第333話 最近の子供たちはとても個性的

 悪い予感は当たっていた。この目の前にいるミラと名乗る少女こそが、この街を束ねる長だった。犯罪者すら自分の街に匿い、自らは児童買春を行う場所で男を誘っている。そんな彼女が私に手を組まないかと誘ってきた。


「ミラちゃんの目的は何?私と組んで何がしたいの?」


 母さんならともかく、私が犯罪者と手を組むなんて事はあり得ない。それでも、相手が少女のため、事情を聞いてみる事にした。


「ウチ、し~ちゃんの事が気に入ってん。ほんでな、まともにやり合ってもし~ちゃんには勝てへん事も悟ってん。ほなら、こっちも何かしらを譲歩せなアカンやろ?どや?ウチの仲間になれとは言わへんし、そっちの調査には協力する、どないや?」


 どうやら、こっちの仕事についてはある程度、頭に入っているらしい。少なくとも、今回の詐欺の行方不明は彼女たちの仕業では無さそうだ。だから、その原因を探す必要性があると言う点では、私と利害が一致するって所かしら?


「そうね~、詐欺事件を起こして、悪い事をしている子たちに自首するよう、説得してくれたら…、あなたと組んでも構わないわ。」


 娘を持つ私が悪事を起こしている人間に譲歩するつもりはまったく無い。そもそも、法律的にアウトな行為をしている本部や神里の母さんよりも私は犯罪行為にかなりうるさいし、犯罪者を見逃すような真似はしない。


 態度を軟化するつもりの無い私に、


「し~ちゃんは視野が狭いのが欠点って所やな。ウチを捕まえてもなんも出えへんし、詐欺事件をしているのもウチやウチの知り合いやない。ソイツらがここを本拠地に置いているのもまったくのデマや。警察や霊能本部の大きな組織の言う事なんかを安易に信じんな。」


 彼女は大きな組織が発する、偏った情報を鵜呑みにするなと言われた。


(ミラちゃんは悪い子じゃ無さそうだけど…、良い子って訳でも無いよね。)


 ウチにも頭の良い子供は二人ほどいるが、どちらも母親の私を少しバカにするような発言がある。


(恵麻と瑠奈を足して2で割った感じになるのかな…。どちらにしても、彼女が高い知能を保持しているのは間違いないから、相手の仕方を間違えると、厄介な存在になるよね。)


「その譲歩とやらの件だけど…、ミラちゃんが悪い事をやめて、私の娘になるって事でどうかしら?ウチの長女と次女なら、ミラちゃんと話が合いそうだし、ここにいるよりも楽しいと思うよ?」


 この街の頭脳、ミラちゃんがいなくなれば、悪いグループは解散すると踏んだ私は彼女を自らの家族として取り込んでしまう事を考えた。そんな私の提案に彼女は、


「ウチの事を取り込んで、丸々、この街を手に入れる気やな。かまへんで、まあ、どのみち…どこか巨大な組織の傘下に入らなあかんし、このまま放っておいたら、仲間がもっと悪どい集団に取り込まれるだけやしな…。ここいらが潮時っちゅうやっちゃ。」


 彼女はアッサリと提案を受け入れたが、


(私の一家は巨大組織じゃないよ…。むしろ、神里の嫁でも無いから、すぐに睨まれて潰されそうな、裸同然の一家なんだけど…。)


 私がそんな事を考えていて、思わぬ方向へ進んだ事に悩んでいると、


「お母さん、それでいい。私が児童保護の施設を用意するから、彼女たちの仲間の居住地の確保と将来の人生形成は任せてね。ばあばとは格が違うって所を見せてあげるよ。」


 恵麻が私との親子無線でそう言ってきた。


(え~、恵麻、全部聞いてたの?どの辺から?)


 ずっと黙って母親の事を傍受していた娘に尋ねると、


「ほぼ最初から聞いてたよ…。お母さんがイケメン君に助けられて、それをきっかけに関係を迫ろうとしたりしてたよね?お母さんって、ああいう、口が悪いけど根は優しい不良イケメンに弱いの?それと…養子の子供を増やすのは構わないけど、お母さんの長女は、私って事だけは譲るつもり無いからね。」


 喋る事だけ話すと、恵麻からの通信が切れた。


(う~ん。天才の我が長女は本当に抜かり無いよね。離婚して神里家を出た私に代わる神里家の跡取りだもんね…。)


 私名義で新たな組織を作ろうとする我が家の長女の頭脳は、いつも私の理解を越えてくる。ミラちゃんに恵麻が居場所を確保する事を話すと、


「し~ちゃんの娘は優秀なんやな。ウチも負けてられへんっちゅう事やね。」


 彼女はそう言うと、私に付いてこいと告げた。



 彼女に付いて行った先にあったのは、見た目の古いアパートで、その一室に入ると…、恵麻の部屋みたいな、電子機器で埋め尽くされた世界が広がっていた。


「ウチは独自のAIシステムで街を監視して管理しとるもんや。一見すると、無法地帯でも、この街で起こる事は全部、ウチに筒抜けっちゅう事や。」


 彼女は私に話をしながら、そこで作業をする高校生ぐらいの男性二人と変なぬいぐるみを抱いて座る少女を紹介してくれた。


「コイツらがウチの仲間や。四人でこの街を管理してるなんて…笑えるやろ?それだけ、人よりもAIの方が信用できるっちゅう事や。」


 ミラはここの三人以外でこの街をAIが支配されている事実は知らないと言っていた。


(少年二人は、プログラマーやハッカーだと思うけど、問題はこの不思議な雰囲気を持つ少女だ。年齢は小学校の低学年っぽいけど、何かの能力者で普通の人間じゃない。)


「ミラ、えらい俺好みの女を連れてきたやんけ。可愛いし、見た目からして、金を出したら、すぐにヤらせてくれそうやな。」


 一人の少年は白ギャル姿の私を完全に売春婦だと思っているようだ。そんな彼に、


「ジェイ、君は相変わらず、女性の情報を視覚だけで判断するのか?彼女は我々の界隈で有名なあの神里 紫音だよ、22歳。今は離婚して橘って姓を名乗っているはずだ。かなり若く見えるけど、実は三人の子持ちで立派な成人女性だ。」


 もう一人の冷静沈着そうな彼は私の身元をすべて知っていて最近の情報まで明かしていた。それを聞いたジェイと呼ばれる彼は、


「そのなりで22歳の中古品?見えね~、やっぱ、女って怖えな、メグ。」


 バツイチ子持ちの私を中古品呼ばわりして、ぬいぐるみを抱き締めているメグと言う少女に聞くと、


「そやな、女はアレや、アレ。なんやったけ~、メグ。」


 メグと呼ばれている少女の代わりに変なぬいぐるみが低い声で喋りだした。


(ぬいぐるみが喋った!しかも、声が太いし、全然、可愛くない。)


 この街を支配する未成年者の四人はどの子もなかなかの曲者揃いだと、彼らの一言ずつの会話で私は理解した。

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