第319話 産休明けの社長と麻友の行方

 世間の風当たりが変わる中、産休をしていた、白河家の現社長の復帰が決まった。


「紫音ちゃ~ん、会いたかったで~。アタシがいない間、寂しかったやろ?聞いたで~、姉嫁に旦那を寝とられて、アメリカへ逃げられたんやろ?ほんま、可哀想なやっちゃ、アタシがいい子いい子したるさかい。」


 白河家の娘、絢美さんが復帰して来るなり、私を撫でて、約6年ぶりの再会した事を喜んでいた。


「お久しぶりです。絢美さんは日焼けしてるみたいですが、産休中は畑仕事でもしてたんですか?」


 褐色の肌がとても似合う彼女は私の同系統なのだろう…動き回る事が好きな女性だ。


「そや、涼ちゃんとこの両親は結構、エエ年齢やし、息子の英斗はお義母さんに任せて、ほとんどアタシは畑仕事しててん。子育てよりもそっちの方が向いとるし、こっちに帰って来たけど、英斗は紫音ちゃんや未央姉に頼むと思うわ。」


 気さくでフットワークが軽い感じは変わらない。ただ…、


「あんたが瑠奈ちゃんやな。大人みたいに背がごっついの~。それから、小春ちゃんは耳がごっついの~。二人とも紫音ちゃん似で可愛いわ。よろしく頼むな~。」


 大人の姿で下着徘徊をしていた瑠奈や狐の耳をしている小春に対して、一切のツッコミを入れずに私の娘だと受け入れていた。


(深く考えない、こう言う所は変わらないのね…。事務の電話応対はさせない方が良さそう。)


 絢美さんはみんなを引っ張る能力に長けているが、細かいことを考えられない。6年前、引退宣言をした前社長の代わりを探していた私たちは正統な血を引く彼女を新社長にした。全力のサポートがひつようだが、社長の事務は夫の涼介さんがいるので、心配していない。それから、死ぬほど素直だ。年下の私の言う事なのに、紫音ちゃんが言うなら100%正しいと言って即決してくれる。


「で、本題なんやけど、紫音ちゃんの爺ちゃん、婆ちゃんはいくつなん?」


 私の…って、橘家の祖父母かな?


「橘家の祖父母はどちらも会った事がありません。父も母も何も話さないって事はもう、亡くなってしまったか、交流が無いかのどっちかだと思います。前に一度、聞いたのですが、答えてくれなかったので…。」


 橘家は神里家とは違い、核家族で祖父母の存在すら分からない。兄弟も親戚のいない紫音の能力は突然変異なのか、隔世遺伝なのかも分からないのだ。


(体が誰よりも家族を欲していた。だから、蓮さんの結婚の話を受けたんだけど…ね。)


 好きだけでは、結婚が上手くいかない事を改めて痛感していると、


「そら、すまん事を聞いてしもうたね。いや、高齢者の孤立が社会問題になっとるやろ?ウチみたいな家があったら、ぎょうさんの家族で住んでワイワイしとるけどな、社会ではな、マンションやアパートで夫婦のみや単身のお年寄りが住んでる家庭の方が圧倒的に多いねん。」


 絢美さんは高齢者の孤立問題を話して来た。


「でもな、最近な、お年寄りの行方不明事件が多発しとんねん。死んどったら、魂があの世へ行くやろ?それもあらへんでアンバランスな状態で、転生の数が減っとるし、本部の連中が困っとんねん。紫音ちゃんと恵麻ちゃんで原因を調べてくれへんか?」


 帰国してからの私の所には、こう言う闇が深そうな案件しか来なくなっている。


(簡単そうな事は、麻友を中心に圭司くんと陽葵ちゃんがこなしてくれてるし…、あれ?最近、麻友を見てないよ?)


 蓮の妹的存在の麻友を蓮とのケンカ前から、まったく見ていない。私も東京に行ってたり、他の依頼で忙しいし、担当が違ったから、麻友の存在をすっかり忘れていたけど、ウチの社員なのにどうしてだろう?


「未央お母さん、麻友を知らない?連絡が取れないんだけど…。」


 未央に麻友の行方を聞いてみると、


「ああ、麻友ちゃんなら、有休を使って、長期休暇取得中よ。なんか、アメリカに行って、紫音を泣かせた蓮くんを殺すって、怒り狂ってたわよ?」


 さらっと、スゴい事を言ったため、蓮がなぜ浮気をしたのかが、分かった。


(蓮さんの中身…また入れ替わってたの?)


 これで確信した。蓮の中身がいつの間にか変わっていた事に…。


 蓮の中身は血の繋がる娘の瑠奈や神里の母さんぐらいしか見分けが付かない。妻だった私ですら、魂の見分けが付かずに分からないのだ。


「瑠奈、お父さんの中身が違うのに気付いていた?」


 娘の瑠奈にそう尋ねると、


「知らな~い、だって、お母さんがケンカして以来、お父さんは家に帰らない日も多かったし、姿を見てないもん。」


 私とケンカ別れしたここ半月ぐらいは見ていなかったらしい…。しかも、家にも帰って無かった事を初めて知った。


(私って、無頓着な女だ…。蓮さんは私に怒ってずっと、別の部屋で寝てるって思ってたし、まさか、家に帰って無かったなんて…。)


 私が夫を蔑ろにしていた事が次々と発覚して、離婚されたり、浮気されるのは当然の事で、恵麻には私が悪いと言われていた。しかし、私には過去を悔やむ時間は与えられず、


「お母さん!仕事中だよ!シングルマザーなんだから、お母さんが稼がないと、瑠奈と小春を養えないんだよ?」


 今は戸籍上の家族では無くなった長女の恵麻に怒られてしまった。


「ごめん!じゃあ、いつもの感じで私が現場に行ってくるから、サポートをお願いね。」


 そう言って、気持ちを引き締めて取り掛かろうとすると、


「待って、お母さん。今日は瑠奈も連れて行って。」


 そう言った恵麻は下着姿の瑠奈に声を掛けた。


「え~。これから、恵麻お姉ちゃんを抱っこして遊ぶのに~。」


 瑠奈は不満そうに恵麻を抱っこするつもりと話した。


「私はお母さんに似たキモい思考を持つ、あんたが邪魔なの!大人の姿の時に脳が影響されて、私を子供扱いするそのキモい思考が嫌いなの!」


 子供扱いされる事が嫌いな恵麻は瑠奈の発言やこれから起こす行動にメチャクチャ、キレていた。


(恵麻…、さりげなく、母親の私までディスってるよ?)


「子供だからって、タダ働きはやだ。」瑠奈がタダでは働かないと言うと、


「じゃあ、私の給料の半分をお小遣い出すから、働きなさい。」


 そう言って、スカウトする形で雇用すると妹に交渉すると、


「え~、そんなに貰ったら、お母さんの給料よりも高くなって、角が立っちゃうし、2割だったらいいよ。」


 瑠奈は母親よりも稼ぐと角が立つと言い出して、お金を貰う側なのに値下げ交渉していた。


(絶対に二人とも知ってて、私をバカにしているよね?)


「と言うわけだから、お母さん、似た者同士の親子で調査してね。」


 恵麻は瑠奈を強引に押し付けて、事務所に戻って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る