第232話 紫音の婚約者は誰?

 本部の依頼で重要な人物の一人は神里の母さんに捕らえられていた。馴染んだ紫音の体はかつての運動能力を発揮し、危ない能力者の魂の核を砕き、彼女をただの人間した。その力を見て、


「光。ようやく神里家を継ぐ者、次期当主が決まりそうね。そろそろ、婚約者を用意しなちゃ…ね。」

 帰ろうとしたら、母さんに捕まって家に連れ込まれた。


「離してよ!母さん。私は神里家の血は流れてないし、無関係の人間なの!」

 母さんの馬鹿力には全く抵抗できずに、客間に連れて行かれると、一人の男性が座っていた。


「初めまして、橘 紫音さん。私は神里 れんと申します。お見知りおきください。」

 また、知らない神里家の親類が出てきた。挨拶されたので、


「神里さん、こんにちは。橘 紫音です。」自己紹介すると、


「紫音、あなたの婚約者よ。光の弟になるんだけど、会うのは初めてよね。」

 相変わらず、突然の告白をされて勝手な事を言ってくる。


 どうやら、何処かから連れてきた、義理の息子らしい。若いし、光と似てると言ったら、似てるような…。


「私の遺伝子を受け継ぐ、私の可愛い次男なの。その子を紫音にあげるんだから…、紫音はもう、私の正真正銘の娘ね。」

 無茶苦茶な母さんに呆れていると、


「母さん、ダメだよ。橘さんは学生だし、ちゃんと相手は自由に選ばせてあげないと。それに今はそれどころじゃないだろ?」

 彼は母さんを嗜めると、本部の依頼の事を話し始めた。


「橘さん、こちらが調べた調査内容になります。どうやら、ここで本部のスパイが例の方の誰かと密会する予定だそうです。向かわれますか?」


 彼は調べた内容を話し始めると行くかを聞かれたので、もちろん事実なら、向かいますと話すと、


「では、ドレスコードをしましょう。場所は大人の社交場ですので、私の婚約者として潜入しましょう。」


 彼がそう話すと、麻友が現れてこっちに来てくださいと言われて付いていくと、パーティードレスが用意されており、


「やっぱり、紫音ちゃんは可愛いよね。着替えている所を撮影してあげるよ!」

 突然、麻友が壊れた。(いや、この子は…、)


「変態妹の麻友!しっかり者の姉はどこ?一つになったんじゃ無いの?」

 再び、二人に別れてしまった魂に驚いていると、


「ここにいますよ、紫音様。」

 

 その問いに答えたのは蓮さんだった。


「へっ?どうして?」俺がぽか~んとしていると、


「だって、私たちの紫音ちゃんが意味の分からない男に取られちゃうなんて許せないからだよね~、お姉ちゃん。」

 ユルユルの麻友は一つになり、同じ体にいたはずの姉へ抱き付くと、


「麻友、呼び名が違うよ。私は蓮だ。紫音様の婚約者の…。」

 彼は麻友にそう告げて、今は異性なんだから抱き付くな、と叱っていた。


(無理だよ~、話が追い付けないから、誰か、助けてよ~。)


 困惑する俺に気を使う事なく、二人は別々の体になり…動き始めた。


「私は外にいますので、着替えをお願いします。麻友!あなたも出なさい!盗撮なんてさせませんから。」

 蓮さんは嫌がる麻友を引っ張って連れていってしまった。


(しかし、紫音オレを取られたくないからって、母さんが決めた婚約者の体を乗っ取るなんて、なんて姉妹だよ。)



花柄のライトブルーのドレスに着替えて、化粧を直し、部屋を出ると、

「うわ!可愛い!紫音、結婚式でも行くの?」


 いつも、テンションがハイな、小鈴に見つかってしまった。すると透かさずに、麻友が小鈴の体をしがみつき、


「小鈴ちゃんダメだよ~。これから紫音ちゃんはフィアンセとデートなんだから、小鈴ちゃんは私と遊ぼうね~、カラオケ行く?」


 麻友の変貌ぶりにキョトンとしていた小鈴は、あっという間に連れ去ってしまった。


(あれ?行っちゃった…、でも…、ユルい妹の麻友はパリピの小鈴とかなり気が合いそうだね。)


 そして、同じくパーティ服先に着替えを終えた蓮さんがこちらに歩いてきて、


「紫音様、綺麗ですよ。」

 蓮の体を乗っ取った、麻友の姉、結香が褒めてくれたので、


「ありがとう。他人の体でも、大丈夫なの?」

 男の体、麻友だった時との違いを聞いていると、


「お母さまが用意してくれた貴重な神里家の血筋を持つ体なので、これからは私の物です。それに…麻友の体は麻友に返したまでですよ。これで紫音様と正式にお付き合い出来るので、嬉しいです。これからは蓮とお呼びください。」


 そう言って、彼は手を握りながら、好きですと口説いてきた。


(う~ん。やっぱりこの顔…、やっぱり見覚えがある。)

 本当に光の若い頃にそっくりなんだ…。



「あら、早速、二人でお出掛けするのね。蓮、紫音との子供を早く作ってね。」

 母さんはいきなり子供を要求するプレッシャーを与えてきた。


「お母さま。紫音は私の婚約者です。子供の有無は私たちで決めますから口を挟まないでください。」

 蓮はその子作りプレッシャーをはね除けて、言い返すと、


「本当に兄の光とそっくりね。若いから、まだいいわ。好きになさい。」

 言い返されて少しご機嫌ななめになった母さんは去っていった。


 彼はそう言ったあと、細かい話は依頼を終えてからにしようと告げたあと、車を取ってくると告げた。そして、娘の恵麻は玲奈が面倒を見てくれると言ってくれたので、任せて家を出ると車が前に止まり、運転席から蓮が出てきて、


「紫音。ドレスに似合うバッグと靴を用意してある。潜入するんだから、成人女性として振る舞わないとダメだよ。」


 そしてヒールの高い靴とブランド物のバッグを持たされると、学生みたいなバッグから、化粧ポーチとハンカチなどをしまって、準備を終えると、彼の車の助手席に乗り、大人の社交場に潜入することになった。


「車の運転もできたんですね。蓮さんは。」

 行動が疑問だらけの元麻友に尋ねると、


「私は成人の男性ですよ。この体は24歳の戸籍を与えられています。健康な子が出来るように作られていて、どうやら…、肉体年齢はそれよりも若いみたいです。紫音様…、私との子供が欲しくなったら、いつでも言ってください。」


 彼は普通の顔をしながら、スゴいことを言ってきた。


(えっ?もしかして、交際するのは確定なのかな?)


 知らない間に紫音に恋人が出来ていて、その人は代理出産で産ませた神里家の隠し子で、その男性は麻友の姉の結香に体を乗っ取られていて、その人と依頼をこなすと言う、追い付けない状況に俺は頭を抱えて悩んでいた。


「大丈夫だよ、紫音。怖い目にあっても、守ってあげるからね。」

 助手席で緊張しながら座っている俺に蓮は優しく頭をポンポンとしてきた。


(いや、不安な顔をしてたんじゃなくて…、婚約者が勝手に出来た事で困惑しているんだけど…。)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る