共働きする女は男の倍以上忙しい
序章 才能ある子供たち
岡崎家の騒動以来、最近は物騒な事件も起こらず、私は安堵していた。まだ幼い瑠奈と小春は幼稚園が終わると私と恵麻の勤務先、白河家にいる事が多くなっていた。そして、いつものように現場仕事が終わって依頼完了報告後に事務所を出ると、
「ママ、お仕事終わったの?」
小春が美空ちゃんに連れられて歩いてきた。
「小春、良い子にしてた?」私は小春の頭を撫でながら、尋ねると、
「うん!ミーちゃんが遊んでくれたの~。ミーちゃんはママに似て、あったかくて、優しいの。」
超ご機嫌な娘は私と似ている美空に甘えていたらしい。ほぼ、一緒の年齢だが、あの未央の血を引く娘の美空は5歳ですでに落ち着きがある。その美空は義理の姉の私に憧れており、同年代の暴走瑠奈の手綱役はもちろん、甘えんぼの小春の母親役を買って出てくれている。
「美空ちゃん、いつも娘を二人も見てくれて、ありがとう。」
私は感謝の意を美空に表すと、
「紫音お姉さまからの労いのお言葉、美空はこの上なく感動し、興奮しております。」
私のお礼の言葉に、美空は子供が使う言葉の範疇を越えて喜んでいた。
(未央お母さん、美空ちゃんにどういう教育をしたんだろ…。5歳の少女が使う言葉使いじゃ無いよ。)
私にとっては鬼母でも、美空にとっては実の母親。その言葉使いは英才教育の賜物と言う事のようだ。
「ママ、あのね。ルーちゃんとミーちゃんがハルの抜けた尻尾で遊んでたの。」
小春の体を見ると、すでに立派な尻尾が生え変わっていた。
(うわ、もう生えたよ…。尻尾の再生力が半端無い。取れた古い尻尾は消えるって言ってたけど…、遊んでいた尻尾はどうなったんだろ?)
そんな事を考えていたら、遅れて私の元へやって来た瑠奈が小春に生えていた尻尾にビーズと紐を付けて、アクセサリーみたいな物を作っていた。
「フッフッフッ、瑠奈は天才なのだ。」
我ながら最高傑作のアートだと言って、瑠奈はアクセサリーっぽいヤツになった狐の尻尾を私に自慢してきた。
(相変わらず、感性が飛んでるよね…、本当にこの子は私の娘なのだろうか?)
私が作ったお菓子にアートなデコレーションを施したり、瑠奈に生えていた狐の尻尾をアクセサリーにしてしまう。そんな娘を見て、私が唖然としていだが、
「ルーちゃん、スゴ~い。」
目をキラキラさせながら、瑠奈にお礼を言って受けとると、そのアクセサリーを私に渡してきた。
「ハルの尻尾をあげる~。ママのかばんに付けてね。」
いつも持ち歩いている私のバッグを指して話して来たので、娘の要望通りに取り付けた。少し大きいかなって考えていたら、フワフワの尻尾が少しずつ小さくなり、良い感じのアクセサリーに変わった。
(スゴっ!自分の妖力を加えただけで、取れた尻尾のサイズを私の要望通りに変化させられるのか。)
九尾の狐は霊力とは違う、強力な妖力を持っている。狐の魂って事以外は普通の人間並の能力しか無い小春に対して、私の血を引いている瑠奈は若くしてその才能を開花させていた。
強力な霊力は子供の知能や身体能力を高めているため、美空、瑠奈の大人顔負けの態度を取っている。それよりも若くして才能を開花させていたウチの長女の恵麻はこの二人を上回るパフォーマンスを発揮していた。
「さすがは紫音お姉さまの娘です。さくら組でも、私に次ぐ人気者になりましたし、人心の掌握力は相当なものですよ。」
幼稚園の同じ組でも、人気者だが、美空の方が上らしい。
(すでにその年齢で女子のマウント取りが始まってるよ…。)
「美空ちゃんは可愛いし、しっかりしているから…人気がありそうだね。」
美人の母親、未央に似た容姿を持つ美空はその性格も相まって、男子からの支持がスゴいらしい。瑠奈が言っていたのだが、美空は女王様と言われていて、気の弱い男の子が美空を崇めているそうだ。一方、組の女の子は瑠奈派が多いらしい。理由は…、
「瑠奈はお母さんに似て、可愛いからだよ~。」と答えてきた。
(うわ、この子、自分の容姿を自画自賛してるし…。)
リアルお人形の容姿を持つ私は女の子たちから、人形を使った遊びによく誘われてしまう。当然、私の娘でアイドル気質の瑠奈は女の子から絶大な人気がある。
「瑠奈は世界一可愛いからお姫さま役なの。コハるんも可愛いけど、恥ずかしがり屋さんだし、美空ちゃんの側を離れないし、全然、人気は無いの。」
容姿を自画自賛する瑠奈はさておき、狐耳で可愛らしい小春はとても人見知りで美空の側を離れないらしい。暗い性格だと勘違いされているため、姉の瑠奈いわく、組の中では空気みたいな存在だと言う評価だ。
私の前では明るい小春は対人関係の事で苦手意識があり、明るくて人見知りしない瑠奈や母親のような母性がある美空にいつも引っ付いて甘えている。でも、手が掛かり、心配が絶えない娘がいるお陰で母親として私は充実している。
「紫音、夕方前で悪いけど、緊急の依頼よ。お願いね。」
一仕事終えて、娘とじゃれていた私に未央が依頼を持ってきた。私は瑠奈と小春に事情を話すと、
「ママ、ハルも行く~。」
そう言って、小春は私にくっついて離れない。
「瑠奈は恵麻お姉ちゃんが終わるのを待ってるよ。けっこう寂しがり屋だし、瑠奈の事が可愛くていつも、じゃれてくるし、そうするよ。」
瑠奈は姉の仕事が終わるのをここで待ってると話した。
(姉の恵麻は瑠奈のそう言う所が鬱陶しいから、文句を言っているだけだと思うけど…。どうして、それが好きに繋がるのだろう?相変わらずのポジティブだけど、言ってる事はメチャクチャね。)
でも、同じタイミングで生まれたはずの瑠奈と小春は常に違う選択を取ろうとする。正確に言うと、瑠奈が小春の決めた事を尊重して譲っている感じだ。
きっと、過去に何かがあって、無意識で小春が見ている所では、瑠奈は過度に私へ接触しないように心掛けているだけなのだろう。
「じゃあ、瑠奈。お姉ちゃんを頼むね?」
そう言って、残る選択をした瑠奈の頭を撫でると、
「ママ、ハルもなでなでして~。」
小春が間に入って来て、私と瑠奈の親子スキンシップに嫉妬する。そんな子供っぽい態度を取る小春に瑠奈は、
「ハイハイ、瑠奈はコハるんよりも大人だし、お母さんを取らないから。」
怒りもせず、小春に私を譲って来る。瑠奈は大人で姉の態度としては、100点だけど、私にとっては子育ての悩みが増える。
(本当にバランスがムズいよ、三姉妹の子育ては…。)
と感じながらも暗くなる前に依頼人に会うため、小春を連れて白河家の事務所を出た。
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