第314話 何だかんだで、気が合う姉妹
富川さんのマンションに来てスーツの内ポケットにある鍵で中に入った私たちは、瑠奈と彼女を元に戻す方法を探すため、彼女のパソコンを借りて、恵麻に連絡をしていた。
「お母さん!私は忙しいって言ったよね?」
仕事の手を無理矢理に止めてしまった事で、不機嫌な恵麻に成長した妹の瑠奈を見せて上げる事にした。
「やっほ~、お姉ちゃん。大人になった瑠奈だよ~。見てみて~、可愛い下着でしょ?」
大きくなった瑠奈は富川さんのタンスの引き出しから下着を勝手に取り出して、身に付けた姿を姉に披露していた。
「……、体だけが成長していて、頭の悪さは変わらないのね…。」
画面に映る、成長してもおバカな下着姿の妹を見て、呆れてしまった恵麻は、
「お母さん、事情は察した。そっちを全面サポートするね。」
私たちの手伝いをすると言ってくれた。
(まったく制御出来ない瑠奈も使いようね。姉を見事なくらいに呆れさせて、協力を取り付けちゃったよ…。)
「ルーちゃん、ハルも大人になりたい。お母さんみたいになりたい。」
大人の下着を見せ付ける瑠奈を見て、小春も大人になりたいと言い出した。
(部屋の中だけど、下着のままで徘徊されるのは、教育に悪いな…。)
「瑠奈!いい加減にしなさい!服を買ってあげたのに、なんで脱ぐの!しかも、人の家の引き出しをあけて、勝手に下着を身に付けるなんて、そんなこと普通の大人はしないわよ!」
そう言って、下着姿で走り回る瑠奈を捕まえた。
「お母さん、力を入れすぎだよ!痛いよ!」
痛がるくらいの腕力を発揮して、ようやく止めたが、成長した瑠奈はかなりの力を込めないと止まらなかった。
「さあ、服を着て、恵麻お姉ちゃんの手伝いをするのよ!二人の力で次の神隠しが起こる前に先回りするの、分かった!」
瑠奈に言い聞かせて、服を着せたあと、パソコンを使って、恵麻との情報共有を姉妹の間で行わせた。私も情報をまとめようと自分のノートパソコンを開いて作業を始めようとすると、
「ママ、お腹空いたよ~。」
小春がそう言って来たと思っていたら、言葉を発したのは、幼児化した富川さんだった…。
(ヤバい…、起きたら、幼児化が進んでしまってる。)
幼児の体のため、脳も萎縮した形になるのだろう。記憶の刷り込みのような状態になり、初めて見た大人の私を母親だと勘違いし始めた。この年齢の女の子には慣れている私は小春を呼んで、
「小春、この子、
小春にそう言って、幼児化した彼女と遊んでて欲しい事を告げると、
「うん!行こ!ミーナちゃん。」
小春は彼女をそう呼ぶと、「うん!」と言って彼女は子供っぽく返事をした。そして、小春はカバンから、姉に買って貰ったウサギのぬいぐるみを持ってきて、リビングで家族に見立てたおままごとを始めた。
(やっぱり、いきなり子供の姿、脳になったから、起きた時にかなりの記憶障害を起こしている…。自分の母親の顔が分からず、私を母親と思ってるし、自分が小春と同じ年齢の子供だと認識し始めたよ…。)
彼女はお腹が空いたと話したので、情報収集は恵麻たちに任せて、まずは昼御飯を作る事にした。
料理を作り終えた私が、小春たちを呼びに行くと、二人は普通の子供らしく遊べていた。
(小春は友達が出来た感じで、かなり上機嫌だよね…。平凡な能力しか持っていない小春にとっては、賢すぎる姉二人の後ろにいつも付いていく感じで、おままごとみたいな遊びが今まで、満足に出来ていなかったんだよね、きっと…。)
小春にしか感じない孤独もある。それは恵麻も瑠奈も一緒。人には他人に言えない何かを必ず持っていて、弱い部分がある。だからこそ、今回みたいな変な事象が発生して、それに気付かないまま、人々は生きている。
瑠奈を呼びに行こうと作業をしている部屋へ向かうと、とても、楽しそうな声がする。
「恵麻お姉ちゃんって、毎日こんな量の仕事をこなしているんだね。通りでお母さんよりも給料が高いんだ~。」
僅か8歳で私はもちろん…、夫よりも稼いでいる我が長女の仕事ぶりを瑠奈は感心しているようだ。
「あんたは少し成長したから、実力を発揮できる女になれたのね。その姿、お母さんに似てるんだから、ちゃんとしてなさいよ。お母さんに恥を掻かせたら、本当に許さないからね。」
母親にそっくりな今の姿で変な事をするなと言って、制御不能の妹を姉が叱った。
(何だかんだで、恵麻はお母さんっ子だもんね。母親と同じ職種を選んだし、帰ったら、引っ付いて甘えさせてあげよう。)
子供たちに昼御飯を食べさせたあと、小春には引き続き子供になった富川さんを見てもらって、私は恵麻とリモートで会話をしていた。
「お母さん、これはヤバい案件だよ。被害状況は深刻だし、もし…悪霊の仕業だとすれば、ソイツは相当な力を付けてる。それくらいの生命エネルギーを奪ってるの。だからこそ、吸収能力をはね除けて、逆の流れを作り出した瑠奈をすぐに自分のテリトリーから追い出したんだよ。」
恵麻は元凶を早く見つけないとダメだと話したあと、
「瑠奈がソイツを呼び出すから、お母さんがブッ飛ばしてね。周波のメカニズムは私が解明したし、その方法を瑠奈に託したから、私は本業の仕事に戻るわ。頼んでいたお土産、よろしく。」
そう言って、恵麻は結論付けると、あとは二人で解決しなよと言って、リモート中の画面が切れた。
「お姉ちゃんはいつもクールでつれないよね、本当は寂しがり屋のクセに~。」
用が終わるとすぐに回線を切る恵麻の事を話す瑠奈に、
「うん、知ってるよ。帰ったら、お母さんがイッパイ引っ付いてあげるの。」
私はそう言って、早速、今から仕事をしようと瑠奈に伝えた。
「お母さん、聞いてね。まずは瑠奈が声を聞くの。そしたら、位置が特定出来るから、声が聞こえないお母さんが代わりに突入して、元凶を締め上げるの。簡単でしょ?声が聞こえないなら、生命エネルギーを奪われない。勝手に侵入しても、相手はお母さんの存在に気付かない。」
瑠奈は見つけたら、逃がさないように全力で仕留めてねと言ってきた。
(瑠奈はセンサー担当、私は武力行使担当?単純だけど…、よく分からない何かを全力でやっつけるのは、気が引けるな~。)
不思議なゲートを発生させる周波の解析をあっという間にしちゃう恵麻に、それを感知してこじ開ける瑠奈。頼もし過ぎる我が娘たちの作戦が上手く行くと信じて、私は私の出来る事をしよう。
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