第323話 忙しい夏は周期的にやって来る

 いなくなった高齢者たち…。亡くなった形跡もないため、例年よりも霊体の転生する総数が減っている。そんな報告を本部が受けていて、その原因を私が現在調査中だ。


(岡崎さんには言わなかったけど、本部に悪い事をしている奴がいるよね。委託する形で私たちに調査させるって事はそう言う事だ。)


 確かに私は綺麗事ばかりだ。だけど…、離婚になるくらい家庭よりも仕事を選ぶのは、私にしか出来ない仕事でもあるという信念を持っているから。


「瑠奈、今回は社会福祉制度の根幹を揺るがす問題なの。もし、高齢者排除の気運が高まるなんて事があれば、次は身体障害者などの社会的弱者を排除する動きがそこに加わる。だから、お母さんはいつもより真剣に元凶を探して、止めさせようとしているの。」


 こんな事が拡散され世間に広がると、神里の母さんみたいに、必要な人間と不必要な人間に世の中を分けてしまったりしたら、世間に強い差別が生まれてしまう。


(そんなのが、あってはならない。)


 ただ、神里の母さんの良い所は、その年齢で出来る事をさせる。若い男女には子供を産めと共用するし、40歳半ばになった鈴花姉さんみたいな人間には、小さな子供の面倒を見ろと言って、玲奈の子供たちの子育てをさせている。そして、女性は更年期よりも年を取ると元気になる傾向が強いため、60代の母さんは、もう一度社会に出て社会貢献をするために働くのだ。


 つまり、女が若いうちは子を産む、閉経のタイミングはエストロゲン低下によるホルモンバランスが崩れて体調を崩したり、ストレスで対人関係に苦労するから、無理に外で働くのでは無くて、子育ての事を中心に活躍させて、その孫世代の手が離れる所で、もう一花を咲かせるために社会進出していく。


(母さんは女の生きざまを示すために男が作り出した社会の流れをぶち壊すために戦っていたんだ…。65歳定年で仕事を辞めた男が家にずっといても、何の役にも立たない。同じ年数の人生でも、男と女の進む道は違うんだ…。)



 老いは必ずやって来る。老いてから何も出来なくなる前に人は存在意義を見つけないと、老いる事を恐れてしまい、命を絶ってしまう。老いる事から逃げてしまい、自分勝手に振る舞って、周囲に迷惑を掛けてしまう。


(だから、こんな行方不明事件が起こってしまうんだ。)


 認知症が病原性の物であるなら仕方ないとは思うが、認知症を予防しようともしない人は何も見出だせなくなってしまうとすぐに命を諦める。自分の理不尽さに対して、文句だけを言い続ける。やがて、周囲が悪いと他人にその責任を押し付けようとする。



「お母さん、けっこう考え込んでいるけど、答えは出た?」


 瑠奈が思考中の私に声を掛けて来たので、


「うん、大丈夫。自分の人生最後の終わりを認めずに苦しみから逃げようとする人も、苦しみを何かに転換しようとしている人も、みんな…私が救ってあげる。」


 曲がった考えを正しに行こうと瑠奈に伝えると、


「えっ?今回の原因が分かったの?」


 彼女は首を傾げていたので、


「東京にいた、願いを叶えるクラゲと一緒だよ。あの未確認生物が体の時間を巻き戻す代わりに生命エネルギーを奪うのなら、今回は、快適な人生の終わりを提供する代わりに魂そのものを摂取している、つまり、あの世とこの世の境に何かがいるって事。」


 あのクラゲの仲間がいる事を話すと、


「日本の8月はクラゲが増えるって聞いたことある~、それの事?」


 瑠奈らしいボケが飛び出したので、


「今年は陸上に発生しているのかもね…。お盆前は特に京都市内を覆う結界が弱まる時期だから、負の栄養分を求めて、集まって来ているのかも。」


 凶悪な心霊事件が増えるのも、このお盆前…なのだ。6年前は私は恵令奈から紫音と言う人間になった。その原因を作った千年悪霊みたいなヤバい奴がいないとは限らないけど…、負のエネルギーが集まると力を増すから、気を付けなきゃ。


「コハるんを呼ぶ~?静電気ビリビリゲートこじ開け作戦する?」


 瑠奈が小春を呼んでゲートを強制に開けるかと聞いてきた。


「瑠奈、今から小春と繋がって、力を借りなさい。体を伸縮できる今のあなただったら、小春の妖力を使いこなす事も可能でしょ?」


 双子の姉妹でそれぞれの能力共有出来る事は東京で既に確認済みだ。クラゲを焼き殺したあの時、小春は瑠奈と能力共有して、瑠奈の力を使い、私の体を増幅器にして、強力な電気熱を作り出した。小春が出来るなら、瑠奈にも容易い事だろう。


 私が瑠奈にそう話すと、早速、瞑想を始めた。すると、すぐに瑠奈の頭から、ひよっこって感じで、立派な狐耳が出てきた。そしてお尻のスカートが捲り上がり、立派な二又の尻尾が姿を現した。


「うお~、これで瑠奈もキツネっ子デビューだ~。しかも、尻尾が二つある。」


 自らの意思で尻尾と耳を動かせる事に興奮した瑠奈は、すぐにスカートを脱ごうとしたので、慌てて止めた。瑠奈は尻尾が生えたので、スカートが邪魔だと言い張る。そこで私はスカートのファスナーを後ろに向けて、そこから二本に別れた大人の九尾の尻尾を引っ張り出すと、フワッとした尻尾が上手く飛び出してきたため、尻尾をフリフリ出来る事に上機嫌の瑠奈はスカートを脱ぐのを止めてくれた。


(小春は常備生えてるけど、尻尾があるって、どんな感覚なんだろ?)


「瑠奈、尻尾を振り回していないで、妖力を使ってゲートの調査してよ。」


 激しく尻尾が動いているため、てっきり遊んでいると思っていたが、


「お母さ~ん、ゲートの電磁波出過ぎてて、尻尾が止まらないよ~。」


 瑠奈は自分の意思と関係なく、尻尾を振っているらしい…。電磁波を探るのを止めさせるとようやく尻尾の動きが止まった。


(八条大橋の時に本家の九尾は私が中の世界を破壊したから、亀裂が入って瞬時に見つけられたんだったよね。なら、霊がウヨウヨしている京都では、中からのアクションが無いと本命の世界ゲートを見つけられない?)


 あの世とこの世の狭間は一つじゃないから、悪霊やそれに与する人間は自分の世界に閉じこもり、獲物を呼び寄せる。千年悪霊のように人間の体内に寄生して過ごすヤツもいるけど…、それはかなり稀なパターンだ。霊が多い分、私たちみたいな人間も多いからだ。


(悪霊からすると、神里の母さん辺りに遭遇するとゲームオーバーだもん。本気のあの人相手に一対一で勝てる生物なんて…、この世にもあの世にもいないはずだよ。)


 空間を曲げて瞬間移動してくるし、孫の小鈴いわく…ビルを破壊するって言っていたし、他にも私の知らない人類最強クラスがここにはウヨウヨしている。


(さて…、これから、どうしよっかな~。)

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