第228話 作られた人間

 蘇りの事象が起こった家庭に入る事が出来た俺たちは松崎先輩の幼馴染み女性と会うことが出来て、彼女の部屋で話すことになった。


「勘違いしてごめんなさい!私は篠原 麗奈れなって言います。あっ君が言っていた亡くなったはずの妹は莉奈りなと言います。」

 麗奈ちゃんは高校二年生で、莉奈ちゃんは中学二年生だと分かった。

 

「それで、莉奈ちゃんは今どこに?」彼女の居場所を聞くと、

 

「はい、記憶がまったく無くて、検査に異常も無いですが、死んだはずの人間と言うこともあり、精神科の病院に入院中です。」

 DNA検査も莉奈ちゃん本人と診断されて、医者も本当に困っているそうだ。

 

 その後、蘇った莉奈ちゃんの姉から色々と聞いていた。確かに死亡した遺体を見たこと、お葬式までして、火葬されて骨になった妹を見たこと、その骨のDNA鑑定も莉奈ちゃんだった事など…。

 

(死んだ妹が生き返っただけでもおかしな話だから、私の顔を見て浮気相手とヒステリーになるのも無理ないよ…。これで松崎先輩にフラれたら、麗奈さんは自暴自棄になってしまう。)

 

「なあ、恵令奈の時に似てるやん。自分が体験したんやから、なんか分かんのちゃうん?」

 マリアに聞かれたのだが、


「いや、霊体が実体化したなら、体にも魂にも記憶が残るはずだよ?だとしたら、一から人間を構成したとしか、考えられないよ。」

 能力者によって作られた人工の生物だと言うと、


「人工の生物ってなんですか!妹は生き返ったんです!人間なんです!」

 彼女は当然、怒りを露にし出して責めてきた。


「言い方が悪いのは訂正するけど、麗奈さん。あなたの妹さんは死んだんです。そして…、さ迷うはずのあなたの妹さんの魂が見つからない。誰かが、あの世に行かないといけない魂を捕らえたのか、もしくは情報を抜き取られて、再構築されて現世に呼び戻された。」

 そう言ったあと、彼女にあなたの妹でない事を告げた。


「じゃあ、あの妹の姿をした子はどうしたらいいの?すべての記憶を失って赤ちゃんみたいな状態で生きているのよ?」

 再び、生を受けた妹が違う人間だと告げられて、彼女は涙を流してしまった。


 彼女が泣き始めたため、マリアは優しく慰めていた。非情な答えを言った俺は部屋を出て、側で部屋の会話を聞いていた彼女の母親と話して、再び生を受けた、莉奈ちゃんをどうするのか聞くことにした。


「話は聞いていました。やはり、別人なんですね…。でも、莉奈は私たちで引き取ろうと思います。体はちゃんとした血が繋がった家族ですから…。」


 彼女の母親は記憶が無くしても、娘だから引き取って育てると話したので、


「そうですか…、どう作られたかによってはこれからの健康状態が気になります。もしもの時は再び、覚悟してくださいね。」


 莉奈ちゃんの体がどの程度、保てるかも分からないからと告げ、死を匂わせるように話すと、「分かりました。」と告げるだけで、彼女はそれ以上、聞いては来なかった。



 篠原さんの家を出たあと、原因を探るため、俺の体に起きた事について考えていた。恵令奈さんの能力は俺の不完全な魂で使いこなしていたから、実体化が長くても数日しかもたなかった。悪霊が紫音の魂で使いこなした恵令奈さんの能力は魂も霊体も使わずに多くの死霊に生を与えていた。


「能力者の力が失われた瞬間に能力が解除されたが、恵令奈さんの体には魂が入っていたため、消えずに済んだ…。今の莉奈ちゃんには、どんな魂が入っているんだろう…。」


 紫音は本当にこの体を手放したいくらい、苦しんでいたのかな?悪霊が原因だとしても、取り返しの付かない事を彼女はしてしまったから、恵令奈の体で罰を受けている。あの恵令奈の体だって、能力で作られたモノだし、いつまで持つか分からない。


「そやな、魂が猫のウチも猫くらいの寿命しかあらへんかもしれへんし、15年くらい生きれたら…、往生したと言えんのちゃうかな。麗奈にキツう言うたんは、蘇った妹を迎え入れても、すぐに死ぬかもしれへんからなんやろ。」


 マリアも魂と体が別の人間の寿命に関しては分からないと話した。



 家族からの面会の許可を得たので、莉奈ちゃんがいる病院に行くことにしたが、案の定、学校に疲れた恵麻が眠ってしまい、マリアが連れて帰ると言ってここで別れる事になった。


(魂の色を見れる恵麻に付いてきて欲しかったけど、絆の力でも、寝てる恵麻の能力は使えないし…。困ったな~。)


 病院に行ってから考える事にした俺は電車で向かう途中で、駅で言い争っている人たちを発見した。


(はた迷惑な奴がいるもんだよ…。この間も駅で散々な目にあったし、私が関わると、母さんや麻友がその人に制裁を与えようとするから、知らんぷりしよ。)


喧嘩中のカップルだと思っていたが、そこにいるのは…、元妹の玲奈だった。


(玲奈~、なんで京都にいるの。しかも、男性と喧嘩してるし…。)


「彼女なのになんで!そんな事を平然と言えるの?彼女に謝りなさい!」

 正義感が強い、玲奈は彼女に対する男性の態度が良くない事を怒っているようだった。


「部外者は引っ込んでろ!女だからって容赦せえへんぞ!」

 男性は逆ギレして玲奈に食ってかかりそうだったので、


俺は素早く男性の前に入って腕を取り押さえて、

「ウチの妹に喧嘩を売らないで欲しいんだけど、あなた…怪我するじゃ済まないよ?」

 暴力沙汰の事はめんどくさいから、警察に行こうかと話すと、


「誰だよ、テメェ!イタイ!腕が折れるだろ!」

 本当に痛そうにしていた彼の耳元で、


「女子高校生に腕を折られたいのかな~?それとも、もっと痛い目に遭いたいかな?いっその事、ここで死ぬ?」

 かなりの力で押さえつけて脅すと、


「ごめんなさい。助けて下さい。」

 彼は降参したため、解放して駅に到着した電車へ放り込んで、「バイバイお兄さん」と言って、手を振って強引に解決した。


「紫音お姉ちゃん!カッコいいよ~。」

 玲奈に抱き付かれてしまったが、


「玲奈はなんでトラブルばっか起こすの!私が悪目立ちしちゃったじゃない!」

 公然で喧嘩を売り、騒ぐ玲奈を叱ると、


「お姉ちゃんはやっぱり私のお姉ちゃんだ~。」

 紫音の姿でも、姉っぽく叱る態度に彼女は興奮していた。


(神里家の嫁になって、姉に叱られたい変態性を持ってしまったよ…。)

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