第306話 ウチの企業の取り組みと闇過ぎるその裏事情

 テレビ局の駐車場で二人きりになると、日向が私の近くに寄って来て、

 

「先生、ヤバいかもしれません…。」

 

 何かトラブルでもあったのかを聞くと、

 

「先生が本気で化粧をしたら、想像以上に可愛すぎるから、きっと、業界がざわつきます。この放送後…、間違いなくオファーが来ますし、恵令奈ちゃんより目立ったら、ウチの事務所にダメージが…。」

 

 日向は姉嫁の玲奈に本気の化粧をされた私の顔を見て、呟いたので、

 

「だから、言ったよね!自慢じゃないけど、私ってひなちゃんが思っているより、人気があるんだって!」

 

 自画自賛する声が辺りに鳴り響く中、私はこの仕事を引き受けた事自体、後悔していた。



 生放送の事前打ち合わせを終えると、あっと言う間に本番が始まり、そして…私の出演時間が来た。


「ここで本日のコメンテーターを紹介します。世界経済が混沌とするなか、業績を高く維持し続ける京都にある神里グループ。今回はその現会長の神里 桜子さんの義理の娘さんで、アメリカの大学で経済学を勉強して、世界情勢に詳しい、神里 紫音さんのお話を伺いたいと思います。神里さん、よろしくお願いいたします。」


 司会者から紹介された私は、


「神里です。本日はよろしくお願いいたします。」


 ガチの報道番組のため、私はキリッとした表情で挨拶を済ませると、


「神里さんは高校一年生の時に、神里グループが出資する、未来の日本経済を支えるプロジェクトでスカウトされ、飛び級でアメリカの大学に行き、勉強なされたそうですが、神里さんのグループの取り組みと政府の経済政策が現実の私生活とどれくらいの差異が発生していて、どこに問題があるのか?を教えていただけませんか?」


 早速、難しい質問を振ってきたため、


「まず、神里グループでは、独自で少子化対策を手厚くしました。三人の娘がいる私もそうですが、グループの採用条件は子供を育てている方を再優先しています。例えば、私みたいに17歳で子供を出産している場合、それだけで採用条件を満たし、就職内定が約束されます。しかも、会社では…、子供の数によって昇給倍率が大幅に変わります。


 高校在学中の途中で、もし、出産した場合でも、社内であらゆる教育を受けられていますし、生まれた子供の子育ては、グループ関連の託児所で24時間、完全に社員をバックアップします。そんな独自の少子化対策を行った結果、神里グループの本社の社員の平均年齢は20代半ばという、驚異的な数字を叩き出して、高い業績を維持し続ける事が出来ています。」


 そう言って、ウチの母親が行っていた、狂っている独自政策を話し出すと、


「では、子を産めない女性、もしくはLGBTQの人はグループでは、採用をなさらないんですか?」


 この政策の盲点を司会者から指摘された。その質問に私は、


「何も自分で生まなくても良いのですよ?実際に私の長女は養子ですし、子供がいれば、問題なく採用をされます。なので、40代以上の年齢の方もでも、LGBTQの方もウチのグループにはおられます。採用条件で重要なのは、子供がただ、いるでは無くて、きちんと育てている事なのです。


 若い男性の方も、女性とウチのグループに入れば、就職内定を貰えますので、中学生活、高校生活の中で相手をお決めになられて、中学や高校のうちにお相手の方が妊娠をして卒業後に出産されて、同時に夫婦で入社されている方も多いです。」


 神里グループは10代の若い男性も働いている事が多い、理由はすでにパートナーの女性が出産を経験していて、それを理由に採用されているからだ。


 しかし、ウチは良い事ばかりでは無い。


「ただ、社員の中で私生活や職務態度に難があったり、育てている子に幼児虐待などを起こしたりしてしまうと…、専門の施設で再教育を受けるはめになるので、自身が解雇をされてしまうだけの他所の会社よりも…、社会的なモラルに対して、かなり厳しい会社です。」


 私はグループの闇部分も少しだけ話すことにした。母さんの正義に反する行動をした場合、あの悪魔ははおやはその問題社員の人格を更正させて、聖人君子のような人間に変えてしまう。当然、その聖人君子となった者の人間らしさは無くなり、会社と子供に愛を注ぐだけの何かになる…。


(勤続半年でだいたいの人は…、人間ではない、不思議な何かへと中身が変わってしまう…、その事は死んでも言えない闇部分。)


 

「それが会社を立て直した最大の要因なのですね…。グループ会社の経営方針をお聞かせくださりありがとうございました。」


 司会者も、聞いたこともないグループ経営をしているウチの母さんに驚きを隠せないようだった。



「次に政府の政策についてなのですが、抜本的な改革を行うと現政権は言ってますが、一向に改善が見られません。それはなぜでしょうか?」


 一向に世の中の景気が良くならない点について尋ねられた私は、


「政府がジャパンファーストと考えるなら、国外に流出する資金を見直すべきなのではと考えられます。」


 そう言って、今の日本は国自体が貧乏だから、国外支援や外交費などのお金の流出を防ぎ、もっと節約するべきだと話し、


「海外の国に使うお金を節約したら、そのお金を日本で回せるのですが、あくまで節約の範疇なので、それだけでは、当然、景気は良くなりません。


 国民は国が貧乏だと理解し、勤労意欲を持って取り組もうとする意識を持たないと、折角の節約意識が無駄になって、生産性が下がり、景気を悪化させる。


 海外のように、労働総時間が減って来ている今の社会で、生産性の向上は最も取り組むべき課題で、新しい労働形体に私たち国民が対応する事。それが、経済を潤すきっかけになるのですが…、景気実感が沸かない私たちは目の前にある厳しい現実を直視出来ない。そんな世の中になっている。それが一番の経済成長出来ない要因なのかも…しれません。」


 日本の景気が悪いのは、国民の貧しさの意識で、労働意欲が下がってしまった事にあると語り、暗い気持ちがすべてを悪化させている事を明かした。そこが経済成長している国と経済が落ち込む日本の大きな差だと言う事を話した。


(私には見えるからね、自らが負のオーラを出してしまい、悪意に取り憑かれて闇落ちする人が…。)


 社会の暗雲は人の悪意を活発にさせる。社会の景気が悪いと負のオーラが渦巻き、この世に未練を残して亡くなる人が増える。その結果、白河家の仕事が増えてしまうのだ。



「気持ちの問題ですか、確かに景気が悪くて、生活が辛い状態で落ち込んだままで仕事をしても、効率がどんどん悪くなりますからね。


 政府は海外などに流出する資金の見直し、国民は働く意識を変えて生産性の向上を目指す事、双方の取り組みが経済を良くする一歩になると言う事ですね。神里さん、貴重なご意見をありがとうございました。」


 その司会者から一言で、私は無事に出演を終える事になった。


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