終章 依頼完了報告と家族のこれから

 私は白河家に戻り、白河さんに報告をすることにした。


「ほうか、妹…理子が世話になったな。アイツも秀哉に一哉くらいの愛情を掛けとったら、こんな事は起こらんかったかもしれへん。ワシも他所ん家の事やから言うて、距離取っとったさかい、一端の責任はあるかもしれへん。けどな、紫音の考え通り、親戚と言えど…、所詮は他人や。自分たちしか解決出来ひん問題やねん。」


 他家に関わるのは御法度のイメージが強いこの業界。白河は白河家で、神里は神里家でのように、身内で起こった事は内々で処理する傾向にある。


「白河さんの所は霊の御用聞き、岡崎さんの所は亡くなった者の恨みを叶える。一見、同じように見えても、一つの依頼の重みがまったく違う。恨みに触れるとその強い復讐心で闇落ちする者が後を立たない。でも、誰かがやらないといけない立派な仕事だと思います。」


 私は岡崎さんの父親は発言はアレな人でも、裏の汚い仕事にも魂を注いでいた。彼らの仕事は決して善では無く、正義をちらつかせる人間には務まらない。


「せやけど、放っといたら、市内で悪霊化した霊が溢れ返りおる。強い恨みを残したまま死んだ人間。殺人事件で殺された人間や冤罪で命を絶った人間、理由は色々とあるけど、恨まれた人間には何らかの形で罰を与えなあかへん。岡崎は、この世界の秩序を保っていた男やった。そんな、手練れでも…身内に背中を見せて殺られるんやから…、怨恨ほど、哀しいて怖いもんはあらへん。」


 白河さんは同年代で腐れ縁の友に似た人を失って、少しだけ悲しんでいるような感じで話してくれた。


「しかし、紫音はえらい強いな。秀哉の嫁ってメチャクチャ強いんやろ?」


 白河さんは私の実力を知らなかったみたいだ。


(そう言えば…、未央お母さんがすぐ怒るし、この家では大人しくしていたから、私がスゴく強いって知られていないよね。)


「この体は身体能力に特化しているんです。恵麻は頭脳に特化しているし、私よりも器用でとても頭が良いみたいです。どうやら、ウチの恵麻や瑠奈を投げ飛ばした美空ちゃんも身体能力型みたいですよ。」


 未央の娘も私と同様のタイプだと話したら、


「それはよう知っとる。ワシ…、美空にじゃれられて、病院送りされた事ある。」


 どうやら、白河さんは孫の美空が嫌いなのでは無くて、怖いから近寄らないみたいだ。


(未央お母さん、前に怒ってたもん。お義父さんが孫の相手をしてくれない。可愛がってくれないって…。)


「だからって、たまに家からいなくなって、仕事をサボらないでください。」


 未央のイライラの原因の一つ、白河さんが社長代行をサボりいなくなる。原因は産休中の実の娘に会うためだが、それをされると鬼母が私に当たって来るので、止めて欲しいと釘を刺した。


「バレとるんか…、別にエエやん。ウチには婿が二人おる。前社長のワシは綾美の代行をしとるだけやから、ほぼ、隠居みたいなもんや。」


 業務は婿に任せてあると私に告げていたのだが、その婿たちがだらしないから、未央の機嫌が悪いと言い返すと、


「狩猟民族の男なんて、そんなもんや。どんだけ優秀でも、器量の良い女には勝てへん。」


 白河さんは男は本来、頭より体を動かす狩猟民族だと言って、座って行う事務仕事は向かないと言い訳し出した。それを聞いて私は、


「現場担当の私にケンカを売ってます?それとも、元男で光の記憶を持っている私だから、それで許してくれるって、本気で考えてます?」


 当然、内容が子供っぽい理由のため…キレた。


「なんや、年取って紫音も未央に似てきたな~。何を言うてもアレになりそうやし、邪魔者は退散するわ。」


 白河さんは逃げるように自分の執務室に向かって行った。


(そこで逃げるから…、未央お母さんが怒るんだよ?社長代理。)



 神里 光の記憶を持つ私が、男のくせに…って言うと違和感しかないけど、私なら逃げずに戦うのにと考えながら、事務所を出ると未央がやって来て、


「紫音、あなたにお客さんよ、応接室まで来てね。」


 未央はそれだけ告げると、今は事務が溜まっているから一人で応対してねと告げて、事務室に戻って行った。


(ここの事務仕事って、本当に大変そう。恵麻も白河家に帰るなり事務仕事が…って言っていたし…。)


 手伝いを申し出ても、邪魔って言われる自分の実力の無さを悔やみながらも、気を取り直して応接室に入るといきなり彼女が迫ってきた。


「紫音ちゃん、この度は夫を助けてくださりありがとうございました。」


 岡崎さんの嫁、杏奈ちゃんが私にお礼が言いたいと白河家の事務所まで来ていた。


「杏奈ちゃん、ゴメンね。岡崎さんに大怪我を負わせちゃった。」


 判断が遅れて、怪我を負わせてしまった事を謝罪すると、


「ううん。一哉さんが、もし、紫音ちゃんがいなかったら、死んでいたと言っていたし、謝る必要は無いよ。それに…、今回の事で私たちが残されたお義母さんと岡崎の家を守る事にしました。そう言う、覚悟を決めさせてくれたのは間違いなく、紫音ちゃんのお陰だよ。ありがとう。」


 彼女は家の窮地でようやく、夫の心が動いた事を喜んでいるようだった。


「あの義母は大変そうだけど…、頑張って。私はあのダメ男のお尻を叩く事しか出来ないけど、何かあれば言ってね。」


 そう言って、彼女たちの今後の成功を願っていた。その後、彼女は彼の入院する病院に戻って、子供たちの事もしないといけないと忙しそうに帰って行った。



「岡崎さんは本当にダメ男、嫁に苦労させ過ぎだよ。まあ、愛があれば乗り越えられるよ。」


 忙しい事は、暇な事よりも幸せな事だ。そんな風に思っていたら、


「ママ!」


 寝ていた小春が起きたらしく、寂しくなったのか、抱き付いてきた。


「我が双子の妹は甘えん坊だよね、コハるん。瑠奈は大人だから、気にしないけど、そんなお母さんを独り占めしたら、恵麻お姉ちゃんに嫉妬されちゃうぞ?」


 大人ぶる瑠奈は家族バランスを保っているのは、自分の力だと主張して自慢していたら、


「誰が小春に嫉妬をするって!バカ妹!」


 地獄耳の恵麻は妹の発言にキレて、詰め寄ると、


「ほんと、お姉ちゃんは子供だな~。お母さんに似て、瑠奈がお人形みたいに可愛いからって、瑠奈の事が好きだ好きだって言わないでよ~。」


 感覚がオカシイ瑠奈はまるで、姉を挑発するかのように話していた。


(この二人が鉢合わせると騒がしくなるよね…。混ぜるな危険の姉妹。)


 ケンカする二人の間に入って止める。それが我が家のいつもの風景だった。

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