第308話 日帰りがお泊まり旅行に…

 私が恵令奈の時に一回来たことがある元、日向の家(今は夕陽が一人暮らしで住んでいる)でパソコンを借りた私は、そのモニターで神里の母さんに連絡をして、番組出演の報告と首都に起こった異変についての話をしていた。


「紫音、上々よ。早速、会社に入りたいと言う人の連絡が後を立たないわ。」


 母さんはかなりの上機嫌で、私の出演を喜んでいた。


「お義母さま、差し出がましい事を申しますが、採用条件がそれでは、良い人材が集まらないのでは無いのでしょうか?」


 資金が潤沢にあるとはいえ、なんでもかんでも、新卒で若い子持ち家庭を雇って大丈夫か?と聞いてみると、


「紫音、社会の屋台骨となる一般の女に能力や学歴を求めてどうするの?学歴問わずに子供を作るだけで楽に就職出来る場所がある。彼女たちは特に目標も無くて、お金のためだけで就職先を決める愚か者なのよ?お堅い就職活動をしたくなくて、楽になりたいから、子供を作って、ウチに入るの。しかも、生まれた子供はグループの託児施設で英才教育をするし、社会貢献この上ない取り組みだと思わないの?」


 母さんは就職した親世代の人に期待はせず、その子供を専門施設で英才教育する事で、数十年後の社会を潤わしている事実があるとデータを用いて、私に話した。すべてを数値化し、これで神里グループ全体の高齢化も少子化も無くなるし、世界を制する人間を産み出せると話していた。


「無駄に四年制大学まで進学して、卒業した女はすでに肉体的な旬は真っ最中。男じゃあるまいし、女がそこからの社会進出なんてかなり遅すぎる。だから、ウチのグループは中卒や高卒の若いうちに子供を作らせて、無条件ですべて採用するの。子供はさっきも言った通り、グループ全体で面倒を見るし、母親は子供に囚われる事なく、出産後にウチで勉強でも、仕事でも、好きな事ができるわ。」


(それがお義母さまのノズレスオブリージュって事かしら?)


 母さんは社会の成長のためには、次の世代の確保が必要だと言って、人材確保に抜かりがない。これは女性優遇に聞こえるが、パートナーがいないとウチに入るのが困難な若い男性は女性との交際をしようと若い時から必死になる。結果、晩婚化が無くなり、早期に婚姻関係を結ぶ若い男性が増える。子供が多ければ多いほど給料が上がるシステムのお陰でグループの子供たちは増える一方だし、まさに今の時代を逆らい続けるような、完璧な政策だった。


「事情は分かった。未央さんや蓮には私から言っておくけど、夜遊びは程々にしなさいね…。」


 そう言って、母さんとの通話が途切れた。


(えっ?夜遊びって事は、こっちに残って調査をしてもいいって事?)


 私のテレビ出演に大満足した母さんは私の勝手な行動を許してくれるようだった。


 母さんの三十年越しの政策が実ろうとしている。つまり、京都に住んでいる私たち世代の企業勤めをする優秀な人間はかなりの確率で神里グループの息が係っていた。結果…、独裁国家みたいな都市が誕生する。


「ばあば、ご機嫌だったね。瑠奈たちのお母さんは可愛いし、有名なテレビに出させて、天下統一でもするのかなぁ?」


 上機嫌の祖母を見て、瑠奈が戦国時代みたいな事を言い出した。


「そんなわけ無いでしょ?そんなわけ……あるかも…。あのお婆ちゃんは危ない人だから、瑠奈によく分からない結婚相手を連れてくるかもしれないよ?だから、嫌なら断りなよ?」


 ウチの長女の恵麻は8歳なのに許嫁がいる。その相手は兄嫁、玲奈の所の長男、2歳の晃也くんだ。晃也くんが恵麻以外の女の子を受け付けない(私も近付いたら泣かれる。そして、恵麻に怒られる)って言うのもあるのだが、当人の恵麻は満更でも無くて、楽しそうに自分色に染めると公言していた。


 まあ、あの人は瑠奈に興味が無いから、そこまではしないと思うけど…。


「大丈夫だよ、瑠奈はお母さんに似てて、超可愛いから、相手の男を出玉に取って、お母さんに可愛い孫を見せてあげるよ。」


 瑠奈の増せた発言はついに子供を作ると言う所まで発展していた。


(だから…、論点がズレてるよ?瑠奈。政略結婚されるって話だよ?)



「さあ、小春ちゃんは私とお風呂に入りましょうね~。」


 狐耳が大好きな日向は小春を捕まえたあと、耳を触りながら、そう言っていた。


(ひなちゃんは変態三十路女だ!こっ、小春を取り返さないと!)


 テレビ電話をしてて、目を離した隙に日向が小春を拐っていた。日向の所に向かうと私よりも近くにいた夕陽が、


「お姉ちゃん…、慶介が待ってるでしょ?早く帰りなよ。」


 変な癖を見せ始めた姉に冷たい目をしながら、日向の夫になる慶介の所に帰れと言って、さりげなく小春を取り返してくれた。


「夕ちゃん…、私には大好きなケモミミっ子を前に帰ると言う選択肢は無いの。分かったなら、小春ちゃんをお姉ちゃんに渡しなさい。」


 野々宮姉妹が小春を巡って、争い始めたが、


「ハルはユウちゃんとお風呂に入る~。」


 小春が選んだのは…、当然、変態の日向よりも、今日、半日を一緒に過ごした夕陽だった。


「はい、お姉ちゃんの負けだから、さっさと帰りなよ。」


 夕陽は姉に冷たくそう告げて、涼しい顔をして小春の手を引きながら、風呂場に向かって行った。


(この姉妹のパワーバランスは妹が優位なんだよね…。ひなちゃんは7歳も年上なのに、立場が弱すぎるよ…。)


「先生…、私、帰ります。お疲れさまでした…。」


 小春とお風呂に入れないなら、もう帰ると言った日向は、元気なく家を出ていった。


「ひなちゃ~ん、バイバ~イ。」


 瑠奈が小春の代わりに笑顔でさよならを告げていた。


(瑠奈…意地が悪!落ち込んだ所の相手に満面の笑顔で見送るなよ~。)


 私は4歳で女が完成されている娘を、この子…、可愛い表情を作ったりするし、少し…やな女だなって、私が見ていると、


「ほんと、欲しがりで寂しがりのお母さんだよね~。分かった、小春の代わりに瑠奈が一緒にお風呂、入ってあげるよ。」


 そんな目では見ていないのだが、お母さん子の小春が夕陽とお風呂に入ってしまったため、残された私は寂しがり扱いをされて、代わりにお風呂を入ってあげると言って、瑠奈に同情された。


(どんなメンタルをしてたら、こんな変な事ばかり言えるんだろ…。ほんとに私の子供なのかな?)


 大人たちや天才の姉の恵麻を出玉に取って立ち回り、異常な成長の早さを遂げる、我が娘の瑠奈は、やはり…超大物だと確信した。

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