第310話 男は私の見た目が好き、女は私の中身が好き

 瑠奈と若い霊媒師の女性。二人の陰湿な口喧嘩に割って入った私は、娘の口の悪さを謝罪して、若い女性のプチ家出がなんだか気になり調べている事を話してみると、


「仕事熱心ね。警察でも無いのに東京まで来て、観光せずに本職の仕事?それにペラペラと喋らない方がいいわ。ここはあなたの地元じゃないし、誰が善人で悪人かも分からないんだから…。」


 彼女から、相手を警戒するように言われたが、


「仮にあなたが悪い人でも、瑠奈はあなたより強いし、私は瑠奈よりも強いから、大丈夫です。」


 むしろ、人拐いがいるなら、私を狙ってくれた方がいいと話すと、


「随分と余裕で勝てるみたいな事を言ってくれるわね。こっちは女の民間人に負けるわけにはいかないのよ?ましてやこんな子供になんて…。」


 幼児の瑠奈以下と言われた彼女は腹を立てていた。


「ママ、そのお姉さんは優しい人だよ~。」


 小春がそう言うと、彼女は小春の頭を撫でて、


「あら、こっちの子は素直で可愛いわ。魂が違うとケンカ自慢の母親にも、見た目そっくりの生意気瑠奈ちゃんにも似ないのね。」


 警戒心の無い小春は頭を撫でられて、気持ち良さそうにしていた。


(小春は玄人っぽい彼女を見て、善か悪かの判断が出来るのかな?)


 なんだかんだで彼女と話し込んでると、


富川とみかわさん、上から戻って来いって、命令っす。」


 そう言いながら、後輩?っぽい男性が現れたが、私の顔を見るなり、


「うお!昨日のインテリ巨乳人妻じゃ無いっすか!実物もマジで可愛いっすね。」


 私を見るなり、インテリ巨乳人妻と称して、彼は大きな胸が好きなのか、ずっと私の胸ばかり見てきた。そんな後輩に彼女は、


しゅん、民間人にセクハラで訴えられられたいの?」


 彼の頭を叩いて、変なアダ名で呼んだり、女性の胸をガン見するなと叱り始めた。


「だって、世間では…、巨乳人妻とか、巨乳紫音ちゃんとか、やっぱ、男なら大きな胸ばかりに目がいっちゃいますもん。おまけに顔も可愛いし。俺も奥さんに欲しいっす。」


 そう言って、彼は昨日のテレビ出演がきっかけで私のファンになったらしく、そのファン愛が止まらなかった。


(ほら、言わんこっちゃない、ちょっとテレビに出ただけで人気者だよ…。ちょっとエロ目的な感じがするけど…。)


 そんな男性の顔より胸ばかり見てしまうと聞いた瑠奈が突然、


「コハるん、瑠奈も草食生活を始めるよ…。お母さんみたいにお肉ばっかり食べてると、おっぱい大きくなりすぎるもん。」


 母親が報道番組に出たら、その母が世間から巨乳呼ばわりされて、胸しか見てもらえない事が分かったらしく、胸の小さな美人を目指すと言い出した。あれだけ苦労していた瑠奈の野菜嫌いが、テレビに出ただけで解決する事になり、とても複雑な気分になりそうだった。


「ハルはお母さんみたいになりたいな~。でも…、お野菜が好きだからな~。」


 将来は母親みたいな姿になりたいが、大好きな野菜を捨て去る事は出来ないと悩み出した。


(いや、二人とも…、肉ばかりを食べれば胸が大きくなる訳じゃ無いんだけどね…。)


 確かに体型は遺伝や食のような気がするが、それを話した所で理解されないだろう。瑠奈の胸より顔を見て欲しいと気にする姿を見て、如何に年頃の女性が小さな胸を好み、男性からの目線を気にしているのかが、分かった。


(私は、娘の考えなので、どっちでも良い。だけど、あまりに貧乳だと…コンプレックスでひなちゃんのような僻みが出てきて、卑屈になるよ?)


 胸を見るのは男の本能だから仕方ない事を知っている私は、富川さんって言う人を見て、


「瑠奈、彼女は美人だし、胸の大きさも平均ぐらいだから…、こう言う人を目標にすると良いと思うよ?」


 私より少し背が高く、バランスの良い体型の美女を指すと、


「でも、お母さんの方が性格良いもん。いつも穏やかでフワフワしてて、スッゴく可愛いし、人と接する時は笑顔を絶やさない。でも、仕事の時は真面目でキリッとしてて、超カッコいいもん。」


 瑠奈から褒めの言葉を頂いてしまったが、あまりの高評価だったので、照れていると、


「まあ、頭が良いのに裏表が無い、男にイヤらしい目で見られても笑顔。実在している事自体がほぼ、奇跡だろうし、こんな女の横に並ばされたら…最悪よ。」


 何故か、彼女からの評価も高く、私は小春と同様に人から好かれる要素が人よりもある事を理解した。


(恵令奈さんよりも人気が出ちゃったら、本当にどうしよう…。仕事がやり辛くなるよ。)



 私は甘えてくる小春を抱えながら、彼女たちと話をしていると、周囲がざわざわとし始めた。バズってる私の話題を知っていた、同年代の女の子グループが「昨日、テレビに出てた可愛い子がいる。」と言われていたのを聞こえてきたので、富川さんが、


「ちっ!これだから…、一般人に関わるのは嫌なのよ。何か分かったら、ここに必ず連絡しなさい。行くわよ、俊!」


 私に名刺を渡したあと、私とまだ話したそうな後輩の俊と言われている彼を連れて、足早にファストフード店を出ていった。彼女たちもいなくなったため、店を出ようとしたら、


「お母さん、瑠奈はフィッシュバーガーが食べたい。」


 もう、お腹が空いたのか、魚のハンバーガーが食べたいと言い出した。やれやれと思いながらも、瑠奈に撒かれるのを勘弁して欲しい私は、


「分かった、買ってあげるから、またどこかへ勝手に行かないでね。」

 

 瑠奈の望みの物を頼むついでに小春に何か要らないかを聞くと、


「ハルは野菜ジュースが飲みたい。」


 小春は飲み物ですら、野菜を摂取したいらしい…。


(狐が好きな食べ物って、野菜じゃないよね?この子の野菜好きはどこから来たんだろう?)


 ファストフード店に来ているのに、母親や瑠奈が嫌いな野菜をひたすら摂取する、ある意味偏っている思考に変わってるなぁ~と思いながら、店のサイドメニューにあった紙パックの野菜ジュースを買ってあげた。


 店内でご機嫌な感じでそれぞれの物を飲食し始めた娘たちを前に、私は恵麻がどうしてるのか気になりメールすると、「今、忙しい!仕事の穴埋めにお土産は今から頼む物を買って来て!」と何に使うつもりか分からない電子部品を型番号で送ってきて催促してきた。


(うわ~、ロボパーツだよ、絶対。)


 ウチの三姉妹はそれぞれの個性を出しながら、成長をしており、嬉しい半面…、変わり者ばかりで母親としては心配になっている。


(まあ、元気に育ってくれるのなら…、今はそれで良いよ。)

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