第302話 危ない大人たちと増せた子供たち

 昔から、まったく落ち着きの無い日向にため息が出ていた私は、風のようにどこかに行ってしまった日向の姿に呆気を取られていた小春を連れて、瑠奈たちがいるリビングへ向かっていた。


「瑠奈たちとおやつの時間にしよっか?」


 と伝えて、子供用の柔らかくて甘めのクッキーを差し出すと、


「ママのクッキー美味しいから好き~。」


 クッキーを目の前に上機嫌になった小春と私がリビングに到着すると、瑠奈と美空が仲良く女子トークを楽しんでいた。


「美空ちゃん。少しの間、小春をお願いね。仕事の話をしてくるから。」


 私は可愛い袋に詰めたクッキーを小春に持たせたあと、それを食べさせている間に日向の目的を確かめる事にした。


(今の時間なら、恵麻は事務所にいるはず…。)


 日向が向かった事務所に入ると、未央と恵麻と日向が私が大人たち用に作った甘さ控えめのクッキーを食べながら、真剣な雰囲気で話し込んでいた。


「私も年下の許嫁がいるんですけど、まだ2歳なんで、刷り込み教育をしている所なんですよ~。だから、日向さんはこれを飲ませると良いですよ。」


 そう言って、恵麻が変な薬を日向に差し出していた。


「ひなちゃん、効き目は抜群だから、安心して。あの気弱な夫がそれを飲んだ日はスッゴい勢いで激しく求めてくるの。」


 未央はその怪しげな薬を試したらしい。


(ほんとに興奮剤を作ってた!)


 年下の夫に薬を盛って夜の生活を語る未央、そのヤバい薬を作っている恵麻、私が適当に言った薬の話が実在していて、ヤバい薬を差し出されてしまった日向。年下で頼りない男を積極的にする方法についての井戸端会議を見てしまった私は、


「あの~、お楽しみの所を申し訳無いんですけど…、ひなちゃんの本来の目的を聞いていないので、そろそろ話して貰えないでしょうか?」


 間に入って、日向の目的を聞こうとすると、


「お母さんは年上の旦那さんだから、日向さんの性生活の悩みなんて分からないでしょ?今、良い所だから、邪魔しないでくれないかな?」


 年下の許嫁がいる娘に理解できない人は話に入って来るなと言われて、


「そうね、紫音って、夜は相手にされるがまま任せちゃうんでしょ?なら、話が終わるまで、お子ちゃま同士、美空たちの所へ戻って一緒に遊んでいなさい。」


 未央から、夜、夫にリードされっぱなしの女はお子様だから、子供たちの所で待っていろと言われた。


「先生の夜は中学生の女子ぐらいの女経験しかないし、大人の女の話し合いに参加するには、まだ早いですよ~。あとで迎えに行きますから、自分の子供でもあやして待ってて下さい。」


 日向には中学生の女子並の経験値だと言われてしまった。


(私は三人の子持ちの親なのに、全員から経験が足りないって言われたよ…。)



 年下の男持ち同盟に門前払いされた私は、仕方なく瑠奈たちの所に帰ってリビングの椅子に座ると、


「ママ、おかえり~。」小春は定位置のように私の膝の上に登り、


「紫音お姉さま、その顔は…お母様に追い出されたんですね。」


 すぐに戻ってきた私の行動を予測して美空は言い当ててきた。こっちは何の話をしているのか、耳を傾けると、


「瑠奈なんか、可愛すぎて毎日、三人の男の子に告白されるよ?」


 恋バナトークで増せ発言をする我が娘の瑠奈と、


「私には親衛隊がいるし、殿方の支持数は今の瑠奈ちゃんよりも多いですよ?」


 未央の娘、美空も負けじとモテアピールしていた。


「ハルはママとパパが好き~。」


 小春だけはスゴく子供らしくて、まともな意見を言っていた。


(この子は子供っぽくて、スゴく癒されるよ~。)


 子供はこうじゃないとダメだよと感じた私は小春が一番可愛いと言って、抱き締めていると、それを見ていた瑠奈が、


「確かに今のお母さんは小春ぐらいのお子さまが丁度良いのかもね。可哀想だから、仲間に入れて上げようよ、美空ちゃん。」


 そう言って、増せた幼稚園児二人が取り仕切るグループ会話に入れて貰える事になった。


(もしかして、私って、話の合う友達がいない母親だと思われてない?)


 若干、瑠奈からバカにされた気がしたが、小春は私がいるだけで楽しそうだし、美空は姉の私をとても慕ってくれる。あのヤバい薬のやり取りをしている会話よりかは楽しいと感じた私は瑠奈たちと日向を待っている事にした。


 しばらくすると、話の話題は自分の姉の事に変わっていた。


「しっかし、恵麻お姉ちゃんはなんでも作っちゃうよね~、この間なんか、お姉ちゃんにじゃれてたら、変なウサギが襲ってきて、叩き落としたんだけど、お姉ちゃんが、あんた…これがいくらすると思ってるの!ってキレちゃうんだよ?忍だか、ロボだか、知らないけど、給料を何に注ぎ込んでるんだって感じだよ~。女子なら普通、服とか買うよね?」


 瑠奈は私にも襲ってきた兎ロボを壊して怒られたため、その腹いせに姉のおかしな金使いを暴露し始めた。


(瑠奈に一度壊されたから、あの兎は改良され、突進速度を強化されたのね…。)


「ネエネエはハルにおっきなうさちゃんのお人形を買ってくれたよ~。」


 小春は姉からぬいぐるみのプレゼントを買ってもらったと言い出した。


(なるほど、ロボが兎型なのは、小春が好きだからなのね…。)


 小春にぬいぐるみをプレゼントした事を聞いた瑠奈は、さらにふて腐れるように、


「え~、私にはこ~んな分厚い本を買って来て、あんたはバカだから、これを読んで勉強しなさいって言って来るんだよ?それって、妹差別じゃない?」


 自分には参考書みたいな本を買って来て、勉強をしろと言った姉への差別待遇に不満をブーブー言い出してしまった。


(恵麻は妹たちの能力に見合ったプレゼントをそれぞれに渡すのね…。)


 妹に何かを買った事が無い、酷い姉の私が美空をチラッと見ると、


「紫音お姉さまは妹の私に手作りお菓子をいつもプレゼントしてくれます。今回も、チョコレート好きな私にだけは特別なチョコチップクッキーにして下さいました。本当に出来る姉のプレゼントは手作りなんですよ。」


 手作りお菓子を渡すだけの安上がりプレゼントしかしない私、それでも、美空はとても嬉しそうに姉の事を自慢して、満足してくれる優しい妹だった。


「恵麻お姉ちゃんのロボもある意味手作りだけど、悪の秘密結社が作りそうな危ないヤツがほとんどだから、要らないな~。」


 恵麻の手作りは兵器だから、アレはいらないと瑠奈は言った。


 増せ発言がたまにあるようだが、仲良し会話に混ぜて貰った事で平和な世界を感じる事が出来た私は、久々にのんびりとした時間を過ごせる事になった。

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