第315話 小春が怒ったら…

 過去に戻りたいと後悔し、やり直したいなどの願望を持つ人を拐い、若返らせてくれる代わりに生命エネルギーを奪う奴がこの東京にいる。その事象がある周期で行われている事を突き止めた私たちは、人の一生に介入し、輪廻転生の寿命サイクルを壊そうとする…何者かの暴走を止める事にした。


「サイクルは人によってまちまちだけど…、一人を拐ったあとは連続で別の人の生命エネルギーを奪う事が出来ないらしいんだ~。」


 瑠奈は、恵麻が調べた結果を私に見せてくれた。プチ家出と呼ばれていた理由がそこにあり、簡単に話すと、いなくなり発見されるまでの総時間から月の周期を割った日数にプラス6時間30分を足した時間に新たな連れ去りが起こっているらしい…。つまり、瑠奈が割り込んで連れ去られた今回の場合は0日で30分以内のため、瑠奈と富川さんが発見された約6時間30分後に発生するだろうと言われた。


(月の周期?天文学なのかな?こんなの…理数系をすべて制覇した恵麻しか、解けないよ…。)


 時間算出は恐らく、私では無理だった事を反省していると、


「なんでも数値化するお姉ちゃんはかなりの変態だもん…。月の周期って事は読めたけど、次の発生時間までは分からなくて、可愛いくて、超天才のこの瑠奈様が算術で負けるなんて…。」


 そう言って、ちょっと大人になり、成長をしたはずなのに、頭脳面で姉に負けてしまった瑠奈はへこんでいた。


(あんまり…、言わないで。月の周期すら可能性に入れて無かったお母さんは恵麻は元より、瑠奈以下だから…。)


 成長した瑠奈にすら負けた私は小春のみたいな感じであからさまにへこんでしまった。


「お母さんって、運動神経は、ずば抜けて高いんだけど、あんまり頭が良くないんだね…、娘二人に負けてて、なんだか…スゴく可哀想。」


 肩を叩かれて、お母さんの武器は顔と体だよ…って、慰められた。


(瑠奈…、お母さんは見た目だけの女じゃ無いよ?)


 これ以上の会話はお互いのキズを広げるだけだと感じた私は、言い返さなかった。


 そして…、いよいよその時間が来た時に、瑠奈が小春を掴んで突然、高く抱き上げた。すると、小春の尻尾が逆立って来て、何かを感じ取っているが、


「ルーちゃん、尻尾がケバケバするから止めて~。」


 自分を高く掲げて、電磁波を測る瑠奈に止めて欲しいと拒否するが、


「我慢すれば、コハるんの大好きなママの役に立てるよ、だから頑張って!」


 私の事をエサにして小春を釣ると、


「頑張ったら、ママが褒めてくれる?」


 単純すぎる小春は私をエサにすると、喜んで協力をしてしまい、完璧に乗せられてしまった。


「フムフム、あっちだね。じゃあ、お母さん、小春を持ってゴーだよ。」


 瑠奈は尻尾が逆立っている小春を渡して来ると、このまま、ダッシュでまっすぐに進めと行ってきた。


「ハルはネエネエみたいに、ママの役に立った?」


 私に抱えられた小春に尋ねられたので、


「もちろんよ、小春、ありがとう~。」


 そう言って、抱えた小春をギュッと抱き締めてあげた。



 しばらく走っていると前から突然、ゲートが現れたので、そのまま飛び込んで入ると、中には、オジサンとクラゲみたいな生物がいた。


「なんだい、君は…おじさんの好みじゃ無いから、出ていってくれないか?」


 小春を抱えた私を好みじゃ無いとバッサリ切り捨てて、出ていけと言ったので、


「ゴメンナサイ、知らないおじさん。取りあえず、逃げられるとダメだから、ブッ飛ばすね。」


 私は瞬時におじさんの元に近付いて、上段蹴りをしたら、クラゲが間に入って来て、そのクラゲを思いっきり蹴り飛ばしてしまった。すると…、クラゲから生命エネルギーの成分が放出されて、液体を垂らしながら…、そのクラゲは動かなくなってしまった。


(コイツが人から生命エネルギーを奪っていた元凶?それにしては…アッサリとやっつけられた。)


 それを見たおじさんはクラゲの元に行き、


「クラゲちゃんが!君!なんて事をするんだい!このクラゲちゃんは良い子なんだよ、おじさん好みの女の子を若返らせてくれるんだから…。」


 変なおじさんは何も知らない感じだったので、


「代わりに生命エネルギーを奪って、その女性たちの寿命を縮めてるの!仕様もない性癖を叶えるその生き物が危険生物だと認識してください。」


 クラゲを指差して、起きた事を元に戻してもらわないと困ると話した。


「おじさんは体の衰えに悩んだ女性が若返って元気になっていく姿を見るのが好きなんだよ。それを性癖呼ばわりしないでくれないかな~。君みたいな完璧な容姿のアクティブガールには、一生掛かっても分からない悩みなんだよ~。」


 変なおじさんは若返らせた女性にはそれぞれの悩みがあり、それを叶えただけだと言って、自分の行いの正当性を主張した。


「それで、悩みある女性たちの神様にでもなったつもりなの?被害に遭った女性は寿命を奪われ、若返った分の記憶や経験をすべて失うんだよ?代償が大きい事を本人の願いとあなたの判断だけで決めて良いわけないでしょ!」


 寿命を奪う代償の大きさと家族の崩壊を招く行いを許すわけにはいかないため、元に戻すようにそのクラゲ生物にお願いをしてと言うと、


「お嬢ちゃんはおじさんの唯一の取り柄を否定するつもりだね。なら、可愛い女の子でも許さないよ~。」


 おじさんがクラゲを持ってそれを頭に乗せると…、合体して、たくさんの触手を持ったクラゲ人間に変身した。


「うわ~、イカの怪人だ~。」


 小春は奇妙な人間もどきの生物を見て、めちゃくちゃ喜んでいる。


「小春!これはテレビじゃ無いから、喜んじゃダメ!」


 私はクラゲの触手攻撃を交わしながら、小春に注意すると、いつもは文句を言えずに黙ってへこむはずの彼女は、


「ママを怒らせる悪い奴。ハルはキライ!」


 そう言って、怒り出した小春の尻尾からバチバチと強力な電気が発生し始めた。電気は抱えていた私の体を帯びるとその力が小春に集約し始めて、小春はそのまま複数あるクラゲの一本の触手を掴んだ。すると、強力な電気熱が発生して熱がクラゲに伝わる形で、おじさんは頭に乗ったクラゲもろとも丸焦げになって倒れた。


(クラゲもおじさんも、絶対に死んだよね…、これ?)


「ママ、スゴ~い。怪人を倒した~。」


 小春は自分でやらかした事に気付く事なく、私が火を出してやっつけた事にしてしまった。

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