第296話 我が家の朝に、男の居場所は無い

 今、私は窮地に追いやられている。義兄の光が何を考えたのか、朝から突然、私に抱き付いて来て、悪いタイミングで光の嫁の玲奈が現れた。そして、不倫っぽい行動をする私たちに何をしているのかを聞いて来たのだ。


 ところが、怒りの玲奈に光は動揺する事もなく、

 

「玲奈、紫音ちゃんは蓮と夫婦ゲンカをして、困っているんだよ。そんな困った娘を俺は放っとける訳が無いだろ?」

 

 光は娘みたいに可愛がる、私と弟の蓮の夫婦ゲンカを心配して、安心させるために抱き付いて、落ち込んでいる私を励ましたと玲奈に話した。

 

(良かった~、好きだとか言われたら、どうしようかと思ったよ…。でも、光さん、私は落ち込んでないよ?)

 

 私は光が恋愛感情で抱き付いたのでは無いと知り、安堵していると、

 

「親子みたいな関係だからって、朝から抱き付くのはオカシイでしょ!どうせ、私より大きな胸を揉んでみたいって、考えて近付いたんでしょ!このエロ親父!」

 

 よほど、ショックだったのか、玲奈は怒りが収まらずに光へ詰め寄ると、

 

「玲奈!君はどうしてそんなに嫉妬深いんだ!紫音ちゃんは夫婦ゲンカで不安なのに、兄嫁として、年上の女として、なんで、支えてやろうとしないんだよ!」

 

 今度は義兄夫婦の玲奈と光が私の事でケンカを始めてしまった。台所での夫婦ゲンカは若干危ないので止めようとしたが、すぐさま、鈴花お義姉さんが二人の間に入り、実の弟の光にビンタした。

 

「朝からうるさい、光!ここはケンカをする場所じゃなくて、食事を作る所よ。今すぐ出ていきなさい。」

 

 我が家の食と家を守る女、神里 鈴花は母親譲りの言葉の力を発揮して、光を追い出し、その場を強引に納めた。その後、私に向かって、

 

「紫音ちゃん。こんな事は言いたくないけど…、夫婦でケンカをした翌日に明るい笑顔を振り撒いて、元気よく挨拶をしたら、父親みたいな立場の光だって、無理して笑顔を作っていないかって、余計に心配をしちゃうわよ?そう言う時は、夫婦ゲンカなんて、気にしていなくても、表情を抑えて挨拶するのよ?分かった?」

 

 切り替えの早い私の対応に周囲が付いて来なくなっていると指摘して、優しく諭すように叱り付けて来た。


 

「玲奈ちゃんも、年が離れている光が他のもっと若い子に取られないかを心配するのは分かるけど、紫音ちゃんも光もそんな事をする人間じゃないのは分かるでしょ?分かったなら、拗れる前に謝ってしまいなさい。」

 

 すぐに早とちりする事や過去に恋人を寝とられる事があったため、裏切りに敏感な玲奈にも、姉さんは冷静に判断しろと、諭すように叱り付けた。それに対して彼女は、

 

「だって…、紫音ちゃんって、ノーメイクでこの可愛さだよ?そんな子の笑顔で落ちない男はいないよ~。しかも、計算高くやってる訳じゃ無いし、性格も素直で最高に可愛いし、完璧じゃん。」

 

 玲奈もマリアのように、私の容姿、笑顔が男を誘惑すると話し出した。それを聞いた鈴花も

 

「うん、それは分かる…。この子、ウチの夫にも笑顔を振り撒いて挨拶するから、いっつも、間違いを起こさないか心配になる…。」

 

 まさかの義姉の鈴花にも、私の無意識に男を誘惑する、笑顔の挨拶についての心配されていた。それを聞いた玲奈は私の顔を見ながら、深くため息を付いて、急にへこみ出した。それを見た鈴花が、

 

「私の弟が誤解を招く真似して、心配と迷惑を掛けてゴメンね、玲奈ちゃん。」

 

 そう言って、義理の妹の玲奈に謝罪したあと、私を見て、

 

「ほんと、その無邪気さが、無駄に可愛くてムカつくわ。」

 

 と私の見た目に対して、あの優しい姉が初めて、暴言を吐いた。

 

(女の本音…怖!)と考えた私は、呪いを解く事を考え始めると、神里の母さんが現れて、

 

「作戦失敗ね、光に紫音が不安がっているから、優しくして上げてって言ったら、義兄との不倫現場になると踏んだのに…、こんな展開、つまらないわ。」

 

 光の過剰なスキンシップの原因はこの狂った母親の流言により、引き起こされた騒動である事だと知ってしまった。


(この人、なんなんだよ…。快楽のためなら、家族関係が壊れても良いって事?)


「ふっ、でもね、紫音。安心するのはまだ早いわよ。」


 狂ってる母さんは第二の矢を用意しているようだった。その瞬間、


「お前!兄に向かって、なんて事を言ってるんだ!謝れ!」


 光の叫び声がしたので、慌てて玲奈を連れて、向かうと、


「光兄さんが紫音とコソコソと他所で会っている事は分かってんだよ!玲奈さんみたいな、最高のお嫁さんがいるのに、人の、しかも、弟の妻に手を出すなんて、最低だって!言ってるんだよ!」


 蓮がとんでもない事を言い出して、兄にケンカを売り始めた。


「お前は弁護士をしているのに、こんなフェイク動画すら見破れないのか?さぞかし、無能弁護士なんだろうな。」


 光が応戦して、口喧嘩から手が出そうになったのだが、それを止めたのは、


「お父さんたち、朝からウルサイ!」


 玲奈の娘たち、長女の紫織が光に蹴りを入れて外庭にぶっ飛ばし、次女の花音が蓮をともえ投げで庭池へ投げ飛ばした。


(うわ~、玲奈の所の子供たち、ウチの瑠奈よりも、超過激な武闘派だよ…。)


 私が玲奈に飛ばされた二人の様子を見に行こうと告げると、


「イイ気味ね。誤解されるような行動を取るから、弟の蓮くんにも疑われちゃうんだよ。」


 光とケンカしたばかりの玲奈は二人を助けるつもりが無さそうだった。ウチの子たちは…と周りを見ると、


「晃也は私以外の女に興味持っちゃダメよ~。悪い男はああやって、暴力的な女に怒られて、あんな風にされちゃうからね?分かった?」


 恵麻は玲奈の三番目の子供、二歳児の晃也の横に座って、あやしながら父親たちのなれの果てを解説していると、晃也くんはうん、うんと頷きながら、近くの女の子で唯一、好きな恵麻に甘えていた。その近くで小春が、


「ルーちゃん、ハルたちのパパがお空を飛んだよ。」


 イマイチ状況を理解していない小春に対して、


紫織シオシオ花音ノンノン、ちゃんと必殺技の名前を叫んで繰り出さないと、テレビで放送されないよ?NGで、怪人たちもヤられ損になっちゃうからね?」


 瑠奈は妹の小春に父親たちが怪人になって、家で暴れていたと説明していた。


「すっご~い!し~ちゃんたちはテレビの人なんだね~。」


 小春は瑠奈からの間違った説明を聞いて、自分には出来ない事をやってのける、武闘派姉妹の紫織と花音の華麗な動きにメチャクチャ興奮していた。


(誰か…、母親の流言に騙された、あの哀れな兄弟を助けてあげて…。)


 絶賛、呪われ中の私が助けると家族の誰かに不幸な事があるはず、私は心を鬼にして振り返り、見なかった事にして、朝食を作るためにキッチンへ向かった。


(うん、二人なら大丈夫…。よく投げられたり、蹴られたりしているもん。)

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