第301話 人気者の紫音と変わらない親友

 幼稚園バスを待っていると、あるお母さんから得た情報の中に気になる事があったため、詳しく教えて欲しいと聞いていた。


「そう、あの恵令奈が若いイケメンと歩いてたの~。清楚系のマルチタレント、祇園祭りで密会デートって感じ!」


 どうやら、恵令奈がどこかしらのイケメンと二人で歩いていたらしい…。


(芸能人の熱愛ネタだね。恵令奈さんも有名なんだから、気を付けないとダメだよ~。)


 最近の恵令奈は使っている体の影響を受けて、とてもクールな性格に変わっていた。例え、恵令奈の人格が変わってしまっても、橘 紫音の記憶を持っているのは事実だし、いつも親みたいな気持ちになり、些細な事でもこうして動向を心配してしまう。



 そんな恵令奈の事を考えていると、幼稚園の送迎バスが到着した。しかし、バスから降りてきた女の子の園児たちが私を見つけるなり、


「今日は紫音ちゃんがいる~!」


 自分の母親たちを無視して、お姫様ルックスの私に寄って来る。どうやら、大人気のアニメに私みたいな運動神経抜群で胸が大きくて、ウエストが細いスタイル抜群のキャラクターがいるらしい…。


(私はそのアニメのキャラクターでは無いんだけど…。)


 爆発的な人気の原因は、瑠奈や小春が母親の私の自慢をしたわけでは無くて、私の妹で未央の娘の美空が私には最高に可愛いお姉ちゃんがいると私たちが日本に帰国するずっと前から、幼稚園で自慢をしていたらしい…。


(聞かされ続けていた子供たちの過大な評価が大きくなりすぎて、実物をより良く見せているハロー効果が起こっているよね…。)


「大人気よね、紫音ちゃん。分かるわ、私が男だったら、絶対に襲っちゃうもん。」


 ママ友にすら、その容姿を見て興奮するとまで言われてしまう。


「さすがは紫音お姉さま…。美空は妹として誇らしいです。」


 度の越えた姉自慢をしていた美空はこの状況を見て、かなり満足そうに眺めていた。


「ルーちゃん、みんな、ハルたちのママが好きなんだね。」


 小春はそう言って、気にする事もなく瑠奈に聞いていた。


「何もしなくても、大人になったら、瑠奈たちもあれくらい人気者になれるよ。」


 私の血を引く瑠奈は自分の容姿にかなりの自信を持っていた。


「え~、ハルはあんな目に遭いたくないよ~。」


 小春は私の揉みくちゃ状態を見て、人気者になる事をやんわりと拒否し出した。


(いつもだけど…、冷静に眺めていないで助けてよ~。)


 こう言う時は何故か母親に甘えて来ない小春と楽しければなんでも良い瑠奈。母親たちが自分の子供たちを連れて行ってくれたあと、ようやく解放された私は、三人を連れて白河家に戻り、子供たちに手洗いなどをさせた。瑠奈と美空はそのままリビングへ、私は荷物を置きに小春と一旦、客間へ向かうと、


「先生~、お邪魔してま~す。」


 何故か、日向がいた。彼女は相変わらずの明るい口調で挨拶をしてきたので、


「こんにちは、ひなちゃん。そうだ…、ウチの三女の小春は初めましてだよね?小春、元同僚の野々宮 日向さん。挨拶をしなさい。」


 小春は日向と初対面のため、挨拶をするように話すと、


「ハルはコハルって言います。よろしくお願いです。」


 小春は若干、惜しい敬語になっていた。日向はその小春を見た瞬間に、


「まさかのケモミミ!先生の娘のケモミミ、可愛い~。」


 小春の狐耳を見て、興奮した日向が小春を抱き上げて、愛で始めた。


「ママ、この人、変だよ~?」


 日向が小春の耳を変な手付きで触り始めたため、触られても普通にしている小春が冷静な態度で日向を変な人だと言い出した。


「あ~、尻尾がフサフサ~。先生にこんな隠し子がいたなんて…。どうやったら、ケモミミっ子が生まれるんですか!」


 日向的には、狐耳を持つ小春は隠し子らしい…。私は小春を産んだ記憶が無いため、出生の事をはぐらかしながら、魂が九尾の狐だから、狐耳と尻尾があると説明した。


「先生、この子を子役デビューさせませんか?私がスーパースターにします。」


 小春の狐耳を見て、完全に壊れた日向は、当初の目的を言わずにずっと小春を愛でていた。


(ひなちゃん…、ここまで来ると、完全にヤバい女だよ?)


「ひなちゃん、小春の事よりも、ここに来た目的を教えてくれないかしら?」


 私は彼女に何をしに来たのか?尋ねるとようやく、


「ハッ!そうでした!小春ちゃんが可愛すぎて…、私、何をしに来たかをすっかり忘れていました~。」


 でも、小春がいるなら問題ないですと言い出した。


(ダメだ、この人、まったく話にならないよ…。もう三十路なのに、こんな感じで触ろうとするから、ウチのマリアに嫌われるんだよ。)



 ケモミミ最高!と壊れた日向を相手に頭を悩ませる私と、どうしていいのかが分からずに固まる小春は、変な癖を持つ日向を相手に困り果てていたため、隙を見て小春を取り返した。そして、イラつきながら、彼女に何をしに来たのかを聞いていた。

 

「ひなちゃん…、いい加減にしないと、本気で怒るよ?」

 

 私がいい加減にしろとキレ始めると、

 

「ママを怒らせると怖いんだよ?強いんだよ?」

 

 小春も機嫌の悪い私を見たくないのか、抱っこされたまま、説得?し始めた。すると、ようやく日向が、

 

「む~、そうだ!私、慶介と結婚します。だけど、慶介って、7歳も年下だし、ちょっと子供っぽいし、私の事をお母さんか何かだと思ってて、夜は積極的じゃ無いんです…。男の人ってどうすれば、野獣のように激しくしてくれますかね?」

 

 突如、日向は7歳年下の慶介との結婚の話をしたのだが、内容は夜の過ごし方だった。

 

(小春がいるのに、なんて事を聞くのよ!ほんと、いっつもデリカシーの無い人だよね…。)

 

 イラッとした私は、

 

「そんなの知らないよ。ウチの恵麻に精力剤でも作って貰えば?」

 

 小春にそんな事を聞かせるなと言わんばかりに軽くあしらうと、

 

「その手があったか!分っかりました~。今から頼んで来ます!」

 

 そう言って、日向は客間を飛び出して行ってしまった。


(ひなちゃんの用事って、それだったのかな?あの子、絶対に本来の目的を忘れているよね…。)


 私は日向が折角、ここに来たのだから、恵令奈のスキャンダルの件をあとでじっくり聞こうと思っていた。

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