子供たちも生きにくい世の中

序章 新たな社員は居候してくる

 肉体のピークは人それぞれだと思う。今の私は6年前、16歳の姿になっていた。


(どう見ても、今は未成年者だよね。数十年経ってもこの姿だったら、どうしようか…、それから、そろそろ手を離して欲しい…。)


 今の私は不老不死疑惑の体に悩み込んでいたのだが、その他にも別の悩みがあった。それは…彼女の事だ。


「なんなのよ、その目は。あなたの娘が東京から引っ越してきて上げたんだから、もっと喜びなさいよ。」


 言い方が若干、上から目線の彼女はそう言って、私の手をギュッと握りしめて離してくれない。


「ミーナちゃんもハルたちと暮らすの?」


 私の膝の上で上機嫌な小春が、東京から会いに来たと言っている富川 美南さん(ミーナ)に尋ねると、


「うん!ハルちゃん。私も紫音の娘でしょ?だから、これから一緒に住むの。」


 私よりも背が高く20代半ばの彼女は、一度、幼稚園児ぐらいの若返りを経験してしまい、元に戻ったのだが、その時に受けた脳や心の幼児化の影響を受けた。私を母親だと認識していた。幼児化の影響は仕事面でかなりの悪影響を及ぼして、彼女は職場から逃げ出してしまい、私に会いたいと泣き出したらしい…。


 どうしようも無くなった家族が神里の母さんに相談した結果、富川さんを京都へ連れて来た。そして、こうなったのは私の責任だと無理矢理押し付けてきたのだ。


(私はあの事件を解決した立役者だよね?なのに…なんで私のせい?)


 あまりに理不尽過ぎるため、抗議をしたが、彼女の気持ちはすでに私へと向けられていて、小春のように甘えてくる。


「紫音の所でなら働けるわ、ずっと一緒にいられるもの。」


 白河家の仕事をすると言ったので、


「ありがたいお話なのですが、白河社長に聞いてみないとダメなので…。」


 ベタベタされると仕事に支障が出るため、やんわりと断った。そんな他人行儀の私に断られた彼女は突然、涙を流し始めて、


「紫音が、紫音が、拒絶する~。私は大人だから、可愛くないし、イラナイんだ!」


 そう叫んだあと、彼女は大きな声で泣き出してしまった。そんな事があり、膝の上に大人しくしていた小春までも、彼女の気持ちに同調させるように、泣き始めてしまうと、騒ぎを聞き付けたマリアがものすごい勢いでやって来て、


「おい!紫音!大きい声で子供を泣かせんなや!児童虐待で警察呼ぶぞ!」


 マリアの耳は良く聞こえているため、甲高い声で泣く二人を心配して、いつもよりも激しく怒り、私に「謝れ!ドアホが!」と、怒鳴り付けてきた。


 収拾が着かなくなった私は、美南さんを優しく抱きしめて、落ち着かせたあと、子供をあやすように謝罪した。膝枕をしてあげると彼女は泣き疲れて眠ってしまい、同調した小春も泣くのを止めた。


(小春が泣くなんて初めてだよ…。)


 感情の起伏を表現出来ないはずの小春は人の気持ちに寄り添って同調したら号泣できるようになる事に驚いていたが、感情の表現をする方法が見つかった事に安堵していた。


「ママ、ミーナちゃんをイジメないで、ママの家族だよ。」


 小春は必死で彼女を守ろうとしていて、目をウルウルさせたまま、初めて私に反抗的な発言をしてきた。そんな…彼女のために必死な娘を見て、


「大丈夫よ、この子もウチの娘になる。もちろん、一緒に暮らす。小春のもう一人のお姉ちゃんよ。」


 彼女のすべてを受け入れる、その事を小春に告げると、満面の笑顔で喜んでいた。



 翌日、彼女を仕事場に連れて行くと、


「美南ちゃんって言うんやね、よろしく頼むわ。」


 神里の母さんがすでに手回ししていたらしく、彼女の白河家への就職を斡旋していた。受け入れられた彼女は上機嫌になり、私にベタベタ引っ付いてきていた。


「母親のあなたは私を育てる義務があるのよ。」


 大人の容姿で、子供っぽい発言ばかり繰り返す彼女に、絢美社長はうんうんと頷いたあと、


「そら、そうやな。紫音ちゃん、これからは気張りや~。」


 すべてを深く考えない絢美さんは彼女を無条件で雇っていた。


(絢美さんに人事を任せたら、ほぼ全員採用しちゃいそう。絶対、詐欺に遭うタイプだ。)


 絢美さんは新入社員になった富川 美南さんと私に早速、依頼をこなすように告げて来た。その内容は…、


「そや、紫音ちゃん。詐欺の受け子ってやった事ある?」


 仕事に関する話なのか、絢美さんが私に聞いてきたので、「ありませんよ、やったら、警察に捕まりますよね?」と言って、呆れながら話を返すと、


「そや、普通は警察が捕まえんねん。せやけどな、最近は警察が捕まえる前に失踪してまうねん。」


 こう言う事件が起こると組織の末端が捕まっても、もっと上の悪い奴は捕まることなく、真相は闇の中になる。しかし、捕まる前に行方不明とは何故だ?また、クラゲの仕業なのか?と考えていると、


「ほんでな、ここからが問題やねん。本部も警察も安易に手出しできへん土地がここにはあんねん。そこはな…。」


 絢美社長がそう話そうとすると、急に私の背後へ人が回り込んで来た。


「ああ、紫音はやっぱり、この頃が一番可愛いわ。」


 私の背後を安易に取れる数少ない人間、神里 桜子が私を抱き締めてきた。


「母さん、止めてよ。それから、白河家に来ないで!」


 離婚させて、追い出した息子の元嫁の所へ安易に来るなと告げると、


「紫音が女子高校生に戻ったって聞いて、適任だと思ったから、依頼してきたの。あなた、家出娘の売春婦として、あの無法地帯に潜入してね?」


 そう言ってきたので、無法地帯とは?と聞くと、


「警察も私たちも長峰さんの所も手出しできない地域があるのよ。そこに、あなたが潜入するの。早速、準備なさい恵麻。」


 そう言って、事務をしている孫娘の恵麻に指示を出すと、


「私の祖母だからって、勝手に命令しないで。私に指示をして良いのはお母さんだけよ。それを忘れないで。」


 桜子が嫌いな恵麻は直接の指示を突っぱねて拒絶したあと、


「お母さんの見た目なら、相手は必ず油断する。それを利用して、真相に近付いて欲しい。それが社長の考えみたい。」


 恵麻がそう話すと、「そや、任せたで、紫音ちゃん。」と言って恵麻の意見に同調した。


(絢美社長はうんうんと深く考えない所を全面に出して、恵麻の言った事をそのまま自分の言葉に置き換えちゃったよ。)


 と言う流れで、私は無法地帯化している地域へ行くことが勝手に決まり、改めて、仕事に関しての拒否権などは存在しない事が分かった。


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