第295話 本音の呪いはトラブルを呼ぶ

 私は誰かに呪いを掛けられている…。接する人間が本音しか語れなくなると言う、人によってはかなりキツい呪いだ。


「人間は本音を隠す動物やからな…。アホな奴、ばっかりや。」


 私は飼い猫のマリアに相談すると、本音を隠す人間をアホと総評した。


「瑠奈や小春に変化が無いのは、本音を隠していないって事?」


 私の前でも、態度が変わらない二人は本音で生きている事が分かった。


「小春はお前に似て、隠すん下手なだけで、瑠奈はお前に似て、キチガイやからな。」


 マリアは何事も隠すのが下手な私に似てる小春は問題ないが、瑠奈はそもそも本音を隠す必要が無いと考えてる変わり者だから、それをキチガイだと評した。


「マリア、私のどこがキチガイなのよ。瑠奈みたいな突拍子も無いことをしないでしょ?」


 我が娘ながら、理解出来ない行動が多い瑠奈と一緒にしないでと告げると、


「お前がキチガイなのは、神里のひかるとして生まれた記憶があるのに、紫音の体で神里家じぶんちに嫁入りしたり、ほぼ見た目が同じクローンの旦那じぶんに喜んで抱かれて子供作ったり、まだ言うたろか?取りあえず、やってる事のすべてが変態そのモノやろが!」


 私の結婚する家と相手が生まれた記憶のある家と同じって所がオカシイと怒鳴られてしまった。それに対して、


「だって、この体が彼の事を好きなんだもん…。私はその本能に従っただけだもん!」


 私は自分の気持ちに従っていつも行動していると話すと、


「ほら、常に自分の気持ちのままに動き回るあの瑠奈バカと一緒やんけ。お前と瑠奈はそう言う所がホンマにそっくりやねん、自分らがどんなけ、人と違う生き方しとるか分かったか!」


 その後、自分が一番まともだと思うなよ、キモ飼い主が!と言われた。でも、そんな変わり者の私の側を離れない彼女に、


「でも、マリアは私が好きだよね。やっぱり、猫は本音しか言わない人間の方が良いの?」


 私から離れない猫娘にずっと側にいる理由を尋ねると、


「だって、紫音は変わりもんやから、ウチを腫れ物扱いしたりして、捨てずに飼い続けてくれてるんやろ?他の飼い主やったら、こんな口悪い喋る猫を飼わへんやろ?」


 そこまで言うと、私にすり寄り甘えて来た。それを聞いて私は彼女の頭を優しく撫でると、気持ち良さそうな声を出しながら、とても喜んでいた。


(でも、マリアは本当に良い猫だよ?夫婦ゲンカも止めてくれるし、少し変な小春の事はものすごく見てくれているし、恵麻とも仲良くしてくれるし。)


「いつもありがとう、マリア。これからも私たちの事をよろしくね。」


 素直に感謝の言葉を述べて、ギュっと抱き締めた。


「なあ、紫音。抱き締めんのかまへんけど、胸がデカ過ぎてこっちは苦しいねん。お前…、美人でスタイルもエエし、性格もエエし、女から恨まれて当然の容姿と中身しとんぞ。おまけに金持ちの旦那、器量のエエ娘もおる。今んとこ、人間から呪い掛けられて当たり前の人生を歩んどるぞ。」


 二十代前半で、美人な容姿、お金持ちでハイスペックの夫に天才の娘と可愛い双子の娘がいる。私はすべての人間に恨まれて当たり前らしい…。


(つまり、呪いを掛けたのは人間って事?誰かに私は恨まれてる?)


 まったく身に覚えはないため、う~んと考え込んでいたら、


「お前のそう言う所がオカシイねん。普通、恨まれて呪いを掛けられたら、必死で相手探すやん。呪い解こうと必死なるやん。なんで、別に問題ないみたいな感じを出せんねん。」


 マリアに強烈な突っ込みを入れられたので、


「えっ、だって…、本音が知れて嬉しいもん。恵麻は寂しがり屋で我慢強い、本当に良い子だって分かったし、蓮さんが意外と亭主関白な考え方をしていて、カッコいい事。瑠奈と私の性格はソックリでやっぱり親子なんだって分かったし、小春も私に似ていて、家族にくっつきたがる所が似ていて可愛い事。良い事ばっかりだよ~。」


 そう言って、マリアを抱き締めながら、ポジティブな意見ばかり言うと、


「お前なんて、いろんな女から罵声を浴びせられて、思いっきり、へこんだらエエねん。」


 家族からの本音ばかりが良いとは限らないと注意をされたが、家族の違う一面が分かって幸せな私はそんな事を聞いていなかった。


(やっぱり、他の人には悪いけど、私って幸福者だよ。幸せな光景を見せつけたら、解ける呪いだと良いな…。)


 そんな安易な事を考えていた私に不幸が降りかかろうとしている。



 次の日の朝、マリアの嫌な予感は的中してしまった。いつものように、朝起きて、鈴花お義姉さんと朝食の準備をしていた。


(鈴花お義姉さんは変わらないな…。さすがはあの義母さんの娘。キモが座っているから、私に嘘を付いて生きる必要は無いのか。)


「紫音ちゃん、おはよう。今日も可愛いね。」


 義姉の鈴花は笑顔で私に挨拶をしたあと、朝から手伝ってくれて、いつもありがとうと言い、朝食の準備を始めていた。


「おはようございます。お義姉さん。」


 私は笑顔でニッコリと挨拶を返すと、「無理しないでね。」と言われた。


(無理しないでねって、昨日の夫婦ゲンカを心配してくれているのかな?やっぱり、本音でも優しいな~、お義姉さん。)


 私は母親ぐらい年の離れた優しい姉の笑顔に癒されていた。そんな私に、


「紫音ちゃん、おはよう。」


 玲奈の旦那さん、光が私に挨拶をしてきたので、笑顔で「おはようございます、お義兄さん。」と答えると、


「母さんから聞いたけど、大丈夫かい?蓮とケンカしたなら、いつでも相談に乗るから言ってくれよ。俺は紫音ちゃんの味方だから。」


 そう言って、優しく私の手を掴み、自分の方に手繰り寄せて、抱き締めて頭を撫でて来た。


(えっ?いくら、父親みたいな存在だったとはいえ、今日はスキンシップが激しすぎない?しかも、光って、玲奈の旦那だよね?こんな所を玲奈に見られたら…。)


 私の心配は的中してしまい、背後に玲奈が立っていた。


「光さん、紫音ちゃん…、どういうつもりなの?」


 まるで、親密に抱き合う、不倫みたいな状態に私は、


(玲奈、タイミングが良すぎるよ~。もしかして、これも呪いの影響?)


 殺気立つ玲奈と私を抱き締める光、波乱しか感じないこの展開に場が凍り付き始めたのは、普段は鈍感な私でも、さすがに感じ取っていた。

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