第299話 薄汚れたこの世に必要な家族の形とは…

 私は恵麻を連れて依頼人の所へ行き、私なりの答えを語った。


「つまり、あなたの言い分では、私の心が弱いから、最善の選択肢が見つけられずに死を選んだって事?それで私が納得すると思っているんですか?」


 依頼人は案の上、少し怒っていたので、


「あなたは家族の異変を放置して、自分の人生だけを考えて生活していた。例えば、通う大学は何故?実家近くでは無くて、まったく所縁も無いこの地を選んだんですか?何故?就職先を家族に何も言わず、選んだんですか?あなたは長女にも関わらず、家族問題に薄々気付いていて、放置して逃げたと見られても、仕方無いですよ?」


 家族崩壊の前兆を逃した彼女の落ち度を上げるとキリがないため、


「あなたがもし、家族を縁の切れない相手だと、考えているなら…、近くにずっといるべきだった。加害者や被害者の事を家族だと思っているから、誹謗中傷には反応してしまうし、自分が傷付いてしまうんです。あなたがもし、何も気にしない人間なら、死んだ人間や殺した人間に血の繋がりがあったとしても、どうでもいい事でしょ?悪霊の声に耳を傾けた時点で、それを戯れ言と捉えられずに悩んでしまった事で闇に漬け込まれた。違いませんか?」


 私は依頼人に対して、ハッキリした物言いで話を続けると、


「家族を割り切れ…だなんて、あなたは冷たいのね…。私は家族が怖くて、関わる事も忘れる事も無理だった…。」


 彼女がハッキリと責めてくる私を冷たいと揶揄したら、


「お姉さん、それは違うよ。ウチのお母さんは6年前の高校一年生の時に当時2歳だった私を引き取った。そこから6年間もずっと家族をしてくれているし、唯一、血の繋がりが無い私を妹たちと同じように、愛してくれている…。お母さんの悪霊の悪意をはね除ける強さは、容姿に恵まれているからでも、環境が恵まれているからでも無いよ…。


 確固たる意志があるから、運が味方してくれるんだよ。」


 恵麻が私の前に立って、私の強さがすべての運を呼び寄せていると依頼人へ話した。それに対して、私は、


「少し違うよ、恵麻。人間の意志の強さは家族で決まるんだ。私はあなたや瑠奈たちの母親だから、誰よりも強くならないといけない。母親の私が揺らげば、娘のあなたたちを弱く育ててしまう。反対にあなたたちが、私の言うことを聞かずに勝手な事をすれば、私を苦しめて家族全体が弱くなってしまう…。


 家族は運命共同体なの。家族の誰かが、家族を蔑ろにすると、脆くも崩れ去る。だからね、依頼人の家族の事件は親が勝手な行動を取った事で始まった。それに呼応する形で子供たちも勝手な行動を取って、それぞれを弱くして崩壊したの…。結果、身内が身内を殺める事になってしまったの。」


 家族崩壊の原因は親であり、加害者の妹も依頼人の彼女にも絶対に止められなかった。


「だから、あなたの一番良い選択肢はそんな家族に見切りを付けて、見捨てる事だった。それが出来なかった、決断出来なかったあなたは…、その時点でこの結果を選ばざる得なかった。」


 その甘さがあなたの弱さだと話して、その弱さがあなたの選択肢を間違えた方向へ導いたと話して、私は依頼内容の報告を依頼人の彼女へ伝えた。そんな私に彼女は、


「ありがとう…、くだらない事を真剣に考えてくれて…。」


 と答えて、涙を流して崩れ去った。



 少し時が経ち、落ち着いた彼女に恵麻が、そろそろ…行きましょうと声を掛けて、


「お姉さん、現世への未練が拭えぬ事は一生無いでしょうが、生まれ変わった先で、その業を転生した者が引き継ぐ事になります。だから、あなたは振り返らずに門の向こうへ進んで下さいね…。」


 恵麻がそう告げると、彼女はありがとうと恵麻に告げて旅立って行った。



「彼女は最後まで、お母さんと目を合わせなかったね…。」


 恵麻は呪いの事があったから、少し後味が悪いよと答えると、


「私に呪いを掛けたから、本音を見抜かれるのが怖かったのかもしれないね。」


 今回は呪いの件に触れない形で彼女を見送る事にしたと話した。


「お母さんが娘に甘いお父さんへ怒った理由が分かったよ。瑠奈が家族に嘘を付いて私たちを蔑ろにしたから、反省しろって言ったのに、その意図を読み取らなかったお父さんに怒ったんだね…。」


 恵麻がそう言って、ウチに夫婦ゲンカが勃発した理由を考え始めたから、


「蓮さんはあれで良いのよ。私は家族の核が母親にある事を知っているの…。良い母親は家族の悪者になれる母親よ。未央お母さんはいつも鬼のように私には厳しいし、神里のお義母さんもネチネチしてて、わざと家族の輪を乱して敵対して、結び付きを強くしようと心掛けている。母親が子供に厳しくなれない家庭はそれだけで、不幸な家庭だと私は思うわ。だから、瑠奈や小春に厳しくしない私は母親としては未熟な母親なの…。


 家族の形は、怖い母親と優しい父親が家族の理想よ。逆に父親が怖ければ、暴力にモノを言わせちゃうし、恵麻も知っているだろうけど、家に居なくて逃げるのが得意な男はバカな生き物だからね。変に居座られても邪魔なだけ…。だからこそ、家を守る母親が精神的にも、肉体的にも圧倒的に強くなきゃダメなの。」


 長女の恵麻にだけは私の理想を語っていた。それを聞いた彼女は、


「へぇ~、お母さんは未央さんや神里のばあばみたいになりたいんだ~。確か、あの鈴花伯母さんさえも、キッチンで夫婦ゲンカする弟の光さんにビンタして、叱り付けたんでしょ?良い女はみんな度胸があるんだよね~。なら、お母さんは最強だよ。」


 彼女は私の事を最強だと話した。それはなんで?と聞くと、


「え?だって…、この間は悪い事をした岡崎さんの弟を容赦なく、三節棍でブッ飛ばしたし、桂川で人拐いをしていた悪霊も消滅させたし、6年前も千年間も人間に寄生して生き続ける悪霊をお母さんが地獄へ葬ったんでしょ?本当に悪い事をしている奴はみんな、お母さんがやっつけてるもん。」


 そう言って、私が今までしてきた事を話し出した。


(そう言えば、この体になってからはかなりの数の悪者を力ずくでねじ伏せて解決した案件が増えたような…。)


 私は恵麻の意見に頷きながらも、


「恵麻、今の私は困ったら、腕力で解決するゴリラみたいな女だよね…。」


 と呟くと、恵麻は「ウケる~。やってる事、瑠奈や紫織たちと一緒、娘たちに真似されてる~。」と言って笑いだした。


(私は夫を庭に投げ飛ばしたりしてないよ?一緒されたく無いんだけど…。)


 アニメで見た格闘術を実践で使いこなす三人の脳筋娘とはやってる事が全然違うよと、私は全力で否定していた。

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