第317話 夫婦で呼び出されて…

「お義母さま、紫音です。」ドアの前でそう言うと、「入りなさい」と言われたため、入ると、蓮さんが母さんの前に立たされていた。


「あっ…。」蓮の姿に思わずそう言ってしまうと、母さんが、


「来たわね、紫音。早速だけど…、あなた達は離婚なさい。」


 母さんが私にそう告げると蓮さんが、


「紫音、あれから少し考えたんだ…。僕は今の仕事にもっと専念したいから、アメリカへ戻るよ。だから、やっぱり妻には家庭にいて欲しい。仕事を辞める気が無いのなら、別の人に家庭を支えてもらおうと考えている。離婚をして欲しい…。」


 普通なら、そんな理由では離婚は認めないと言って、抵抗しないといけないが、


「なんとなくだけど、最近の蓮さんを見ていたら、そんな予感がしていました。私も蓮さんも仕事を優先して、家庭を省みなかったし、家庭をしっかりと守ってくれる女の人の方が、仕事の忙しい彼にはお似合いだと思います。」


 今の仕事を辞める気の無い私は受け入れる事にした。


「受け入れてくれてありがとう、紫音。じゃあ、母さん、アメリカへ戻らないといけないから、あとはよろしく頼むね。」


 彼はそう言うと、私の頭を撫でて「ゴメンね、働く君を理解してあげれなくて」と告げて、部屋を出ていった。


 残された私に母さんが、


「分かってるわね、あなたが家庭に入らないから、帰国をして一心不乱に仕事をするから、蓮を優先しないから、こう言う結果になったのよ?親権はあなたで構わないから、今月末には荷物をまとめて出ていきなさい。離婚した嫁を置いておく場所はここには無いからね。」


 バッサリと切り捨てた母さんの事を知っている私は、


「母さんはそれをヤりたいだけでしょ?嫁イビりの究極、良かったね…嫁が離婚を切り出されて、息子に味方しあと、今の嫁を追い出すって言う行為を体験できて、さぞかし興奮したでしょ?」


 そう言って、快楽だけで離婚をOKした母さんを問い詰めると、


「あら、あなたとはもう、母と子でも無いから、母さん呼ばわりをするのを止めてくれないかしら?」


 上機嫌で母とは呼ばないで欲しいと言ってきた。


(この人…マジでヤバいよ、息子夫婦の離婚を思いっきり楽しんでるよ…。)


 鬼畜な母親に呆れていると、


「本当に大好きよ、紫音。で、どうする?私の本当の娘になる?それとも、名字を橘に戻す?」


 ノリノリで名字を戻すか、養女になるかを聞いてきたので、


「橘の実家に帰ります。あなたとは縁を切りたいので!」


 キッパリと養女になることを拒むと、


「じゃあ、恵麻が私の跡取りね。恵麻の親権は当時、未成年だったあなたのモノじゃなくて、蓮の親権だから、あの子だけは…あなたに渡さない。瑠奈と小春はあなたが引き取って良いわよ。本当にありがとう、良い経験をさせてくれて、楽しかったわ、紫音。」


 母さんは親権は恵麻と瑠奈たちを別々にすると言い出した。


「あ~あ、意地っ張りの母親のせいで、姉妹がバラバラになっちゃうのね…、可哀想だな。恵麻も瑠奈も小春も悲しくて泣いちゃうわよ、きっと…。」


 娘の親権問題を盾に、私へ養女になれと脅してきた。


「分かりました!あなたの娘になりますから、恵麻たちを別々の親権にしないで下さい。」


 娘を盾にされた私はアッサリと折れた。でも、ここの養女になれば、今まで通りに子供たちは、父親の蓮が日本にいる時は会えるし、私も彼も夫婦の事で縛られる事が無くなる。これは良い決断だと信じて、それを子供たちに伝えようと恵麻たちのいる研究室に向かうと、


「うわ~、イカってこんな構造になってるんだね~。」


 相変わらず、イカ呼ばわりされているクラゲがバラバラにされていた。


「バカね、イカがこんなに変な色をしてるわけ無いでしょ。これは未確認生物よ。確かに魚のような骨は無いけど、触手に触れた人間の脳か何かの情報を読み取って、侵食して力を得るみたい…。だから、生命エネルギーの溜め込む場所がここで、お母さんたちに燃やされた時、ここの中枢部分が激しく損傷している。バリアーを張っていたんだけど、それを上回る火力でピンポイントに狙いを定めて焼き付くした。」


 小春の的確な攻撃がクラゲを一撃で倒した事を損傷部分から読み取っていた。


「つまり、小春はコイツがかなり危険な生物だと、本能で認識し、早急に対処したって事?」


 私が二人の会話に割って入る形で参加した。恵麻は私に気にせず、話しを続けた。


「小春は許せなかったんだよ…。コイツが人の身体能力を何倍にも高めて、強力な力を得てお母さんを殺そうと襲い掛かったから…。」


 私に攻撃を加えようとしたから、九尾の妖力で相手を攻撃したらしい。


「まあ、生命エネルギーを取り込んじゃった瑠奈は放出する方法が未確定だし、元に戻せないけど、あのなんとかって言う東京の警察の人はこのイカから抽出した生命エネルギーを血中に与えると全身へ送られるから元に戻ると思うよ。」


 そう言って、解剖して中にあった脳液みたいな物を取り出して、精製できるように容器に入れて、機械のスイッチを押した。


「一晩は掛かるから、もうちょっと待っててね。」


 恵麻は疲れたと言って、椅子に座って少し大人になった瑠奈と私を見て、


「本当に親子だから似てるわね…。今の瑠奈の体は15歳くらいかしら?生命エネルギーの吸収で体を成長させるなんて、ほんと…ヤバい妹。ばあばにバレると悪用しそうだし、瑠奈は早いうちに神里家を離れるべきね。」


 恵麻は瑠奈の能力を悪用されないように、気付かれないうちに神里家を出ていった方が良いと言った。


(あれ?これって離婚の話…、バレてる?)


「恵麻お姉ちゃんはここに残るの?瑠奈は無条件でお母さんに付いていくよ、楽しいもん。コハるんもお母さんLOVEだし、付いていくはずだよ?」


 瑠奈もなぜか、離婚の話に気付いているようだった。


(なんなの…この子たち、私の事はなんでもお見通しって事?)


「でもさ~、コハるんは可哀想だよ。私よりもお父さんがまあまあ好きだし、アメリカに帰っちゃったら、一年に一回ぐらいしか、帰って来ないよ?」


 父親の蓮がアメリカを拠点に仕事を再開する事を知っていた。


(親の事がまあまあ好きって…どれくらい?)


 どうやら、薄々、感付いているようなので、私はきちんと離婚する話をする事にした。

 

「二人とも、聞いて欲しいの。お父さんと離婚する事になったんだ。」

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