第300話 家庭のバランスを保つコツ

 呪いの発生源は依頼人では無くて、彼女から私に取り憑く形で現在は保持している。でも、私には悪霊の声は聞こえないし、聞こえたとしても、戯れ言に耳を傾ける事もしないだろう…。


「もしかして、呪いはお母さんの能力の一部として取り込まれたのかもしれないね。文字通りの呪いに打ち勝ったって事だよ。」


 恵麻は悪霊の声が聞こえないと言った私が呪いを自らの力として取り込んだと推測し始めた。


「そうなのかな~?恵麻、そのサングラスを外して本音を語って、私に甘えてみてよ。」


 恵麻は相変わらず、私の目を見る時にサングラスを掛けたままだったため、外して私の目を見てよと告げると、


「あんな恥ずかしい思いは嫌だけど、お父さんたちが不幸な目に遭うのも可哀想だから、呪いを解くか、お母さんに能力としてコントロールしてもらうしか無いよね…。」


 恵麻はどうしようと真剣に考え始めた。私はすかさずにそんな恵麻を捕まえて、


「恵麻ちゃ~ん、捕まえた~。さあ、お母さんと親子のスキンシップを始めましょうね~。」


 そう言って、娘を捕らえるとさぞかし抵抗するかと思いきや、


「ゴリラお母さんの行動くらいはお見通しだよ。」


 そう話すと、目の前に体長40㎝ぐらいの兎が私の前に現れた。


(あっ、可愛い。でも、魂の色が無いし、これは生き物じゃない。)


 そのは二足歩行で立ち上がると、私に向かって突撃してきたので、慌てて交わすと、兎はコンクリート壁に突き刺さっていた。


(怖!固い壁がへこんだよ!)


「私はお母さんよりも何倍も頭が良いのよ。対不審者用に兵器を用意しているに決まってるじゃない。さあ、忍ロボ二号、ウサギのプリンちゃん。腕力ゴリラのお母さんをやっつけて!」


 指示を受けた兎ロボは私の体に目掛けて突進を繰り返す。このまま交わしても良かったが、突き刺さって壁を壊されると、私が弁償しないといけないため、恵麻を横に解放して、攻撃を交わすと同時にその兎ロボを捕まえた。


「確かに突進のパワーはスゴいけど、当たらなければ問題無いよ。」


 私に捕らえられてモゴモゴと暴れる兎型の兵器、やがて抵抗を止めて動かなくなったので、


「恵麻、またこんな物を作って…、全然、忍んでないじゃない。」


 私は動かなくなった兎ロボを恵麻に突き返すと、


「この子は護衛型なの。私のピンチに現れて敵と見なした相手に攻撃するだけの忍ロボ。だから、お母さんが私を離したら、その人物への危険性が無くなったと感知して、攻撃を止めたの。この子を改良して将来は小春の護衛をさせるつもりよ。あの子は人を疑わないバカだから、不審者に連れ去られちゃうもん。」


 姉なりに無邪気な妹の事を心配しているらしい。


 頼もしい限りだが、ロボの力加減をどうにかして欲しいと感じた私は恵麻に調整をあとでお願いしようと考えていた。そんな恵麻が兎ロボを地面に置くと、兎ロボは本当の兎のように、草むらの中に飛び込んで要警戒の私を睨み付けて、忍として護衛活動を始めた。


(あっ、忍ぶ設定は守って、草の中に隠れるのね…。都会の建物ばかりの場所だと、どこに忍ぶんだろう?建物の上とか?)


 この呪いを発動させないためにはどうするかを考えていた私たちは埒が開かないと考えて、依頼完了報告をしに白河の事務所に戻った。未央に依頼を無事に終えたと報告すると、


「いつも、これくらいのスピードでこなして欲しいものね…。目を見ると本音しか喋れない呪い?私は紫音が調子に乗ってもらうと困るし、みんなから辛口批評されるのはちょうど良いんじゃないのかしら?」


 鬼母の未央は私のためになるならと語り、呪いを歓迎していた。


「未央お母さんは私に隠し事とかしないの?」


 私の目を見ても、まったく変化が無いので、聞いてみると、


「紫音は私の可愛い娘だし、昔の約束も叶えてくれたし、大好きよ。」


 (約束?)忘れているため、約束とは何かを聞くと、


「私の娘とあなたの娘、どっちが優秀かを競わせるって話したでしょ?瑠奈ちゃんは早生まれだけど、美空とは同級生でしょ?同じ年齢で、同じ性別。それって最高じゃない。ありがとう、美空にライバルを作ってくれて…。」


 未央はかなり上機嫌で答えてくれた。


(未央お母さん…、娘の事で母親マウントを取れて楽しそうだね。)


 最初の出会い以来、美空には頭が上がらない瑠奈は完全に手綱を握られている。きっと、私と一緒で、逆らうべき相手では無いことを理解してるんだ。


「美空ちゃんは私の妹でもあるし、優秀な妹がいて、私も嬉しいよ、お母さん。」

 

 素直に優秀な美空を褒めると、私が負けを認めたように聞こえたのか、未央の機嫌はさらに良くなっていた。


(未央お母さんは本当に親バカだよね…。だから、平凡以下の能力しかないポンコツの小春が好きなのか。)


 娘の私を相手に子供の優秀さでマウントを取ってくる、母親の未央を見て、私は瑠奈に美空へは歯向かうなと告げておく事にした。賢い瑠奈なら、空気を読んで逆らう事はしないと思うけど…。


「紫音。仕事が終わって暇なら、美空たちのお迎えヨロシクね~。あっ、恵麻ちゃん、早急に頼みたい仕事があるんだけど…。」


 未央は恵麻に頼みたい仕事があると言って事務所に戻ってしまった。


「お母さん、良かったね。瑠奈がバカ娘で…。お母さんもこの家では、空気を読んで、ダメな母親のフリをしときなよ?」


 私にそう告げた恵麻は、事務所へ戻って行った。


(女の世界は、長い者には巻かれろって事ね…。)


 恵麻が私に事務を手伝わせない理由は、私を何でも腕力で解決するバカに思わせるためで、その印象カモフラージュのお陰で私は後輩から、ヤバい怪力女だと思われてる。



 事務が出来ない認定されてる私は、幼稚園のお迎えの時間が来るまで、未央の代わりに普通の主婦っぽく、白河家の家事をこなす事にした。


「そろそろ、お迎えに行かないと…。」


 私は瑠奈たちを迎えに行くため、幼稚園バスを待っていた。当然、本音の呪いが発動しているため、ママ友たちは私を見るなり、罵声を浴びせるのかと思いきや、


「紫音ちゃんって、性格も良くて可愛いし、姑や姉嫁にイジメられて無いの?」


 今時、珍しい三家族以上の同居をしている事について根掘り葉掘りと聞いてきた。


(私の悪口よりも、本音で気になるのはソコなのね…。)


 運が良い私は、ママ友からイジメられる事は無く、可愛い瑠奈ちゃんママとして仲良く送迎バスを待つ事が出来た。

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