第292話 母の覚悟と子の行く末
岡崎家に侵入した私を秀哉の奥さん、美雪が悪霊斬る刀を持って待ち構えていたが、難なく撃退した。あとは殺し合いを始めそうな兄弟喧嘩を仲裁するだけだ。
少しだけ動いて、一仕事終えた私の頭の中に恵麻から連絡があった。
「お母さん!なんで、フィニッシュは蹴りなの!三節棍で肋骨を砕くとか、派手な事をしてくれないと、有益なデータが取れないでしょ!」
恵麻が武器の使用法に謎過ぎるクレームを入れてきた。
(さては、忍ロボとやらで私が戦う映像を見ていたな…。武器を持って戦うのは私の専門外だよ?)
「恵麻、救急車を呼んでおいてね。加減はしたけど、三節棍で彼女の肋骨にヒビを入れたかもしれないから。」
そう言って、娘の期待には答えなかった事は放っておいた。
静まり返った岡崎家に入ると、奥の方から、
「秀哉!止めて!」
二人の母親、理子の叫ぶ声がしたため、そこに向かうと、縛られて動けない理子とボコボコに殴られて、血塗れで倒れる一哉と笑いながら兄を殴り付ける秀哉がいた。彼は私の顔を見て、
「使えない嫁ですね。容姿が良いだけの小娘すら止められないとは…。」
秀哉は献身的に支えてきた妻の事を悪く言っていた。
「あなたが月に二度ほど現れる、本当の秀哉さんね。そこのポンコツ刑事は親友の旦那なの。お願いだから、生きて帰してくれないかしら?」
杏奈のためにも、生存してもらわないと困ると秀哉に話した。
「一哉兄さんがこんなに弱いとは、思わなかったよ。こんなんじゃあ、岡崎の家を継ぐのは無理だね。そんな出来損ないに生きている価値は無いよ。」
彼はそう告げると、一哉の首を掴んで絞め殺そうとしたので、私は瞬時に近付いて、秀哉の体に飛び蹴りをして吹き飛ばそうとしたが、交わされてしまった。
「なるほど…、あの嫁では勝てないわけだ。一哉兄さんを殺すのはあとにしよう。まずは俊敏な小娘を殺して、兄さんと母さんを殺そう。」
彼が一哉を私の方へ投げてきたので、近くに倒れた一哉の近くへ行き、
「岡崎さん、生きてて良かったですよ。」と話し掛けると、
「右肩の脱臼と左腕の骨折…、無事じゃ無いけどね。」
彼は両腕の自由が利かない事を言ったので、
「警察官の癖に弱すぎでしょ…。骨が折れて痛いって、泣かないだけマシですけど…。」
兄が弟に負けるなと彼へ文句を言ったあと、壁の方へ連れて行った。
「余裕ですね、秀哉さん。勝ちたいなら、私に不意打ちすれば良かったじゃないですか。」
彼に不意を突いて倒せば、勝機があったのでは無いのかと話すと、
「不意を突く、必要はありません。正面からあなたの泣いて謝る姿が見たいので…。」
彼は余裕をかましていたので、
「私は謝らないし、あなたはもうオシマイだよ。」
私がそう言ったと同時に三節棍が彼の体にクリーンヒットして、吹き飛んでいった。壁に叩き付けられた彼はあまりの衝撃に気を失っていた。
「仕様もない男には早々に退場して貰いました。文句があるなら…、こんな凶器を持たせた娘に言ってください。」
私は拘束されていた理子さんを解放して、人を人とは思わない悪魔を作り出したのは、あなたと亡くなった旦那さんですと伝えたあと、
「手の掛かる娘がいるので、帰りますね。」と告げてその場を立ち去った。
私はそのまま、依頼人の所へ行くと、
「身内の事ですまなかったな。一哉の事を頼んだ。」
と依頼人で一哉さんの父親にお願いされたので、
「お断りします。私は昔からあの人が嫌いなので…。」
私は彼のお願いをキッパリと断った。そんな私の態度に彼は笑いながら、
「気に入ったぞ、貴様が入ればこんなご時世でも、面白くなりそうだ。是非、あの神里の婆さんを楽しませてやってくれよ。」
彼はそれだけ言い残し、見送りに来た恵麻に門を開けろと告げた。
「お爺ちゃん、一度進んだら、振り返っちゃダメだからね。」
恵麻はいつものセリフを話すと、「世話になったな小娘ども」と告げて、彼は旅立っていった。
「ずっと、偉そうなお爺ちゃんだったね。あれが昭和の男か…。」
恵麻は彼を昭和の男と評して、変に頷いていたので、
「みんながあんな感じじゃ無いけど…。男尊女卑の世の中を生きていたから、本音を言えずに息子たちと衝突する人生を歩んだのかもしれないよ。」
そう言って、ボタンの掛け違いで身内に殺された、少し可哀想な人生を私は娘に語った。
家への帰り道で、恵麻が私に三節棍を渡した事を後悔していた。
「お母さんに強い武器を持たせたら、ダメだったね。かなりの手練れでも、絶対に一撃だもん。」
殺人鬼すら一撃で倒したため、有益なデータが取れなかったらしい。
「恵麻、変な物を作ってどうするの?武器商人にでもなるつもり?」
データを取って兵器でも開発するつもりなのかを尋ねると、
「お母さんは分かってないね~。忍ロボットは私の指示しか聞けないし、目的はサポート専用。そこそこ重たい三節棍を高速で振り回すお母さんよりかは、はるかに弱いよ。」
あの三節棍はロボット用に作ったらしく、重くて人が振り回せる代物では無かった。そんな物を使わせた娘に呆れながらも、それがあったから、瞬時に悪人を捕らえられた。
(本当の悪人は他にもいるけど…ね。)
年配の能力者ばかりを狙わせた理由を考えたあと、私はある仮説を話し始めた。
「秀哉さんも本部の体制を一新させるために利用された捨て駒。騒ぎが広がり、要らなくなった捨て駒を私に処理させた。層の厚い世界で若手の台頭に必要なのは、古参の古株達が早々にいなくなる事。これが本当の真実。岡崎家は本部の体制改革に利用されただけだよ…。」
見えない真実を恵麻に語ると、
「お母さんはそれが分かってて、止めたんだね…。思い通りの内は大丈夫だけど、そのうち、実力者の偉い人たちに睨まれるよ?」
裏の裏を読み取る私の事を心配してくれたが、
「私が神里家の跡を継ぐのなら、誰にも恐れをなしちゃダメでしょ?当然、思うがままにさせてもらうし、私がいなくなっても…恵麻がいるから、何も心配していないわ。」
そう言って、自慢の娘に期待している事を告げると、
「まあ、お母さんがいなくなるのは困るから、私が守ってあげるよ。」
妹が増えて、すっかり甘えベタになった恵麻は、好きなはずの母親への態度がツンツンしている。そんな娘に私はカワイイと言って、抱き付くと、
「お母さん!道の真ん中で引っ付かないで、みんなに見られてる!」
恵麻が照れて離れようとするので、離さないと言いながら、娘に過剰ぎみの愛情を注ぎながら、私は相棒の娘と白河の事務所へ帰って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます