第324話 人は利害が一致すれば、仲良くする

 瑠奈にゲートを調査させようとしたが、複数のゲート発生によって見極めが出来ず、私は別の方法を考えていた。


「お母さん、私たちで片っ端からブッ壊そうよ~。」


 瑠奈がパワープレーでの押し切りを提案して来たので、


「やっても、また別の出入り口を作られるだけだよ。悪霊の元を断たないと解決しない問題なんだけど…、相手の狩り場に飛び込むのも危険だもん。お母さんなんて、それが原因で橘 紫音として生きて行かなきゃダメになったんだから…。」


 体を変えられたのなら、まだマシな方で、関係者で命を奪われた人もかなりいる事実を語った。


 白河家の仕事は事故や自殺などが原因で死んだ人の霊を相手にする軽い業務が多いから、そんなに命の危険は無いけど、岡崎さんの家業は殺された者の恨みを晴らしたりする、命のやり取りをする危険な仕事だったり、本部は悪霊化した霊の駆除や闇堕ち能力者の捕縛及び暗殺をメインにする最上級の危険な業務のため、人間の入れ替わりがとても激しい事を前に聞いた事がある。


「瑠奈は今のお母さんになってくれたから、瑠奈たちが生まれたんだし、感謝してるよ。お母さんはラッキーだよ、その姿、超可愛いもん。」


 容姿が完璧な体を手に入れてラッキーだと話したので、


「まあ、私は元のオジサンのままでも良かったんだけど…、そっちの方が運命の人と幸せに暮らせていたかもしれないし…。」


 神里 光の時に本気で未央を好きになった。だから…今でもその時の事を考えている。その後悔があるからこそ、過去の記憶を失わずにこの体で自我を保てるのかもしれない。


 私は運が良いから、その結果…、未央お母さんも恵令奈も玲奈も幸せになってくれたし、岡崎さんと杏奈や社長夫婦も上手く行ってる。あの日向でさえ、結婚出来そうだし、恵麻も許嫁がいる。私が紫音になる事で周りのみんなが幸せになっていた。


「今のところ…お母さんだけ、ばあばに振り回されてるもんね。」


(あの母さんが何を考えているのか、未だに分からないもん。)


 娘の私が好きと言ってくるのに、幸せな生活をぶち壊す意味が何なのかを考えていると、瑠奈が知った情報を私に教えてくれた。


「恵麻お姉ちゃんが恵令奈さんの能力を見て、自分のクローンを作れるように研究しているらしいから、ばあばがお母さんにそれを知られると邪魔だと思った。だから、お父さんと離婚させて神里家から遠ざけたのかもよ。」


 私の知らない所で、神里の母さんと恵麻はそう言う研究をしていて、倫理にウルサイ私が家にいると何かと都合が悪いらしい。


(私なら、必ず阻止してくるような事をする。知られる前に近くから排除したって事?それとも、私の能力だったら、その研究に支障をきたせるぐらいの事ができるから遠ざけたの?)


 どちらにしても、恵麻が何故、母さんの悪事に加担するのかを考えていると、


「恵麻お姉ちゃんって二人いるでしょ?だから、もう一人の恵麻お姉ちゃんに一つの体を作りたいんだと思う。」


 恵麻はもう一人の恵麻に体を提供して自由にさせたいらしく、神里家の豊富な資金を使い、遺伝子研究を行っている事を初めて聞いた。


(あっ、だから、恵麻の親権だけは私に渡してくれなかったのね…。)


 恵麻が嫌いな桜子の元にいる理由を理解した私だったが、家族の事を見ていない部分がまだまだある。紫音の体がそう言う裏を知ろうとしないためか、それとも、単に私が他者に対して、おおらかな性格になってしまったのかは分からないが、今の私は深く考える事が苦手になっているって事なのだろう…。


「まあ、禁忌に近い行為の気がしなくも無いけど…、頭脳特化型の恵麻の考えている事を身体能力特化型の私には理解できないよ。」


 私たちは得意な事が全然違うため、霊が見える人と一つの括りでは表せない。どちらのタイプも確かに人よりも知能が高いが、頭脳特化の人間は脳の使用比率を高めていても脳内がオーバーヒートせずに活動出来るらしい…。


 人は脳をフル活動させると、疲れて眠たくなる。だから、ながら行動をしてはいけないんだ。私もそんな事をすれば当然、疲れてしまう。


(私は蓮さんや恵麻の裏の動きを事前に察知出来ないのは、身体能力特化したこの体に問題がありそうだね。)


「瑠奈はお母さんに似てるの?」


 瑠奈が自分も身体能力特化型の人間なのかを聞いて来たので、


「う~ん、そうだと最初はそう思ったんだけど…、違うみたい。瑠奈って、意外と視野が広いし、姉の恵麻が言っている事も理解している。身体能力も高いけど、私には及ばない所を見るとお婆ちゃん似のハイブリット型なのかもね。」


 この子は私とは違ってそこそこ性格が悪い。神里の母さんそっくりのため、その力の源は隔世遺伝ではないかと疑い始めていた。


「それは瑠奈が超天才だという証明だね!」


 瑠奈を褒めたつもりでは無かったが、かなり上機嫌になっていた。


(人の嫌がる事も平気でしちゃうし、そう言う所が似ているんだよね…。孫なのに、自分に似ていて可愛くないから、神里の母さんは、瑠奈には関心を示さないのかな?)


 能力が高いはずの孫の瑠奈を可愛がらない理由はここにあるのかもと感じたが、同時に今回のカラクリも解き明かせる気がしてきた。



(なるほど、恵麻と母さんのように、利害が一致するから、クラゲは人間に協力している。)


 真相が見え始めた私は、


「そもそも、悪霊化した霊とそれに与する人間の関係って、持ちつ持たれつ関係だから、人間社会と変わらないよ。なら、その人間を見つける事ができたら、解決するよ。」


 悪意ある事を願う人間の元を断てば、悪霊も悪さが出来なくなるのでは無いのかと考えた。


「お母さんは優しいフリをして、お年寄りに近付く人間が悪い奴だって思ってるんだよね。善意と悪意をどう見分けるの?」


 瑠奈に尋ねられたので、


「恵麻が怪しい人間をリストアップしてくれるはずだよ。それに岡崎さんからの報告もそのうち来るでしょ?それに未央お母さんから、メールで家の家事を頼まれちゃったし、それまでは家に帰って、甘い物でも食べて待っとこ?」


 私たちに出来る事は無いから、家で大人しくしておこうと話すと、


「そんなんだから、恵麻お姉ちゃんよりも稼げないんだよ?いつまで経ってもしたっぱ社員なんだよ?お母さんがそんなんだから、私も未央お婆ちゃんからダメな孫ってネチネチ言われちゃうんだから!」


 母親の私の給料が上がらない理由を指摘して、さらに私の振る舞いのせいで未央から自分も孫迫害を受けてしまうと言って来たので、


(それは瑠奈の振る舞いに問題があるからでしょ?私のせいじゃ無い。)


 口では負けるからここでは言い返さない。私は、成果を上げないまま帰りたくなさそうな瑠奈を半ば強引な感じで白河家へ連れ帰る事にした。

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