第233話 踏み入れてはいけない世界と婚約者
神里家の母さんの血を引く、隠し子…神里
(富裕層のみが集まる社交場…か。景気の悪いこのご時世に気分が悪いもんだ。)
如何にもお金持ちばかりの空間を不快に思う俺に蓮さんが、
「今の紫音は神里家の正統な嫁。神里 紫音として、皆様には笑顔で接しなさい。分かりましたか?」
不快感を露にしていたので、蓮さんに叱られてしまった。
蓮さんはまだ若いのに顔が広いらしく、多くの経営者やそのパートナーの女性たちに話し掛けられていた。その人たちに婚約者として紹介されて、挨拶をしていた
「あれが本部の重要人物として名高い、
蓮さんがそう言ったので、
「ウチの母さんが嫌いそうなタイプだね…。」
神里の母さんは才能があっても自分に従わないタイプを嫌っている。
「そう言う事です。私は挨拶をしないとダメな方々がいますので、少し席を外します。あまり、ご無理なさらぬように警戒をお願いします。」
蓮さんはそう言って、俺の側を離れた。
(蓮さんは隠し子で次男だけど、神里家としての立場をちゃんと守るんだね…。本気で私をお嫁に貰うつもりなんだ…。)
蓮として社交場で振る舞う姿を見て、神里家の務めと紫音を嫁に貰い、トップに君臨する覚悟を感じていたら、
「あなたが神里家の後継者、紫音ね。」
本部の長峰さんに声を掛けられて挨拶をしたあと、
「私は神里家の嫁になるとは言ってませんので、今は白河の社員です。」
そう言って、後継者では無いと話すと、
「でも、婚約者を見る目は恋をしている目だよ?私も夫をそう言う目で見て、愛せたら幸せになれるのかな?」
彼女が茶化して来たので、そんなことは無いと否定していた。
その後は長峰さんと会話しながら、例の事件を起こす主犯とやらを探すと、長峰さんとは違う意味で、気になる女性を見つけた。
(恐らく、あの女性だ…。)
明らかな異彩を放つ彼女を見ていると、彼女が紫音の魂の色を見たのか分からないが、避けるように裏へ逃げて行った。
「ダメよ。敵意は上手く隠さなきゃ、私みたいに…。」
長峰さんに
(自分の行動を隠すため、潜入に不慣れな私を囮として利用されたよ。)
不慣れなドレスコードとハイヒールを穿いていたので、裏へ逃げた彼女たちを見失ってしまい、探していると、
「紫音、ダメだよ。勝手にホールを離れちゃあ…。」
蓮さんに手を掴まれて側に手繰り寄せられた。
「蓮さん、怪しい女性を見つけたの。追わないと…。」
長峰さんが追い掛けていったから、私たちも追うべきだと彼に告げると、
「紫音、私はあなたの婚約者だ。君の仕事の邪魔はしたくないが、まず、私たちは本部の裏切り者を探すのに専念しよう、いいね?」
彼は冷静になるように言うと、手を軽く繋がれてホールに戻されてしまった。
(カッコいいね。大人だし、優しく私をリードしてくれる…。)
長峰さんに言われた通り、紫音の体は彼の事が大好きになっているみたいだった。男性にリードされる事が嬉しい事にも気付いた。
「蓮さん、どうやら、私は本能的にあなたが好きみたいです…。だから、婚約者としての務めを果たします。」
彼にそう告げたあとは、社交場に率先して出ていき、笑顔で立ち振舞いながら好感を持たれるように、婚約者の役目を果たした。
社会人の経験が活きて、その場にいる方と交流しているうちに、ある男性が誰かを探している事に気が付いた。
「あの人、溶け込めて無いね、蓮さん。」隣にいた彼に話し掛けると、
「そうだね。どうやら、女性とはぐれたのか、探し回っているようですね…。あれが本部を裏切るスパイ、当たりですよ。」
蓮さんがそう告げると、その男性に近付き、
「私たちはあなたが誰を探しているかを知っていますよ。そして、きっとその人はもう…、この世にはいません。」
長峰さんに始末された事を話すと観念したのか、
「私は彼女たちの理想に共感したまでだ…。お前たちみたいな、自分たちにそぐわない者を排除し続ける集団に未練も無い。」
彼は本部を裏切った事に対して悪びれもせず、自身の未来が見えたのか、抵抗する素振りを見せずに、長峰さんの部下の構成員に連れて行かれた。
「私たちは神里家だから、本部には関係ないんだけど…。」
蓮さんはそう呟いていたら、長峰さんが俺たちの所に来て、
「お疲れさま。今日は紫音に会えて良かったわ。出来ればだけど、私たちのようにならないで、あなたはそのままで変わらないで欲しい。じゃあね、また。」
彼女は微笑みながら、ホールを出ていった。恐らく、彼女はその綺麗なドレス姿のまま、追っていった若い女性を殺し、平然と笑顔で社交場に帰ってきた事を言っているのだろう…。
(神里の母さんが言っていた…、本当に出来る女は非情な行為を痛みを感じる事なく出来る女。)
世の中を正常に回すため、異端の存在を消し去る。そんな世の中になってしまった事を嘆いていても、それを無理矢理に受け入れている。彼女だって、霊が見える才能が無ければ、普通の会社員だったり、誰かのお嫁さんだったり、したのだろう…。そして、今日みたいな、殺人と言う…汚れた仕事もしなくて済んだ。
この世界にいると俺もこうなるのかもしれない。そう感じた俺はある決断をすることにした。
「蓮さんは私をお嫁さんに欲しいですか?」そう彼に尋ねると、
「もちろん。今の母さんに反抗的な態度を取り、己が正しい事を実行できる、強くて優しい紫音が好きだよ。」
蓮さんはそう言って、抱き締めてくれたので、
「いいよ。私が高校を卒業したら、結婚しよう。」
彼に結婚しようと言って、紫音として、人生のパートナーを決めてしまった。
「本当?じゃあ…。」
彼が照れていたので、少し背伸びして彼とキスをした。
「続きはこの事件を解決してからにするね?」
と言うと彼は顔を真っ赤にしながらも、とても嬉しそうにニヤけていた。
(こう言うと男は正直な反応をしてくるよね…。これからは旦那様って呼んであげようかな。)
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