第321話 老いた人間は不要な生き物

 役所を出た私はある疑問点を瑠奈に聞くことにした。


「早速、恵麻にまとめてもらうんだけど、瑠奈、何でお母さんは瑠奈をぬいぐるみのように抱っこしたまま、仕事をしないとダメなの?」

 

 瑠奈にこの体勢はいつまで続くのかを聞くと、

 

「お母さんは抱き付き魔でしょ?瑠奈は可愛いし、そんなの瑠奈をぬいぐるみのように抱っこするお母さんも可愛く見えるもん。瑠奈の人気獲得はお母さんの可愛い仕草によって生まれるの。」

 

 瑠奈はそう説明したあと、周りを見ろと言うので見ると、

 

「何、あの親子…、可愛い~、癒される~。」


 私がキツネの耳を付けた娘をぬいぐるみのように抱く姿は、見た人にかなりのインパクトを残すようで、周囲の女性たちはもちろん、道行くサラリーマンの男性まで魅了していた。そんな人たちに偽小春の瑠奈は可愛いらしく手を振って、アピールすると可愛い物好きの女性陣がキャーキャーと言って騒ぎだした。


(瑠奈…、最早、その姿は小春への冒涜だよ。私に引っ付いている小春はいつも笑顔だけど、見られると恥ずかしがって目を合わさずに隠れるし、可愛いアピールは一切しないよ?モノマネが本家を越えちゃダメだよ。)


 小春のフリをする瑠奈のキツネコスプレは瞬く間に広がり、可愛い親子としてSNSに拡散されていた。


「あっ、お母さんも耳と尻尾を付けたら、最高だったのに!」


 そう言って、強要して来そうだったので、


「それは今度、本物の小春を抱きかかえている時にするよ。ママとお揃い~とか言って喜んでくれそうだもん。」


 キツネコスプレをしても良いけど、瑠奈とは嫌だと伝えると、


「それもそうだね。瑠奈もさすがにコハるんのポジションを奪うつもりは無いし、今日は狐耳の妹の良さを世に知らしめる宣伝活動の一貫だから。」


 これは妹のため…と話した瑠奈はそろそろ良いかなと話したあと、私に降ろしてと要求したので瑠奈を下ろすと付けていた狐耳と尻尾を外したあと、着替えてくると言って私に背負わせていたリュックから着替えを取り出して、再び役所へ入って行った。しばらくして出てきた瑠奈は女子中学生スタイルで出てきたあと、


「さあ、お母さん、そろそろ仕事をしないと恵麻お姉ちゃんに怒られるよ?」


 あたかも母親の恥ずかしい趣味に付き合わされた感じに言ってきた。


(私がキツネコスプレを強要してたみたいになってない?)


 そんな風に感じたが、突っ込みを入れると倍返しされるため、瑠奈の言う事は軽く聞き流した。


 瑠奈は自分の女子中学生の姿、このスタイルが好きだ。成人女性の姿だと、私よりも背が高くなり、母親に可愛さで負けてしまうらしく、だからと言って4歳児に戻ると歩き辛いから、私と動き回る時は私よりも少し背が低いこの姿で行動するらしい…。


「その姿でお母さん呼ばわりされると変だから、止めて欲しいけど、お姉ちゃんと呼ばれるのもやだし…。」


 聞き慣れない高めの声に大人よりも幼い顔立ち、出来れば4歳児の姿で私をお母さんと呼んで欲しいけど、この子はある程度の自由が無いと暴走する爆弾娘のため、機嫌が良く過ごしてくれるように、細かい事を言わないようにしている。


 調査の準備も整った所で恵麻から連絡があり、


「お母さん、行方不明者の家族が会ってくれるって言ってるし、北区に向かってくれない?」


 恵麻の指示を受けて、私たちはある行方不明者の義娘に会う事にした。近くのカフェで落ち合う事にした私たちはすぐにその人を見つけて、そのまま、カフェの中でお茶を飲みながら話を伺う事にした。


「お義母さんは高齢で認知症を患ってしまったんです。私も夫も仕事がありますし、専門の老人ホームで見てもらっていたのですが、その施設から、複数の方々と共に居なくなってしまったのです。忽然と消えたらしく、施設の方々も警察も行方を探しているのですが、まだ見つかっていません。」


 集団行方不明が起きた施設は現在、警察が調べているが、違法性も虐待などの犯罪の事実もなく、特に目立って問題がある施設では無いらしい。


「お義母さんには昔、お世話になったので、何とか見つかれば良いのですが、目撃情報も無くて、早く見つかって欲しいです。」


 若い女性の次は高齢者の神隠し問題だった。


(もし、亡くなっていたら、遺体を隠さない限りはすぐ見つかるはず、一つの施設で集団失踪。何かあるのは間違い無いんだけど…。この女性が嘘を付いている事もなさそうだし、施設は警察も介入している…。)


 失踪者の家族女性から話を聞いて別れたあと、瑠奈が突然、


「特別な老人ホームってある意味、不要な人間扱いを受けた人がいる所だよね。その場合、失踪していなくなった方が都合が良くないの?」


 瑠奈が社会の闇、介護される人間は不要な人間扱いを受けてる人じゃないのかと話し、いなくなってくれた方が家族は喜ぶのでは?と言い出した。


「それは的を得ているけど、家族の縁は切れないモノだから、最後まで見届けたい人も中にはいるはずだし、不要な人間呼ばわりは不適切な言い方だよ。」


 ひねくれている瑠奈の発言に不適切だと話すと、


「だって、さっきの人は遺産相続問題で行方不明者が出ると困るだけで、言葉では世話になったと言ってたけど、確実に遺体が見つかるか、生存が確認出来るかのどっちかにして欲しいって感じを出していたよ?」


 私と女性が話している間、瑠奈はずっと女性を観察して、嘘を付いていないか、感情の変化をしないかの観察をしていた。


(なるほど…、だから、恵麻が瑠奈を連れていけと言ったのか…。人を信じる派の私が嘘偽りの心意を見抜く事が苦手だから、そんな私だけでは困難だと恵麻は判断した。今回の依頼には、綺麗事を一切言わない瑠奈が必要だと、自らの給与を半分渡すと言ってまで雇用した。)


 瑠奈は神里の母さんに似ていて、人の悪意に感付き、許さない所がある。私もそれは許さないが、人の心意を見抜く事に長けていないため、騙される事が多い。最近の私は紫音らしさが出始めて、対人に甘くなる傾向があり、その解決方法はパワー任せになっていた。

 

「つまり、糸を引いているのは関係者の人間では無いって事?家族はその高齢の両親をどう思っていようが、生死判断をしていた方が良いので、高齢者が行方不明になると都合が良くないって事だよね。」


 行方不明のままだと都合が悪くなる人が多いため、関係者の人間以外が起こした事なのかな?と考えた。


(むむむ~、悪意に反応した悪霊がいないと良いけど、普通の行方不明者の数じゃない時点で、その期待は持たない方が良さそうだぞ…。)

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