第309話 猛毒を持つ娘と昨日の美女

 テレビに出演する仕事で東京に来た私は瑠奈と小春を連れていたが、私のテレビ出演中に瑠奈が行方不明に…、探し回った結果、予約していた帰りの新幹線に間に合わなくなり、元同僚の日向の妹、野々宮 夕陽の家に止めてもらう事になった。そして、その日の朝、泊めてもらったお礼で朝食を少しだけ豪華にして、夕陽にご馳走していた。


「夕陽さんのお口に合うか分かりませんが、食べてください。」


 彼女にそう言って、差し出すと、


「あなたって…、完璧ね。今のところ…ケチの付ける所が無いわ。」


 彼女はありがたく頂戴すると言って、一口食べたあと、私の作った料理の味を素直に褒めてくれた。良かったと安堵する私が子供たちを見ると、


「ルーちゃん、くれるの?」


 小春は瑠奈のお皿に乗っていた大好きな野菜を貰っても良いのかを尋ねると、


「コハるん、代わりに瑠奈はこっちをもらうね。」


 瑠奈は透かさず代わりにソーセージを貰っていた。


(あっ!せっかく、バランスを考えて、二人の皿へ乗っけたのに勝手に交換してるし。)


「コラ!瑠奈、野菜も食べなさい!」


 私がそう言って、指摘し始めるとまた、


「お母さん、コハるんは野菜が好きなの、だから、お姉ちゃんとして妹の喜ぶ顔が見たいの。」


 すぐに弁を捲し立てて来るが、当然、私は許さない。


「瑠奈、肉ばっかり食べて、野菜を食べないと大きくなれないよ?それに美人で売っていくなら、ビタミン豊富な野菜を採らないとキレイなお肌をキープ出来なくなるよ?」


 私は栄養の偏りで女性としての美しさをキープ出来なくなる事を話すと、


「でも、野菜嫌いなお母さんは他の人よりも美人で大きいよね?だから、瑠奈も野菜を食べなくても、きっと、大丈夫なのだ。」


(間違えた…、背の大きさって言えば良かったよ。この子、完全に胸の大きさと勘違いしてる…。)


 私の見た目基準で話をしているため、この話はすべて不毛で終わる。それくらいに私の容姿は胸が大き過ぎる事以外は、すべてを兼ね揃えていた。


(ダメだ…、私よりも語学力が高過ぎて、言葉で打ち負かす事が出来ない。)


「ママ、ルーちゃんは優しいの~。お野菜いっぱいくれるの~。」


 超ご機嫌で、野菜を食べる小春を見て、私はそれ以上、瑠奈に文句を言うのを止めた。


「その子…、コントロール不能ね。紫音はあまりガミガミと言わず、好きにさせたら良いんじゃない?」


 朝食を食べながら、夕陽は母親に減らず口を叩き続ける瑠奈の事は、放任主義で構わないのでは?と言ってきた。


「ほっといたら、この子は昨日みたいな事を起こすし、ある一定のルールぐらいは守って欲しいのよ、私は。」


 私も言いたくないけど、暴走行動ぐらいは止めさせたい事を夕陽に伝えた。


「なら、この子は理由も無く、勝手な行動をするはず無いと思うし、あなたがこの子を理解してあげる所から始めるべきね。私とお姉ちゃんみたいに全然違う存在だけど、程よい距離を取りながら付き合う…。もっと上手くやりなさい。じゃないとプチ家出されるかもよ。」


 流行っているプチ家出をされるぞと、私を脅した夕陽はごちそうさまと言って、お皿を持ってキッチンへ向かって行った。


(距離…か、私って、子供に近すぎるのかな~。)


「ハルは今のママが好き!あげる!」


 瑠奈の事で悩む私に、小春が自分の好きな野菜を分けてくれたので、


「うん、それは小春が食べてね。」


 野菜は苦手なため、さりげなくフォークに刺さった野菜を拒否して、小春に返す形で食べさせてあげた。


(うん、私が食べられない物を瑠奈に強要しても、説得力も無いし、ダメだよね…。)


「ママも優しい~。」


 ウチの草食女子の小春は喜んで野菜を食べ続けていた。



 朝食も終わり、夕陽が大学に行くと言って来たので、私たちも同じタイミングで家を出た。夕陽と別れた私は瑠奈と小春を連れて、予めに調べていた女性が行方不明になったと言われている場所へ向かう事にした。最初の行方不明者が出た場所の近くに来るとすぐ…、


「ママ、ルーちゃんがお店に入ったよ?」


 瑠奈は少しでも目を離すと、私の隙を突いて勝手な行動を取る。呆れて何も言えない私がそのファストフード店に入ると、


「昨日のお姉さん、おはよう~。」


 瑠奈はお腹が空いた訳でなく、昨日の着物姿の女性を見かけたので、入ったようだった。


(瑠奈って、スゴい洞察力だな~。今日はスーツ姿だったのに、一瞬で判別しちゃったよ…。)


「あら、昨日の…、おはよう。瑠奈ちゃんって言ったかしら?」


 コーヒーを飲みながら、ハンバーガーを食べていた彼女に話し掛けてしまったので、


「おはようございます。お食事中にウチの娘が邪魔をしてしまってスミマセン。」


 食事中の彼女に私が謝罪をすると、微笑みながら、


「良いのよ、子供が行った事だし、よく気付いたわね。」


 彼女はそう言って、違う服装でもあっという間に発見する瑠奈の洞察力を褒めていた。


「瑠奈は紫音お母さんの娘だもん、魂の色くらい見分けるなんて、造作もないよ。」

 

 私の娘だからと言う、絶対的な自信を持って瑠奈が話すので、気付かなかった当人の私は恥ずかしくなってきた。


「そう、神里 紫音さん、昨日のテレビの録画を部下に用意して貰って、見たわよ。スゴい経歴を持っているのね。見た目だけの人だと思ってたから…、びっくりしちゃった。それに働いている場所も調べたけど…、かなりのグレーな会社じゃない。義母のグループ会社は完全、真っ黒だし、未だに警察がまったく動かない理由を知りたいわ。きっと、あの辺では、警察すら逆らえない激ヤバな一家と言う事ね。」


 彼女は一晩で私の事を徹底的に調べていた。それに対して、瑠奈も、


「お姉さんは東京で有名な霊媒師の娘さんで、昨日はわざわざ大事なお見合いを抜け出して、私と同じく声を聞いて、あの近くに来たんだよね。ダメだよ、名家なんだったら、政略結婚はちゃんと受けなきゃ~。」


 瑠奈は挑発するかのように、彼女へ話をけしかけた。


「母親の紫音さんはクリーンなイメージで可愛いのに…、その娘は随分と毒を持っているのね。この子にもびっくりしちゃった。」


 バチバチで女の争いを始めたので、慌てて真ん中に入り、


「瑠奈!家族をヤバいって言われたからって、腹を立てて、大人の女性に喧嘩を売らないで!話が進まなくなるでしょ!」


 そう言って、私が慌てて止めた。


「あら、母親の方は挑発に乗らないのね。いつも、あなた…冷静で張り合いの無い、つまらない女ね。」


 この人は瑠奈と同様で、なかなかの嫌な女だった。

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