第316話 お土産は焦げたクラゲ
「お母さん、瑠奈はイカの丸焼きが食べたいって言って無いんだけど…。」
ゲートから丸焦げのおじさんとクラゲを引っ張り出して、まだ息のあるおじさんのために救急車を呼んで、連れて行ってもらった。丸焦げクラゲの方は幼児化した富川さんと瑠奈のために連れて行く事にしたが、丸焦げクラゲは瑠奈にイカの丸焼き呼ばわりされていた。
「このクラゲが人の願いを叶える代わりに生命エネルギーを食してたみたいなの…。瑠奈が小春の尻尾で電磁波を測ってたから、溜まってた電気が発生して、その電気熱でこのクラゲを焼いたのよ。」
丸焦げのクラゲが死ねば、元に戻る可能性も考えたが、生命エネルギーを食してた時点でその可能性はゼロに近かった。
「つまり、この丸焼きをお姉ちゃんに調べてもらえば、この子が元に戻れるの?瑠奈はこのままでも良いんだけどね~。」
瑠奈は元に戻れなくても良いと言ったが、幼児化した富川さんはどうにかしないとダメだった。何故なら…、
「ママ、お帰り~。」私を完全に母親だと誤認しているからだ。
「子供が増えて良かったね、お母さん。瑠奈は子供から卒業したし、瑠奈が恵麻お姉ちゃんよりも年上の長女に決定!美南ちゃんは三女で、小春は引き続き末っ子ね。」
何故か、ノリノリの瑠奈は事件も解決したし、帰ろうと言ってきた。
(まあ、滞在し過ぎて、未央お母さんたちの機嫌を損ねると、仕事がやり辛くなるし、一旦、帰ろう…。)
そして、私は瑠奈たちを連れて京都に帰ることにした。
瑠奈が少し大人になり、暴走せずに面倒見の良い姉をしていてくれたため、行く前よりかは、騒がしく無くなった車内で、私の娘入りした美南ちゃん(元25歳)とすっかり仲良しの小春はずっと一緒にいる姉妹のように遊んでいた。
(う~ん、本当に連れて帰って良かったのかな~。この手の問題に詳しいお義母さんが富川さんのご両親に伝えて、何とかするって話してたし…、しばらくは母親の代わりを務めるし、何とかなるけど…。)
増えた家族について悩んでいるうちに京都駅へ到着した。そこにはマリアが迎えに来てくれており、
「紫音、けったいな事が起こったみたいやな。小春とこの新しい子はウチが連れて帰ったるし、恵麻んとこに行ってかまへんで。」
子供好きのマリアはそう言うと瑠奈と富川さんを山賊の獲物のように抱えあげて連れて行ってくれた。
(山賊担ぎ…、でも、本人たちはスゴく楽しそう。アトラクション気分?)
私と瑠奈は家に帰って、恵麻へ会いに行くと、
「何?その焦げたイカ。そんなお土産はイラナイ。」
恵麻にそんなモノを持ってくるなと言われたが、これが生命エネルギーを奪う元凶だと話すと、
「へえ~、生け捕りにせず、焼き殺しちゃうなんて、お母さんは過激ね。まあ、成分の分析はしておくから、研究室に運んでおいてよ。」
若干、イヤそうだが、解剖してくれるらしい…。
全員から焦げたイカ呼ばわりされるくらいの電気熱を浴びたクラゲは即死だった。問題は小春が使った、電気を放出する技だ。その話を恵麻たちにすると、
「電気を帯びる狐?そんなの聞いたこと無いよ?」
恵麻は電磁波を調べる程度でそんな物は発生しないと否定した。
「でもさ~、お姉ちゃん…、お母さんも電気を帯びたって、話したし、お母さんを動力源にして小春の力を増幅させた狐火みたいなヤツじゃない?」
九尾の狐の力の一つじゃないのか?と瑠奈が話したら、
「あんたは体が大きくなっても、バカね。狐火って言うのは、火の玉現象で狐とは関係ないの。突然現れて化かすから狐火なんて言われてるだけだし、それに火じゃなくて、今回は人を焦がすレベルの強力な電気熱が起きた事よ。最早、それは雷レベルの電気なのよ。」
狐火レベルではなくて、完全な雷に近い電撃を相手に与えて即死させた事を恵麻は話し始めた。
「小春にそんな力があるとは思えないけど…。」
今までは臆病で攻撃的なモノを見せて来なかったため、私はもう一人の娘の実力に気付いていなかった。
「まあ、このバカが電気を溜めて、それをお母さんが増幅させたのが原因だし…、これからは悪霊や人間には、使わないでね。すべてを焼き尽くして即死するレベルだから…。」
私にそう言った恵麻は丸焦げのクラゲを解剖すると言って研究室に向かおうとすると、体が大きくなった瑠奈が後ろを向いた姉の恵麻の腰を掴み、
「お姉ちゃんって可愛い。子供の体なのに大人っぽい発言をするギャップが堪らないよ~。瑠奈が運んであげるよ。」
瑠奈が恵麻にそう言って抱えあげると、
「大きくなったからって、お母さんみたいに、キモい事をするな!下ろせ!」
必死で抵抗するが、大人の体型で上回る妹の瑠奈は勝てず、そのまま連れて行かれた。
(私みたいにって、娘に甘える行為はキモいの?恵麻は完全に年頃の反抗期来ちゃったね…。)
娘の反抗期を喜ぶべきかと悩んだが、成長した瑠奈の思考が母親と似ている事に何だか安堵してしまった。
小春たちの様子を見に行こうとすると、玲奈が、
「お義母さんが呼んでるよ?いいな~、紫音ちゃんはお義母さんと親子で仲良しだもん…。」
こうして、兄嫁の玲奈が嫌味っぽく嫉妬してくるので、
「私はいつも、どうして玲奈みたいに素直になって、子供をたくさん作ろうとしないのって叱られてるよ?だから、お義母さんは玲奈の事が大好きだよ?」
私より、兄嫁の玲奈の方が義母から気に入られている事を話すと、
「ほんと?なら、今年も頑張ろうかな~。紫音ちゃんも子供をたくさん作りなよ?どっちがたくさん子供を作れるか、勝負だよ!」
玲奈はしばらく会わないうちに、義理の母親の言葉に毒されて産んだ子供の数で私と競い始めようとするような、まあまあウザい兄嫁になっていた。
(ほぼ毎年、妊娠するって考えたら…、ゾッとするよ。)
そんな事を考えていたら、玲奈が、
「蓮くんとまだ仲直りしてないんでしょ?夫婦なんだから、妻から積極的に誘ってあげないとダメだよ?」
いまだに寝る部屋が別な事に心配して、妻から夫を誘えと言ってこられた。
「うん、心配してくれてありがとう。時間を作って、必ず話し合ってみるよ…。」
私には、この問題が残っていた。初めての夫婦ゲンカはお互いの顔も合わさない展開に発展してしまった。何年間も鬱憤が溜まっていたのかもしれないし…、それをあの形で吐き出したため、互いに冷めてしまった部分があるのかもしれない。
(夫婦の距離って難しいな…。)
そんな事を考えながら、神里の母さんの部屋に到着した。
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