終章 死なない体と真相の裏側

 白河家に戻った私は絢美社長への報告をしようとしたが、前社長と出掛けているらしく不在だった。なので、私は未央の元へ行き報告をしていた。


「不老は素敵な体だけど、私も不死はゴメンだわ。」


 10代後半姿に戻った私の体を見ながら、いつもは若さを僻んでくる未央なのに、何故だか、同情に似た表情で私へ話してきた。


「人は死が近付くと、無意識に生存する事を望むんだけど、不老不死の体になると、死ぬ方法を自ら探し求める。死のうとした年配の方たちも怪物に取り込まれる瞬間は生を望んだはずだよ。」


 人が人である限りに、最後は死にたくないと脳よりも体が望むはずだと言う事を語ると、


「でしょうね。人間だもの…。老けない、死ねない人間は生物とは呼べないわ、怪物や神などの神仏に近い存在よ。あなたは永遠の生を耐えられる?周りが老けて死んで行くのに、自分だけは変わらないまま…。橘 紫音はそんな人生を歩んでいた。そして、老けない死なない呪いの体にいるあなたが次はそう言う目に遭うの。」


 未央は自分の若さへの執着は死ねない体を見ていたら冷めた事を明かして、いつもよりも優しく接してくれた。


「そうだね…、この体がある一定の年齢をループし続ける体だって、神里の母さんは知ってしまった。だから、後継者であったとしても、人の理に反する生き物はいらないと感じて、自分の家から追い出した。その血を引く瑠奈と小春も一緒に…。」


 さすがに不老不死に関わる生き物を家系へ入れて飼うわけにはいかないと感じた母さんは蓮と離婚させて、離婚協議の契約上、神里家への立ち入りを禁じた。


(まあ、私の能力を完全に継承する事は無い瑠奈や小春が不老不死って訳じゃ無いから、私だけでも追い出せば良いんだけど…、念には念を入れたって事かな…。なら、不老不死の過去をどこで知った?やっぱり恵令奈から聞いたのかな?)


 すべての記憶を取り戻したと言っていた元の紫音から聞いたのか、それとも…自分の長年の感でこの嫁の体はおかしいと何かに感付いた。


(それなら、あんなに好きだって言っていた私を突き放した理由も納得が行く。)


 そんな事を考えていると、


「まあ、ウチは構わないわ。一生、社員としてコキ使えるもん。美空が大きくなっても、私が死んでも、白河の家を守ってくれそうだし。例え、後の子孫たちが死んでも、あなたなら、ずっとここを守ってくれる。」


 未央はその程度の理由で、娘の私を突き放すつもりはないと言った。


「ありがとう、未央お母さん。」


(一生、コキ使うって私は死なない前提なのかな?)


 少しトゲもあるけど、今の私を理解してくれて、追い出さないと言ってくれた、育ての母親に感謝の言葉を話した。



 本部の依頼について話す事にすると、


「今回もしてやられたって感じかしら?本部の刷新のため、多くの高齢者に紛れ混ませて密かに重鎮たちを処分した。姥捨て山を人工的に作り、騒ぎが大きくなる前に事態を収拾させた。あなたと私たちを使ってね。」


 未央も本部の自作自演じゃ無いのかを疑い始めた。


「確かに可能性は高いかも…、あの長峰って女性がトップになってからは、旧幹部と若手の衝突が度々起こっているらしいし、それに神里の母さんが神里グループから人を派遣して手を貸しているって聞いた事があるもん。愛華やマリアのお父さんも引退したらしいし、ヘタレの岡崎さんは完全に今の本部のトップ、長峰さんの忠犬みたいだし…。」


 私の生着替えを見ようともしなかった彼は義理堅い所があるため、女性人気が意外と高い。(恵令奈の時に口説かれ続けたから、私は嫌いだけど…。)


「一哉さんは死にかけの所を紫音に助けられて、少し変わったわね。父親が死に、弟は闇落ち、辛い経験を積んだ彼は前よりも信念を持ち、警察を辞めて家業を継いだ。今は同派閥のあの長峰って女豹の手駒だもん。まあ、紫音が杏奈ちゃんと一哉さんをくっ付けたから、彼がまともになったのは間違い無い事実だけど…。」


 同年代の親戚の成長を喜んでいた未央は、


「例え、老いを感じていたとしても、人にそそのかされて、死ぬと何も残らないわよ。ましてや奇妙な生物の力の一部として取り込まれた人間の魂に帰る場所なんてなかった。」


 老いる事を拒絶して、生物の一部となってしまった者たちを批判した。


 自ら死を選ぶ気持ちが分からないでも無い。衰えていく体に希望を持てず、諦めた結果、あの生物の体の一部としてその生涯を終える形を取った。もちろん、生きる事を諦めなければ、あの生物に引き寄せられて連れ込まれる事も無かった。アレは不安や絶望する気持ちを何よりも好んで食する生き物だから…。



 会社への報告を終えた私は瑠奈たちを迎えに行くと、小春はいつもの尻尾芸を(日向いわく、同じカテゴリー)ケモミミのマリア先輩に見せていた。


 瑠奈は仲良しの美空と幼稚園児なのに、年上の男性に口説かれているとか、なんとか言っている増せトークに花を咲かせていた。


(同じクラスの組では、知的な美空と親しみやすさの瑠奈、そう呼ばれていて、互いに双璧を成す人気者って言っていたけど…。)


 どうやら、その人気がクラスの子の兄たちにまで及んでいるらしい。


(二人とも、精神年齢は女子高校生ぐらいはありそうだもん…。それはモテるよ。)


 そんな二人が、10代に若返った私を見て、


「瑠奈たちを産む前の若い頃のお母さんって、さらにカワイイ!」


 たった6歳ほど若返っただけなのに、瑠奈の反応がいつもと違った。


「紫音お姉さま、美少女過ぎです…。」


 美空はうっとりしながら、私の事を美少女と呼んでいて、こちらも昔の姉の姿への反応がまったく違っていた。


(やっぱり、紫音の体のピークはこの年齢って事か…。)


 人の容姿が一番良く見える年齢はそれぞれ違う。20代後半が一番輝いて見える人もいれば、今の私みたいに10代がピークの人間も存在する。つまり、この体のベストの状態は16歳だと言うことだ。


(確かに、これから胸やお尻がさらに大きくなっちゃって、ボディバランスが崩れちゃうからね。)


「あのクソ男に汚される前のお姉さま…。私がお姉さまをお守りすれば、お姉さまの美しさは永遠になるのよ。」


 美空が16歳の頃の私を見てブツブツと怖い事を言っていた。どうやら、老い以外にも、蓮との結婚生活が私の容姿を劣化させたと思っているらしい…。


「瑠奈たちを産む前だから、オッパイも大きくなっていないし、それなら、顔を見てもらえる。お母さん、瑠奈と体を交換してよ!」


 瑠奈は若い頃の母親の容姿がとても気に入ったらしく、体を交換しろと迫って来た。


(二人とも、もっと、幼稚園児らしく過ごしてくれないかな…。)

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