたんだろう。じゃないと、いつまでも手出しできないなんて事はあり得ないからね。


(マリアみたいな、異性を魅了する能力者がいるのかも。異性を完全に支配するあの力は、一般人じゃあ、太刀打ち出来ないもんね…。)


 猫の魂をぶち込むまでの教祖マリア様は、異性を魅了して宗教施設に巨大犯罪組織を作り上げていた。そこをブッ壊したのも私だし、確実に過去の実績から、犯罪組織を壊滅させる破壊要員として、神里家や本部に私の力が採用されてるようだ。


 取りあえず、情報を仕入れないとダメだけど…、迂闊に動けばここの悪さをしている奴に存在を知られてしまう。裏に詳しい人間が味方にいれば動きやすいけど、こんな場所にいる奴なんて、大概…。


「君、どこかの新人?ウチで働いてくれたら、良い値を出すよ?」


 こんな感じで変なキャッチをしてくる、ホストみたいなチャラい奴ばかりだ。


「おじさん、アタシってマジでカワイイでしょ?一番儲かる所を紹介してよ。」


 私はおバカなギャルを演じながら、金払いの良い所を紹介しろと聞くと、


「うんうん、だから、良い値を出すよ?とりあえず、こっちで話をしよっか?」


 どうやら、目の前の奴は路地裏に連れ込んで、私を襲うつもりらしい…。この街でいきなり目立つ行動もしたくないし、おじさんは私のタイプじゃないし、路上でそう言う事をした事が無いし…、どうしようかを考えていると、


「ウチの商品に手を出さないで貰えるか?」


 聞いた事がある声がしたため、振り返ると…、闇社会に生きる彼と再会した。


(あっ、名前を教えてくれないイケメンさんだ。)


 まだ、こう言う業界にいたのかと呆れていたが、彼は私とって、情報屋的な存在なので、


「あっ、ダ~リン、変なおじさんに絡まれたの~。今すぐブッ殺してよ~。」


 甘えながら、かなり物騒な事を言うと、私たちがヤバい奴だと感じたおじさんはすぐに逃げていった。


「ありがとう~、ダーリン。お礼はキスでも良いかな?」


 彼は顔も心もなかなかのイケメンさんなので、私のキスが欲しいかと聞くと、


「巨乳人妻や清楚系女子大生、今度は白ギャル高校生か?お前はどれだけの顔を持ってるんだ?ここで何をしている。お前の来る場所じゃないだろ?」


 会うたびに顔の違う私を見て、彼は疑いの目を向けてきた。


「ダーリンは前から、私を淫乱呼ばわりしていたもんね~。ダーリンさえその気なら、私を奥さんにする?バツイチの子持ちだけど…。」


 彼の表の顔はイイ人なのは知っている。私がそう言って、色仕掛けすると絶対に、


「お前みたいな、得体の知れない淫乱女を信用できるか。くれぐれも騒ぎを起こして、俺の邪魔はするなよ。」


 私を淫乱女呼ばわりしてくる。どうやら、彼がやっている事は前と変わらずに悪役を演じながら、この生活を抜け出したい若い女性をこっそりと助けているようだった。


「あなたの周りで行方不明になった人間はいないかな?」


 とりあえず、訳ありの若い女には優しい彼に依頼の件を聞いてみると、


「知らね~よ。俺は足を洗いたい女しか手助けしないからな。犯罪に手を染めていなくなる野郎なんて、ヤバい奴決定だ。ここでいなくなるって事は、犯罪組織の命令に逆らう奴か、犯罪組織に深く関わり過ぎて、敵対組織に身元がバレた奴だろ?」


 社会的な弱者の女以外は管轄外と言った彼は、私に対して、女ならここでは売春以外はするなよと告げて、闇に消えるように去って行った。


(私の事を本気の淫乱な女だと、思ってるのかな?)


 恐らく、彼は私に関わる事で厄介な犯罪に巻き込まれると察知して立ち去った。彼は自分の立場が危うくなる事まではしない。私に構う余裕が無い、それくらい闇が深い地域なのを理解した私は慎重に動かないと身が危なくなる事を実感した。



 ここは社会の底辺にいる男女が唯一、過ごせる場所。若い女は男に体を売る事で生計を立てて、男は凶悪犯罪に手を染めて堕ちる。元々、難のある家庭で育ち、満足な教育や教養が身に付いていないため、ここを離れられずに悪い事をして暮らすしか無いのだ。


(売春以外はするなと言っていたし、体を売るのはまだ軽い方なのかな?彼は私みたいな体を売れる女は、詐欺などの犯罪組織化されている人間には関わるな…、って警告したの?)


 つまり、行方不明者が出ているのは、詐欺をしている男性が多いって事だ。貧困女子の中には体を売りたくない女性もいるだろうし、そう言う人は詐欺事件に加担する。あとは、年齢的に体を売れなくなった女性が犯罪組織に入る。そんな最悪の事態になる前に、彼は社会的弱者に当たる女性へ手を差し伸べて、ここから密かに抜けさせていた。


 詐欺事件に関わる人間が中心にいなくなる…、犯罪全体を狙うのでは無くて、凶悪詐欺をピンポイントに何者かが狙っているみたいだ。



 それから、その地域をしばらく歩いて様子を見ていたが、見た目が整う若いギャルの私には売春関係の人間しか、声を掛けてこない。だからと言って、ここは強姦に遭うまで治安が悪い訳でも無い。


(ここを締めている人間がルールを定めているのかな?強盗みたいな犯罪が起こる気配は無い。売春相手を求めて、普通の会社員っぽい人も歩いているし、そんな人を暴行して、カツアゲみたいな事が起こっても不思議じゃないのに…。)


 ここでは、アメリカのスラムみたいな、目に見えた犯罪が起こらない事に驚いていた。統治している奴が独自のルールを作り、それを違反する者に厳しい制裁を与えているから、無法地帯でも、強盗殺人みたいな犯罪が発生しにくいようだ。


 不可思議な街で、情報が足りない私は引き続き、売春目的のフリをしてこの街を練り歩く事にした。

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