命は犠牲があって成り立つ

序章 死者が蘇るうわさ

 冬も近付いてきた頃、いつものように学校で恵麻と仲良く昼食を取っていた俺の所に、一人の男子が近付いてきて、


「橘さん、少し話を聞いて欲しいんだけど…。」

 勉強の事以外で、話をしたいと言われるのは珍しかったため、


「どうしたの?私に話し掛けるって事はよっぽどの事でしょ?」

 非モテ女子で子持ちの紫音オレに話し掛ける男子はほぼ、いない。


「うん、橘さんは霊の願いを叶える仕事をしているって、岡崎さんから聞いたんだ…、俺は二年で岡崎さんのクラスメイトで松崎だ。」

 どうやら、杏奈のクラスメイトが俺のうわさを聞いて声を掛けてきたようだ。


「で、松崎先輩、私に相談事はなんですか?」

 恵麻にお弁当を食べさせながら、話を聞くと伝えると、


「うお!うわさよりもちゃんと母親をしているんだな…。橘さんはSNSで蘇った少女のうわさを聞いた事があるか?」

(ん?オカルト?)忙しすぎてSNSを見る余裕の無い俺は知らないと話すと、


「知らないか、そこそこ有名だったんだが…。まあ、いいよ。その蘇った少女って言うのが、俺の幼馴染みの妹で、交通事故で死んだはずなのに…、葬式が行われた次の日に、記憶を失ったまま、別の場所で保護されたって言うんだよ。」

 彼は死んだ人間が生きていた話をし出した。


(はい?火葬を終えた人間が別の場所で見つかったって事?)


 彼はお葬式に出ていて、遺体の確認もしていたらしい…。なのに、その少女が別の場所で生きていた事を話し始めた。


「で?私にどうして欲しいんですか?」

 依頼でも無い事に首を突っ込む余裕は無いため、彼を牽制して引き離そうとすると、


「うん、岡崎さんが橘さんなら、謎を解き明かしてくれるって、そう言う家族に寄り添ってくれるって言ってたから、真相を俺の幼馴染みに伝えて欲しいんだ。」

 杏奈が余計な事を彼に吹き込んだらしい…。


(私…、依頼もアレだけど、勉強も忙しいんだけど…。)


俺が彼のお願いを断ろうとしたら、

「その依頼!美少女探偵の小鈴ちゃんにお任せなさい!」

 どこからともなく小鈴が話に乱入してきて、宣言し出した。


(美少女探偵?ウザいし帰ってよ、小鈴…。)


 その後、小鈴が彼の話を聞いて、彼との連絡先を交換したあと、俺と小鈴の美少女コンビに任せなさいと言って彼の悩みを引き受けてしまった。彼が場を離れると、


「紫音!彼、バスケ部のエースでイケメンだよ?イケメンのお願いは黙って聞かないと、恋に生き遅れちゃうよ?」

 ガツガツしている所がすでに生き遅れている小鈴が興奮していたが、


「麻友。この邪魔な生き遅れ女子をどっかに連れていってよ。」


 人の昼休みを邪魔する神里家の問題児を神里家の養女に処理させようと呼ぶと、麻友からメールが来て「橘さん、学校内で私を呼ばないで下さい。」と断られてしまった。


「冷たいな~、変態に絡まれて愛する彼女が困ってるのに…。」と呟くと、


 またメールが来て、「私が彼女です。橘さんが彼氏です。」と突っ込まれた。


(麻友が女役で私が男役なのね…。私の方が背が低くて胸が大きいのに。)

 と考えていると、


「紫音様、背や胸で彼氏彼女が決まる訳ではありません。心の問題です。」

 私がしつこくしてため、麻友が私の後ろまでやって来て話し掛けてきた。


麻友がやって来たので俺は、

「麻友~、なんで私に冷たいの?好きじゃ無いの?」

 甘えるように抱き付いて、ぶりっ子のように振る舞うと、


「紫音様は可愛すぎなんです。甘えられると逆らえないじゃ無いですか…。」

 主従関係の濃厚すぎるスキンシップをして二人の世界を作ると、


「紫音。私を無視しないでよ!」ほったらかしの小鈴が怒り出した。


 その後、クラスでモテ女子の麻友と子持ち紫音がラブラブで交際していると話題となり、麻友の事が好きだった男子はショックを受けて、百合好きの女子はキャッキャッとはしゃいで喜んでいた。


「麻友、死者の蘇りって事は恵令奈みたいな実体化能力なのかな?」

 俺は小鈴を完全に無視して、話し始めた。


「紫音様、それだと、実体化させる霊体が必要なはずです。我々が把握しているのは、死んでから数日後に残存霊体を確認出来ますが、場所は亡くなった所ではないし、本部よりも先に感知できる人間が存在するとは思えません。」


 麻友の話では、この世の未練が強いものがあの世の門から弾かれて現世のどこかにさ迷うようになるらしい…。


「全部の記憶を失うのは珍しいですよ。私はその彼女に会うべきなのかと思いますが、この件は紫音様と小鈴さんでこなして下さい。私はお義母さまに別の案件の調査を頼まれているので、白河家の依頼以外は手伝えません。」


 麻友は少し忙しいらしいので、今回の件は学校内でアドバイスや知識の提供しか出来ないと話したので、


「話してくれてありがとう、麻友。愛してるよ。」

 彼女よりも紫音オレは少し背が低い。背伸びしてキスをすると、


「紫音様…、私も…です。」彼女は顔を真っ赤にして席へ戻って行った。


「お~い、私を忘れてるよ~。」小鈴が話し掛けてきたので、


「ちょっと背伸びしてキスする…、恋って素敵だよね…。」

 麻友の事が大好きな紫音オレはそう呟くと、


「だ・か・ら!無視す~る~な~!」

 小鈴は女の体で女同士イチャイチャする身内にイライラしていた。

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