第229話 空っぽの魂

 蘇りの少女に会いに行くため、電車に乗ろうと駅に向かったのだが、そこで上本 玲奈がトラブルに巻き込まれている所に遭遇して、玲奈に喧嘩を売るダメな男の身を案じて、屈伏させて電車へ追いやりその場から消えてもらった。


「お姉ちゃん、前よりパワーアップしてるじゃん!凶暴性も増してるし、カッコいい。私の理想のお姉ちゃん、最高だよ!」

 玲奈は頬を擦り寄せて、自分よりも背の低い元姉を愛でてくる。


「玲奈、私は高校生の紫音なの、年齢も年下だし、お姉ちゃん呼ばわりしてるから、周りが変な目で見てるから止めてよ!」

 女子大学生の玲奈は東京の大学生なのに、なんで京都にいるんだ。


「お姉ちゃん、私ね、神里 玲奈になったから、それと…、妊娠四ヶ月だよ。だから、お姉ちゃんはお父さんにもなるんだよ~。」

 また、お馴染みの玲奈爆弾を落としてきた。


(確かにお腹が出てる…。妊婦なのに、ケンカするなよ。)


 玲奈は元の俺の体だった光と結婚したため、万が一、元の体に戻った場合は玲奈を妻にしないといけなくなる。光から姉の上本 恵令奈になり、そのあと、橘 紫音の体になったため、戻る可能性はかなり低いが、最も俺との関わり合いに近い存在はこの玲奈になる。


「おめでとう、玲奈。ただ、お父さんになる…は語弊になるから、二度と言わないでね?」

 俺が光の時に妊娠させた訳じゃないため、生まれても、ほぼ…他人だ。


「恵麻ちゃんもいるから、一緒に子育てしようね。」

 とにかくこの元妹は俺の事が大好きなのだ。


 玲奈に大学はどうしたのかを聞いたら、卒業まで直接登校するのは数日のみで単位も取れているため、卒業までは、ほとんどリモートで出席するそうだ。元俺の光さんも職場を大阪に変えて、実家で暮らしているらしいし、来年の春から玲奈は京都に住むのだろう。


(感染症の影響とはいえ、リモート授業は時代が変わったよね…。)


 玲奈に何をしているのかを聞いたら、神里家に帰る所だったらしいが、駅で彼女に罵声を浴びせる男にムカついて揉めていたらしい。


(男も悪いが、母親になるのに危険を省みない、お前もどうかと思うぞ?)


「お姉ちゃんは依頼?学校終わりなのに、働き者だね。私も、妊娠していなかったら手伝ってあげるんだけど…。」

 そう告げてくれたので、


「じゃあ、魂の色を見る能力だけ、貸してもらうね。」

 そう言って、玲奈の頭に額を当てて、彼女と繋がった。


「スゴいよ、お姉ちゃん。心で姉妹だったら繋がれるんだね。」

 玲奈の魂の色を見る力さえあれば、今回の事を解決できるきっかけになるかも知れないため、少し借りる事にした。


「玲奈が言ったんだよ?体が変わっても私たちは姉妹だ…って。だから、私も玲奈を大切な妹として見ることにしたんだよ?」

 妊娠したお腹を擦りながら、


「大切な妹のお腹で育って、元気に生まれてね。」

 そう言って、反対側の電車に乗る彼女を見送った。


 これから生まれる命もあれば、亡くなる命もある。これ以上、命のサイクルに能力を使って踏み込んではいけないと感じた俺は、蘇った莉奈ちゃんがいる病院に向かった。


 彼女のいる病院の受け付けに行き、名刺を見せたあと、彼女の病室に入ると、目が虚ろな状態の彼女が、病室から窓の外を見ていた。


(やっぱり…、魂の色が見えない。死人同様の空っぽの色だ。でも、脳の記憶も無いから、莉奈ちゃんの色に魂が染まらないんだ…。)


 その結果は彼女の家族に話した通り、脳の記憶喪失ではなく、誕生したばかりの赤ちゃんだった。魂の色は年齢と共にその人を彩っていく。色が無いと言う事はこの世に誕生して間もないと言う事なんだ…。


(彼女は人間の言語も話せないだろう…。0歳児と一緒なんだ…。逆に2歳の恵麻は2歳にして相当な色の輝きを放っており、体が追い付いていないだけで、すでに大人の女性として魂は完成されている。)


「莉奈ちゃん、こんにちは。」

 彼女に話し掛けたが、言葉を理解もされないし、莉奈と言う名前さえ反応しない。ただ、ぼ~っと一点を見つめるだけの人間だった。


(何も無い彼女に、精神失調分野での治療は無意味だ。霊体をベースにした恵令奈の実体化能力とは格が違う。例えば…、髪の毛一本から彼女のDNA情報を読み取り、作った…、みたいな感じだろう。まるでクローン技術。)


 そのあとも何回かアクションしてみたが、反応が無いので、担当医に俺の見解と、今後の治療と言うか、教育プランを話したあと…、家にいるはずの神里の母さんに連絡して、


「麻友から報告が行ってるかもしれないけど、母さんのグループ系列の何処かで、彼女を支援してあげてよ。」

 そう言って、莉奈ちゃんの話をすると、


「それは私にメリットがあるのかしら?使えない他人に手を差し伸べるほど、暇じゃないのよ。母さんの娘なら分かるわよね?紫音。」

 利がないなら、協力しないと断られたので、


「母さん達に利はあるよ。どこのバカが死者への冒涜行為をしたか、神の領域を侵したかが分かれば、ソイツを本部が狙う前に能力を母さんが目指す理想に役立たせてやれば…、神里家は安泰だよね?」


 母さんは恵令奈の能力をこの世から消したがっていた。それほど驚異だと感じたからだ…。なら、似たような事例を持つ今回の事象は捨て置けないはずだ。


「あなた、紫音になってから、かなり悪知恵が働くようになったわね…。より女らしくなってくれるのは、母さんは嬉しいけど…、母親わたしと交渉するなら、もっと核心に迫ってからにしなさい。」

 神里の母さんはそう言うと、電話を切ってしまった。


(最近の母さんは私に過度な接触をしなくなり、麻友に指示を出し、自分は距離を置いている。きっと、紫音の体に適合し始めて、力を増している私を脅威に感じ始めたからだと思う。か弱い娘なら可愛がるけど、強い娘は好きじゃ無いのかな。)


 彼女の誤算は紫音の体にここまで適合して力を発揮するとは思っていなかった事だろう。ただ、俺も元母親に殺されたくないから、使える人材としての友好な関係は続けておかないとそのうち、恵麻たちに危害を加えるかもしれない。


 莉奈ちゃんの将来を案じたため、取りあえず、問題の核心に迫り、神里家の支援を取り付ける方向で物事を進める事にした。


(マリアに話したら、キレそうだな…。ウチの娘と猫は神里の母さんをメチャクチャ嫌ってるもん。)

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