第307話 放送の反響と首都で多発するプチ家出

「先生~、お疲れさまでした。真面目な先生も可愛かったです。」


 経済コメンテーターに可愛いと言ってしまうマネージャーに


「ひなちゃん…、真面目な話をするのに可愛さは必要ないでしょ?」


 そう言って、専門的なコメンテーターは普通、顔では無いと話した。


「いえ、話した事より、見た目がバズってます。さっきのテレビに出てた、京都から来たって言う、巨乳の若い人妻が可愛い過ぎるって…。」


 どうやら、私の真剣な話は視聴者やテレビ関係者には届かずに、リアルお人形と子供たちに揶揄された見た目だけが、インパクトを残したらしい…。


 テレビのディレクターにも(見た目が)好感触だったし、今を思えば、あの有名司会者も私の見た目に見とれて言葉が詰まっただけだと思える。きっと、明日の今ごろには私は…。


「ひなちゃん、それじゃあ…、私は帰るわね。」


 日向は同じ局に残る他のタレントとの打ち合わせやテレビ関係者への挨拶などがあるため、出演を終えた私は先に帰る事となった。別れる前に、日向は瑠奈たちを東京観光案内している妹の夕陽に連絡をしてくれた。ところが…、


「先生、残念なお知らせがあります…、妹の夕陽が瑠奈ちゃんに撒かれたそうです…。」


 やはり、起こってしまった。私は取りあえず、母親の言いつけを守り大人しくしている小春に会うため、瑠奈を見失った所へ向かう事にした。



 東京の海沿いにある施設で夕陽と小春に合流した私。瑠奈がいなくなり不安で狐耳を閉じていた小春は私の姿を見るなり、


「ママ!ルーちゃんがいなくなっちゃった。」


 母親の顔を見て安心したのか、とても上機嫌で耳を立てて喜んでいた。


「小春は言いつけを守るとってもいい子ね。」


 そう言って、約束を守る娘を抱き締めながら、褒めてあげた。


「紫音、ごめんなさい。子供だと思って油断してた。探し方はどうするつもり?」


 夕陽は私への謝罪後、どう探すのかを聞いて来た。私は小春に、


「小春。頼んでいた事はちゃんとした?」


 こうなる事は想定内のため、小春にある事を頼んでいた。


「ママ、ルーちゃんにハルの尻尾の毛を付けたよ。」


 小春はちゃんとしてくれていたので、頭を撫でながら褒めると、


「ママの手、あったかいから好き~。」


 言い付けを守るし、とても素直な所が小春の長所だ。それに褒めたり、こうして撫でるだけで機嫌が良くなると言う、かなり単純な性格だから、甘え過ぎて、人任せにする所以外は悪い部分が無い。


「小春、瑠奈は何をしているの?」


 光と影の対なる存在として誕生した特殊な双子なので、何をしているかが分かるらしい…。私が尋ねると、


「ルーちゃんはおっきな変な箱の前で着物のお姉さんと話してるよ?」


 こうして、仮に瑠奈が行方不明になっても小春がどこにいるかのヒントを私に伝えてくれる。


「変な箱と着物…、賽銭箱と巫女?神社の境内かな?霊が見える瑠奈が行きそうな所ね。そこにはきっと、何かがある。」


 ある程度の場所を聞いた私は、バッグに付けた小春の尻尾アクセサリーが小春の近くに来ると共鳴する事を知っていた。夕陽の運転する車でしらみ潰しに近くの神社を当たっていく、そして…、


「ママ!ルーちゃんが近くにいるよ!」


 居場所を特定した小春がそう言ったので、ありがとうとお礼を言って、また褒めてあげた。


「私も行くわ。見失った事に責任を感じてるし…。」


 夕陽は表情を変える事はしないが、彼女なりに心配をしているようだった。私たちが神社の中に入ると、瑠奈と若くてキレイな着物女性が話していた。


「瑠奈!また、勝手に一人で出歩いて、みんなに物凄く迷惑を掛けているのが、分からないの!」


 自分勝手な行動を取る娘を叱りながら、近付くと…、


「随分、若い母親ね。それに連れている子は…、狐?」


 若くてキレイな女性がそう呟いたので、


「ウチの娘がご迷惑をお掛けしました。神里 紫音と申します。こっち側の関係者の方とお見受けしますが、あなたは、ここの神社の方でしょうか?」


 私は自己紹介をしたあと、瑠奈と話していたようなので、何者なのかを尋ねる事にした。


「いえ、私は少しだけ霊感のある人間なだけですよ。少し前、この一帯に不穏な気配を感じたので、私よりも早くここに来ていたあなたの娘さんに、辺りで何かを見ていないか、質問をしていただけです。」


 そう言って、彼女は「それでは…。」とペコリと頭を下げたあと、早々に立ち去ってしまった。


(結局、何者なのかを教えてくれなかったよ…。)


 若いのに、落ち着きがあって、清廉な雰囲気を出していた彼女は何者なんだろうと考え込んでいた私に、


「あの人は警察関係の人だよ。微笑みながらも眼光は鋭いし、誰と聞いても、名乗らず、その質問の交わし方が手慣れている。」


 世代トップの頭脳を持つ夕陽は私の背後で、怪しいその女性をじっくりと観察していた。


(警察関係の人なのに…なぜ、着物?何かの式典や誰かの結婚式ならパーティドレスだろうし、まさか…、お見合いの帰りだったとか?)


 私は着物を着る理由を考え込んでいると、


「ねえ、紫音は既婚者だから…、考察中はとてもオバサンくさいわね。内面が年齢不詳と言う意味では、さっきの女といい勝負になりそう。」


 夕陽は私に対してもよく観察していて、考察などの集中をしている時の態度は年齢不詳のオバサンみたいだと言ってきた。


(昭和最終世代の記憶を持っている事がバレてる…。何だかんだで私って、今の若い子っぽく無いからな~。)


「それよりも…、瑠奈!なんで夕陽さんや小春から離れたの?」


 今ほ怪しい女性の事を考えるよりも、瑠奈を問いただす事にした。


「う~ん、瑠奈は誰かに呼ばれたの~。」


 瑠奈は何かに誘われる形でここまでやって来た事を話してくれた。


(瑠奈の意思で来た訳じゃない?今は無いけど、引き寄せるくらいの何かが、ここにはあった。真っ先に感付いた瑠奈や、少し遅れてさっきの女性がここにやって来たって事なのかな?)


「もしかすると、若い女性のプチ家出じゃ無いのかな?最近、20代の女性が相次いで、行方不明になって、数日後に帰って来るって…。田舎なら、大騒ぎだけど、ここは首都の東京。行方不明者は必ず帰って来るし、事件性の感じない事に警察は動かないし、家出が流行るなんて、ほんと、変な感じよ。一部のSNSなんかで流行りのプチ家出ってなってる。」 


 東京に夕陽は自分もその年代だから、気になった事を明かしてくれた。


(それと幼い瑠奈の行動に関連があるとは思えないんだけど…。)


 でも、似ているケースが最近、京都でも起こったから、他人事ではない。これから、事件性が出てきて、大きな騒動にならなければ良いのに…と私は考えていた。

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