第320話 数の多い失踪者と役所に勤める女性

 多くの老人が失踪している…。複数の人間の失踪と例年よりも魂があの世へ来ないと言う深刻さを受け止めた本部が、白河家の難解な業務をこなし続けた事と神里家を追い出された事で何かと騒がせている私へ依頼してきたらしい。


「ママ~、瑠奈の事、好き?」


 いつもの4歳児の姿に戻っていた瑠奈だが、何故か、狐耳と尻尾を付けていて、私に甘えて抱きかかえられていた。


(大人の姿で下着徘徊を止めたと思ったら、今度は小春のマネをして楽しんでいるよ…。私…この子の事が理解出来ない。)


 抱っこしないと全力で逃げると宣言された私は、仕方なく小さな女の子がよくやる、ぬいぐるみ抱っこを瑠奈にしていた。


「ママ、コハるんの時はもっと、良い顔をしてるよ?恵麻お姉ちゃんの忍ロボがこの動画を撮ってるはずだから、もっと、真剣に瑠奈の可愛いお母さんをしないと、動画を小春に見せて泣かせるよ?」


 体型を伸縮できる力を得た瑠奈は前よりも打算的な女になり、小春を抱き締めてる時みたいに楽しくしないと今の状況を小春に見せると脅してきた。


(三姉妹の均衡を崩すと、母親わたしを脅すな!この4歳児め!)


「成長した瑠奈は神里のお婆ちゃん似ね。私を弄ぶ所がそっくり。」


 私を嵌めて、結婚と出産、姉嫁に旦那を寝とられて離婚まで経験させた、母親にして我が最大の宿敵、神里 桜子に似ている…と嫌味を言ってやると、


「じゃあ、将来、超大物確定だね。お母さん似の美人ルックスで、頭も良くて運動神経も抜群。瑠奈はパーフェクトな女なの。」


 自意識過剰ガールの我が娘の瑠奈は自信を深めていたが、


「次に神里のお婆ちゃんが弄び、潰しに来るとしとら、たぶん…あなたよ瑠奈。」


 神里の母さんは私に歯応えが無くなったら、次は孫の瑠奈をオモチャにして遊ぶだろうと言って、自信過剰気味の瑠奈へ危機感を覚えるように脅すと、


「大丈夫だよ、最終的に紫音お母さんがばあばに勝つもん。悪はやがて、滅ぶのだ~。」


 瑠奈がたまに見せる、この母親への絶対的な信頼はなんだろうと思っていると、その後、瑠奈が話を始めた神里家の野望を打ち砕く、元嫁の紫音の活躍を描く、ナゾ過ぎるヒーロー談話を紫音本人の私に聞かせていた。


(それって、フィクションだよね?私…そんな事しないよ?)


 今はノンフィクションの物語にならない事を願うばかりだった。


(自分の身内に人間ブリーダー行為をしている時点で、神里の母さんは極悪な女だもん…。)


 子をなかなか作らないお役御免の私に代わり、今度は光と恵令奈をくっつけて子供を作らせ、愛の逃避行をバックアップして、アメリカで蓮と玲奈の子供を作らせようとする、頭のイカれっぷりに家を出て正解だと、私は感じていた。


(麻友、大丈夫かな?きっと、私のために母さんに歯向かって、元の麻友の体に戻されたんだよね…。)


 心配はしたが、今は依頼をキッチリこなさないと恵麻に叱られるので、私は本部と呼ばれる本拠地すら明かさない謎の組織の支部がある、京都市役所に着いていた。


(まさか、京都市制を隠れ蓑にして活動しているとはね…。前社長はまったく教えてくれなかったし、神里の母さん並みに闇が深そう。)


 色々あって、わりと有名人になった私が市役所に入ると、一人の女性が笑顔で娘にキツネのコスプレさせて、ぬいぐるみ抱っこして歩いている、痛い女の私の元へ来て、


「まあ、ずいぶんと可愛いキツネさんを連れていらっしゃいますね。私たちの仕事を舐めてるのかしら?」


 女性は笑顔で少し怒っていた。ウチの爆弾娘はすかさずに、


「こんにちは~、お姉さんって、とってもキレイですね。でも~、瑠奈のお母さんの方が若いし、可愛いくてキレイだけど…。」


 瑠奈は性格の気に入らないキレイな女性を見ると、すぐに自分の母親の方がすべてが上だとアピールしてマウントを取ろうとする。


(瑠奈…、仕事関係の女性へ会うたびに怒らせて、私を女性社会から孤立させるつもりなの?)


 瑠奈は私の相手に与える第一印象をすべてぶっ壊してくる。しかし、言われた女性は表情を変える事なく、


「素直な娘さんね、お母さんに似でとっても可愛いわ。さぞかし…良い教育方針で育てていらっしゃるのでしょうね~。」


 女性の声のトーンや笑顔は変わらないが、言い回しが陰湿になり、さっきよりも確実にキレている…。


「ごめんなさい!ウチの娘が失礼な事を言った事をお詫びします。本部の関係者ですよね。私は橘 紫音と申します。それでキツネの耳を付けているのは娘の瑠奈です。」


 そう言って、謝罪をしたあと、自己紹介をすると、


「まあ…良いわ、子供の言う事だし。私は役所で市民相談の担当をしています、塚原です。あなたを知ってるわ、高校三年生の時に学校へ自分の子供を連れてきたヤバい一年の美少女がいるって、当時は話題になってたもの…。」


 塚原さんは紫音わたしの高校の先輩らしい。私は一年の冬に飛び級転校したから、先輩とかと絡む展開はなかったけど…。


「早速、仕事の話をするわ、今回は市民相談で複数寄せられたモノなんだけど…、認知症を患う父親や母親が居なくなってしまったと、市民相談課で約30件ほど寄せられてるの…。家族世帯がこの件数だから、警察に行方不明届けが出ていないだろう単身世帯を含めると100件以上は起こっているんじゃ無いのかしら?」


 お年寄りがいなくなった相談が後を断たない事を話してくれた。


「私はあなたの高校の先輩だから、今や伝説級になっている、あなたと娘さんの優秀さは知ってるわ。だから、この問題を解明して、出来れば解決して欲しいの…。人手は回せないけど、行方不明者の個人情報は開示するし、よろしく頼むわね。そして、個人情報ゆえ、くれぐれもこの事は内密に…。」


 塚原さんは私への情報のやり取りは守秘義務違反のため、私たち以外の介入を避ける事と、得た情報は依頼が解決しだい必ず破棄する事を約束するように念書へサインを求めてきた。


(まあ、働いている所が役所となれば当然だよね…。)


 私は念書にサインをしたあと、彼女のまとめた行方不明者のデータを私に渡すと、何事もなかったかのように、自分の働く地域相談課に戻って行った。


(彼女は本部の息が掛かるスパイなのかな?結構、優秀そうだし…、私の事を覚えていると話したから、本部からも私の個人データを受け取っているのだろう。)


 個人データを受け取った私は、外の街路樹に止まっていた、恵麻が作った鳥型の忍ロボにデータを差し込むとそのロボの目が光り始めたあと、そのデータを転送し終わったのか、器用にくちばしでデータ入りUSBをバキバキに破壊した。


(忍ロボ、怖いよ!確かに破棄する契約だけど、その固そうなくちばしで噛み砕くなんて…。)


 母親の私よりも三倍以上稼ぐ天才少女恵麻は早期に証拠を破棄する。その行動に躊躇も抜かりも無かった。

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