第327話 狐娘になった紫音
小春の力を借りて、狐人間になった私は、本家の小春よりもフワフワで九つに別れた尻尾をなびかせて、その稼働域を確かめていたら、
「紫音ちゃん、そろそろ、戸を開けてもエエかな?」
男性の前でも、堂々と着替える私に対して、目のやり場に困った岡崎さんは瞬時に隣の部屋へ移動して、待っていたらしく、扉を開けても良いかを聞いて来たので、
「あら、今は人じゃないし、狐の着替えなんだから、見ていても良かったのに…。これなら、浮気の心配が無さそうだし、杏奈も幸せね。」
情報を集めてくれた岡崎さんへのご褒美、私の生着替えを披露したのに、わりと硬派な彼は私が着替えると分かった途端、部屋を飛び出して行っていた。男性を見ると誘惑する発言をしたくなる私に、
「お母さん…、魅力が増して、より淫乱になっちゃったね。」
少し性格が変わってしまった私を淫乱呼ばわりする恵麻に、
「大丈夫、目的は忘れて無いからね。」
早速、この世とあの世の境を調べると、あっという間に九尾の力で関知し始めて…。
(スゴいな、小春にあれぐらいのポテンシャルがある事は東京の件で分かったし、それを私が使うと、どうなるのだろうと思っていたけど…、これは私の想像を遥かに越えちゃっていたよ。)
力のコントロールは難しいが、今の私なら平気だった。
「お母さん。今回は絶対に生け捕りだよ、分かってる?小春みたいに燃やさないでね?」
相手を見つけても、生け捕りしろと言って来るので、
「うん、恵麻、一応、私との回線は繋げておいてくれない?小春はいい子でお姉ちゃんたちとお留守番しててね。」
微笑みながら、小春を優しく撫でた。
「ママ、早く帰って来てね。」
私そっくりで従順な小春は母親の言う事を守ってくれる。
「今回はウチも付いてくわ。人間の年寄りを大量虐殺する奴に興味があんねん。きっと、イケ好かん奴やろうし、紫音一人やと心配や。」
マリアは私に付いてくると話したら、
「もちろん、僕も付いてくよ。君の娘の部下で超したっぱだからね。」
岡崎さんも付いてくると言ったのだが、
「役立たずは要らへんし、杏奈の旦那やったら、壁にもできひんやん。」
壁にも出来ない役立たずはいらないとマリアが岡崎さんを切り捨てると、
「僕は油断しなければ、強いの。もちろん、霊に効果抜群の武器も持っていくし、自分の命は自分で守る…だよ。」
弟にボコボコにされて、自分の中の決意に目覚めた病み上がりの彼は、猫や狐の世話にはならないと話したので、
「う~ん。マリアも岡崎さんも戦うって事に関しては心配だし…。そうだ!九尾の衣をかけてあげるよ。」
私はマリアと岡崎さんのおでこに指を当てると、外敵から身を守る妖術を使い、二人をその衣で包み込んだ。
「よし!これで相手の能力攻撃は受けないはずだよ。」
尾が九つに分かれる完全体の九尾の狐の力は凄まじかった。難なく、初めての力を使いこなす私に恵麻が、
「小春が無意識に使った技を難なく、簡単に繰り出すお母さんは本当にスゴいと思う。家事と馬鹿力だけが持ち味だと思っていたし、ちょっと見直したよ。」
母親を素直に褒めて来ない娘の可愛さに気付いた私が不敵に笑いながら、近付くと、恵麻は逃げるように事務所へ戻っていった。
(年頃の子が見せてくる照れている姿、やっぱり可愛いね、恵麻。)
「ああん、恵麻が逃げちゃった~。ざぁ~んねん。さあ、行こっか。」
恵麻に逃げられた私が残念そうにしていると、
「なあ、紫音。性格があのキモい女狐に変わっとんぞ。小春の何を取り入れたら、そないなんねん。」
マリアは変わってしまった飼い主の私に聞いて来たので、
「もちろん、全部よ。マリアちゃん。その関西弁でハーフ美女の猫娘なんて、可愛い過ぎるわ~。」
そう言って、マリアの頭を撫でると、彼女はとても気持ち良さそうな顔をしたあと、尻尾を振って甘えて来たが、少し経って正気が戻ったのか、
「アカン!女狐のペースに嵌められる所やったで!寄るな、狐の臭いが移るやろ。」
マリアは好きなご主人の姿に甘えたいけど、狐の臭いは嫌と言う事に葛藤をし始めた。
「紫音ちゃんの元々のベースはそんな感じだよ。その優しそうな見た目を使って、笑顔で近付いて、相手を陥れる…。強大な妖力を取り込んで、気持ちが大きくなっていて、自分に酔っているんだよ。」
何度か痛い目に遭わされている岡崎さんは私の事を悪女みたいな感じで表現した。
「だって、私には桜子って母親と瑠奈って娘がいるのよ。ウチの家系は激ヤバ一家なの。」
そう説明すると、二人とも「それもそうだ」と言って納得してしまった。
(嫌われ者ツートップの名前を出すと、納得しちゃったよ…。そろそろ、真面目にしないと、私の評価があの二人に並んでしまうよね。)
急に酔いが覚めて来たため、私は九尾の力を使いゲートを探し始めた。一つ一つをしらみ潰しに探しているとやがて、強大な何かがいる場所を発見した。
そのゲートを狐の獣になった私は、持っているその鋭い爪でゲートを引き裂いて、こじ開けると二人に目配せして、入って行った。
「エライ事なっとんな。何を食ったらこんなに太んねん。」
マリアがゲートの奥にいた、大きくなり過ぎて人間とは思えない風貌の生物を指して話したので、
「これが、自分の願いを叶え続けて、生命エネルギーを蓄えすぎたクラゲと融合してしまった人間の末路だよ。直接、人体と魂を捕食していたから、こんなに大きくなってしまった。未確認生物の意のままに動いてしまった人間は結果、合体して取り込まれた。これを見る限り、今は無作為に迷い込んだ人間を捕食しているだけの怪物に成り果ててしまったって感じかしら?」
そう説明すると、私たちに気付いた怪物は、触手で獲物を捕らえようと動き始めた。
「うわ!キモ!いきなり、何すんねん!」
俊敏なマリアは複数襲ってきた触手を難なく交わしていた。危険な感じを抱いていた岡崎さんは予め距離を取っていたため、攻撃を察知し、すでに触手の範囲外へ後退していて、近くで怪物の事を観察していた私は手足を掴まれて宙吊りの目に遭った。
「怪物さんは、元々、男性なの?そんなに私の下着が見たいのかなぁ~。」
冷静な態度で話していた私は逆さにされて下着が見えてしまう状態になっていた。そして、自我を失い、見境も無くしてしまった怪物は大きな口を広げたあと、そのまま、丸ごと飲み込む形で私は食べられてしまった。
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