第313話 年を取った瑠奈と若返った彼女

 突然、いなくなった瑠奈。すぐに戻って来たのだが、少し大人になって戻って来たのだ…。


「瑠奈はこのままで良いけどね~。」


 中学生ぐらいになった瑠奈は今の姿に満足していた。一方で、


「いいわけ無いだろ、こんな幼児になっては仕事にもならんし、家にも帰れん。どうするつもりだ、神里 紫音!」


 富川さんは20代から一気に5歳児くらいになってしまい、その怒りをこうして私へぶつけて来る。


(彼女は幼児になり、冷静さを無くしてしまった。怒る理由も実に子供っぽい。もしかして…、大人らしさが失われてる?)


 20代から10代の後半に若返ったとしても、そんなに弊害はない。しかし…、ここまで、体が小さくなると話は変わってくる。私が若返った時もそうだったけど、30代の男性だった時の大人らしさが失われて、自然と10代女子の思考に変わってしまった。この体は口ゲンカに弱く、すぐに言いくるめられてしまう。困ったら、娘の恵麻に頼るし、瑠奈を叱るけど、言う事を聞いてくれずにすぐ諦める。


(私にも、小春のように狐耳があったら、すぐに耳をペタんとするだろう…。とにかくすぐに謝るし、仕事場では立場が弱い。)


 今もこうして、怒る彼女を膝に乗っけて、あやして黙らせようとしていた。


「貴様、こんな事をして私が黙ると思っているのか?」


 口の悪い彼女に対して、母親のようになだめていると…、段々と私の膝の上にいる事が気持ちよくなったのか、怒り疲れて、眠ってしまった。


「あの美人刑事も慣れない子供の体で眠っちゃったね…。私は年を取って、稼動域が増えて絶好調。ただ、胸が大きくなり始めてて、少し邪魔なんだよね…。これ以上はイラナイよ。」


 母親ゆずり、膨らみ始めた胸を邪魔と言って、拒絶していた。


(まあ、瑠奈は大きい胸になるのを嫌がってたもんね…。)


「多分だけど…、若返った人はその分の記憶や経験を失っているはず。年を取った瑠奈は経験値が乗っかってて、身体面や頭脳面で成長が見られるけど、幼児になった彼女はかなり退化している。若返る代わりに本人が得た経験や知識を奪い取っている可能性も否定出来ないよ。」


 プチ家出騒動を起こした20代の女性の若返ったあとのSNSは少し子供っぽい投稿が目立つし、結婚生活が嫌になり、離婚した人も多い。もし、自分の産んだ子供がいたら、その事実に困惑する。若返った分の記憶を失うって言う事は、その間の自分の行いをすべて否定してしまうって事だから…。


「その生命エネルギーを奪う事が狙いなのかな?」


 反対に年を取って、冴える瑠奈が聞いて来たので、


「生命エネルギーを奪われた人間、若返った分の寿命を奪われたから、普通の人よりも早く命を終える事になるよ…。だから、この人も危ない。」


 私の横でぐっすりと眠る彼女を指して、そのデメリットを話した。


「女の人の失踪する条件は、特別な思いを持っている事と、それに見合う能力を保持している事、あとは…、性格の悪さかな。」


 一癖ある人間のみが失踪していると話すと、


「お母さん!瑠奈のどの辺が性悪なの?反対に生命エネルギー奪っちゃったから?」


 本当に嫌な女は自分ではその性格の悪さに気付かない…。


「瑠奈は私の子よ?口は悪いけど、運が悪いわけないし、純粋に私の特殊能力を受け継いでいる。だから、あなたの場合、逆に生命エネルギーを奪い取って成長したの。」


 私は魂を塗り替える能力を持っている。その能力を引き継ぐ娘の瑠奈に、生命エネルギーを奪い取る程度の小技は効かない。それに…成長の早すぎるこの子に4歳の体は合わなかった。だから、瑠奈の精神年齢に応じた年齢まで、生命エネルギーを奪い取り成長した。


 私は自分の力を侮っていたつもりは無かったが、血縁で継承されて、劣化した能力を引き継いだはずの瑠奈がここまでスゴい人間だとは思わなかった。


(問題は時空か何かの歪みがどの条件で発生するかだよね…。それが、分からない事には、この問題を解決出来ない。)


「一年若返るのに、どれくらいの生命エネルギーを奪われるだろう?」


 瑠奈が私に問いかけて来たので、


「さあ、代償は大きそうだし…、年齢の倍くらいかも。とにかく…やった奴に返して貰って、すべてを元通りにしてもらわなきゃ。」


 そう言って、瑠奈のいなくなる条件、一回目に聞こえた声と数分前の出来事だ。


「ひよっとして、瑠奈はこの富川さんの生命エネルギーを奪って、成長したんじゃない?だとしたら、すべての納得が行くもん。この人だけは他の失踪者よりも異常に若返ってる。」


 今までの家出騒動を起こした人はここまで若返っていない。辛うじてバレない程度だ。


(大半は20代前後くらいで止まってるし…、もしかして、異常な瑠奈の力を察知したから、すぐに瑠奈と同時に連れ去った彼女だけは、日を跨がずにその空間から、追い出された?)


「瑠奈、事件が解決して元に戻ったら、謝りなよ?彼女を子供にしたのはあなた、なんだから…。」


 生命エネルギーを奪い、子供の姿にした事を謝れと言うと、


「ノンノンノン、悪いのは瑠奈を拐った奴で、4歳なのに、年頃の若い子にされた可愛そうな被害者なの。」


 瑠奈は悲劇のヒロインなの!って言い出した。



 呆れていた私に瑠奈が、


「お母さん、瑠奈に服と下着を買って欲しいな~。この服、少しサイズが合わないし…、こんなに胸が膨らむと、下着が必要だよ。」


 そう言って、甘えて来た。


(そう言えば、今、着ている服はどうやって調達したんだろ?)


「瑠奈、今の服は誰の服なの?」と聞くと、


「ここのアルバイトの子の服だと思うよ?目が覚めたら私、裸だったし、着てた服は置いてたけど着れないから、ロッカーから借りたの~。」


 スタッフルームにあった服を拝借してきたらしい…。


「瑠奈…、それは窃盗って言う犯罪だよ?今なら、スタッフルームに富川さんのスーツが置いてあるはずだから、代わりにそれを着ていなさい!」


 私は瑠奈を引っ張って行き、スタッフルームに入らせて貰ったあと、富川さんのスーツを瑠奈に着せた。瑠奈にはかなりブカブカだったが、下着とブラのサイズはピッタリだと言っていた。


「うお~、これで瑠奈も大人の女性の仲間入りだ~。」


 富川さんの少しハデな大人の下着を身に付けた瑠奈のテンションはなぜか上がっていた。


(瑠奈、人の下着を身に付けるのに、もうちょっと…抵抗しなよ。)


 お店の人に迷惑を掛けた私たちは、謝罪後、幼児になって眠る富川さんを抱えて、瑠奈の服を調達したあと、身分証に書かれていた彼女が住んでいるマンションへ移動した。


(瑠奈に服を奪われたアルバイトの女の子は気さくに許してくれたし、助かったよ…。)

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