第231話 やり過ぎるとヤバい人に目を付けられる

 莉奈ちゃんの蘇り事件以来、白河家の依頼…、仕事がまったく入らなくなっていた。


(この世に未練を残して死んだ人がいなくなった?)


 商売上がったりと言うと不謹慎かもしれないが、仕事が無い場合…、給料は下がってしまうので、死活問題なのだ。


 さすがに本部も異常事態に動き始めたらしく、本部に所属する岡崎さんはもちろん、学校が終わり次第、俺とマリアも愛華の父親に呼び出されてしまった。


「今日もべっぴんさんやな、紫音ちゃん。どや、今晩。」

 愛華とマリアのエロ親父に呼び出された挙げ句、こう言う風に美少女の紫音オレを中身が元男なのに口説いてくる。


「ウチの娘がいる前で堂々と口説かないで下さい。」

 当然、恵麻を抱えているし、嫌だから…、初老のエロ親父の相手は断る。


「お父様、冗談を言うのはお止め下さい。」

 実の父親の前ではマリアは関西弁を使わず、敬語で話している。


「ワシも暇ちゃうから本題に入るわ。君らを呼んだんはな、本部の誰かが、手引きしとるみたいやねん。ほんでホシは三人居るわ。相手の死期が見える奴と魂の色を消し去る奴と人間いれものを作る奴が暗躍しとる…。常に先回りされてるから、本部にも数人は今回の事に関わっとる。今は紫音ちゃん以外は正直、信用できひん。」


 彼が白河家のメンバーを呼んだのは、絶対に敵対しない要員の確保のためだった。


「ある意味、ヤっている事は正義と言えば正義ですから…。不慮の事故などで死んだ家族を取り戻したい人たちに、記憶を無くした家族を生き返らせる。代わりに自分で命を絶つ身勝手な人間の魂をキレイな状態にして提供する。まさに聞こえの良い、命の有効活用ですよ。」

 俺の見解を彼に聞かせると、


「別の人間の体にいる紫音ちゃんなら、分かるやろ?神の領域に触れる事の愚かさを…。愛華にもサポートさせるし、生死問わへんから…、頼むわ。」

 そう告げると、仕事の時間だと話して、部屋を出ていった。


部屋を出ると、

「紫音ちゃん、久しぶりね。でも…、恵令奈ちゃんほど萌えないのよね~。華がないと言うか、美人過ぎるのよ。」

 愛華はそう言うと、


「私はマリアちゃんと行動するわ。借りてくわね。」


 力も年齢も年上の愛華は猫耳のマリアを掴むと、そのまま連れていってしまった。マリアも姉には逆らえないみたいで、子猫のように大人しくなり、黙って付いて行った。


(愛華が怖いんだ…。実質、腹違いの妹だし、当然と言えば、そうなる。)



 恵麻と二人になり、帰り道で今後の事を考えていると、目の前に黒のワンボックスカーが止まった。


(あっ、神里家の拉致専用車だ…。)


車の中から私服の麻友が、

「紫音様、お迎えに上がりました。お義母さまが呼んで居ますので、神里の実家まで、ご足労願います。」

 そう言って、乗る事を強要されたため、


「行かないと断ったらどうなるの?」試しに聞いてみると、


「紫音様と少しの間、愛のあるSMプレーを楽しんだあと、神里家に移動するので、少しだけ移動時間が掛かります。」

 麻友は頭に被せそうな布袋と縄を見せて来た。


(それは…、SMプレーじゃないよ?ただの拉致監禁だよ?)


「麻友に迷惑は掛けたくないし、付いていくよ。」

 彼女の手を握り、車に乗ると、


「ありがとうございます。優しい紫音様が私は好きです。」

 紫音大好きの彼女は引っ付いて、肩を寄せ合うと頭を撫でてきた。


(麻友、それはカッコいい彼氏が彼女にするヤツだよ?)



 神里家に着くと、実家に戻って来たような感覚にいつも襲われる。まずは鈴花姉さんに恵麻を預けて、母さんに会いに行く。


「呼び出すと言う事はよほどの用事なんでしょ?」

 再開を喜ぶ事は特になく、母さんに用件を聞くと、


「紫音は、命のサイクルを狂わせて、自分の行いが正しいと思い込む、愚か者たちをどうするつもりなの?今なら殺せるでしょ?」

 ウチの仕事に興味の無いはずの母さんが珍しく聞いていた。


命は取らないけど、どうにか止めたい事を話すと、


「甘い子、私の娘とは思えない考えね…。真っ直ぐな正義感はその人の身を滅ぼす事になる、そんな事はあなたが一番分かるでしょ?母親の私に踊らされて、女の子にされちゃったあなたなら…。」

 母さんは俺の考えが甘いから、こんな目に遭ったんだと話して来たので、


「私には私のやり方があるの。母さんには関係ないでしょ!」

 そう告げて、部屋を出ようとすると、


「紫音、折角だから、良いものを見せてあげるわ、付いてきて。」


 母さんは以前に刀があった、隠し部屋へ案内してきた。呼んだ理由を知りたくて母さんに付いていくと、檻に捕らえられたボロボロの女性がそこにはいた。


「この子、今回の騒動の主犯格、偽者の体を作る子よ。あなた用に若い頃の光の体を作ってってお願いしたのに拒むの…。だから、紫音の前で殺してあげようと思って…。」

 母さんはそう言うと、彼女に退魔の刀を向けたので、


「彼女の力で元男性の体に戻すつもりなの?身勝手な母親ね。」

 紫音の人生を変えてしまった母親を睨み付けると、


「若い男に戻ったら、麻友と正式に男女交際できるじゃない。みんなが幸せになれるのに、この子は協力してくれないの…、酷いでしょ?」

 母さんは残念そうな顔をしていた。


(こんな事のために呼んだの?きっと母さんは協力するまで、捕らえ続けるつもりだ。なら、この子に私が出来る事は…。)


「母さんが殺らないなら、私が斬ってあげるよ。刀を貸してよ。」

 刀を受け取って、力を込めて捕らえられた彼女の魂の核を砕いた。


 母さんは紫音の体で神里家の力を使える事に驚いていたが、その理由を推測済みらしく…納得して、


「私の娘なら、これくらいは当然ね…。その女は好きになさい。」

 母さんは拘束を解いて彼女を解放した。


 その後、彼女の手当てをして警察を呼び、誘拐及び殺人の疑いで犯罪組織のメンバー認定されている彼女は逮捕された。


 警察の聴取を受けたあと、麻友と二人で神里家の玄関で、話をしていた。


「理由はどうあれ、他の人間から生命を奪うのは、立派な犯罪だからね…。」


「はい、その通りです。残りのメンバーを先に見つけないと殺されちゃいます。」

 麻友が神里家は捕らえるけど、殺さないと言っていたが、


「捕らえて拷問するのもどうかと思うんだけど…。」

 と俺は呟いて、呆れていた。

  

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