第223話 脅迫する紫音は恋のキューピット
「なあ、紫音。二周りぐらい離れたこのおっさんは誰なん?さすがに紫音の両親が娘に無関心とは言え、家に連れ込むんは、あかんと思うぞ?」
彼氏とのデートを終えて、帰ってきたマリアに指摘されたので、
「麻友が勝手に拉致って、彼が警察へ駆け込んだら、私の人生が終わるんで、連れて帰るしかなかったのよ…、それに…。」
絢美さんの元彼で未央の同級生、無職で家無しの三宅 涼介さんを橘の家に連れて帰ってきた俺はマリアに男を連れ込むなと言われていた。
「俺は警察になんていかないよ。解放してくれよ。」
彼は拉致した事は誰にも言わないから、解放してくれと言ったのだが、
「神里のババアやったら、ここで逃がしたら、このおっさんを殺しおるな。」
マリアは天敵の考えを分かっていたので、
「三宅さん。あなたはもう死ぬか、私の部下として働くかの二択なんですよ。私はあなたを解放したいんですが、ウチの…、神里の母さんに睨まれた時点で、自由の権利を失ったんですよ。」
彼に謝っていたのだが、
「君の後ろには黒幕がいて、君たちに関わると逃げられない…、恐ろしい女だったんだね、紫音さんって…。関わった時点で俺に自由は無いのか。」
彼はしばらく考えたあと、
「分かった。君の部下として働くし、絢美にも謝る。これで良いだろ?」
彼はウチの会社で働く事を了承したため、
「いえ、それだけではダメです。絢美さんに告白して、白河家の婿養子になってください。あなたが助かる道はこれしか無いんです。お願いします。」
彼にそう告げて俺が頭を下げると、
麻友が家に入ってきて、
「紫音様。彼のスーツと、結婚用の指輪と神里のお義母さまからの祝儀金をお持ちしました。大事な先輩の娘婿となるお方にはしっかりとした物を用意するように…、との事です。」
彼に差し出すと、麻友はそのまま帰って行った。
(う~ん。拉致した理由はスーツと薬指の採寸をするためだったのか。麻友~、先読みし過ぎだよ…。)
イカれている発想の女子高校生たちに、
「理解したよ、紫音さんが怖いのでは無くて、俺を拉致して体の採寸をしたあと、スーツと指輪を用意する、あの麻友って女の子とその母親なんだね…。」
彼はようやく、私は何もしていない事を理解した。
「ウチの母さんは私のためなら手段を選ばない人なんです。私が絢美さんのためにあなたが必要だと感じたら、何が何でも、あなたと絢美さんをくっつけるし、私が学校に行っている間の留守を務められる人への教育も惜しまない。私に出会ったのが、あなたの運命を決めてしまいましたね。ごめんなさい。」
再度、強引すぎる神里家のやり方に謝罪した。
そのあと、彼は用意されたスーツに着替えて、マリアにだらしない髪型をセットされ、無精髭を剃られて清潔感ある姿に変身した。
「紫音、ババアが変な事をせえへんか、心配やろ?キレイにセットしたるし、少し上品な格好をして付いていき~や。髪も立会人として相応しい格好にするわ。」
マリアは俺にも髪の毛をセットし、化粧をした。
すると、麻友が再び、家にやって来て、
「三宅様、お迎えに上がりました。どうぞ…。」
次は拉致では無くて、ちゃんとした高級車で送迎するみたいなので、俺は見届け人として付いていく事にした。
外は夜も更け、車が向かった先は紅葉のライトアップされた広い庭がある場所だった。
(ここって、夜は拝観禁止なんじゃ無かったっけ?貸し切り?告白を強要させるとはいえ、やる事…、スゴくない?)
「紫音様はこちらで二人の誓いの言葉を聞き、見届けて頂きます。よろしくお願いいたします。」
麻友はそう言うと、立ち去って行った。
絢美さんは大人のドレスを纏って待っていて、褐色の健康的な体がとても美しく、とてもキレイな女性へと変貌していた。スーツを着た彼が近付いて行くと、
「涼ちゃん!アタシを迎えに来てくれたって本当?」
彼女は三宅さんの姿を見て、かなり嬉しそうにはしゃいでいる。
(あっ、やっぱりまだ、彼の事が好きなんだ…。)
「ああ、絢美、突然いなくなってすまなかった…。」彼が謝罪すると、
「うん、でも…、信じていたよ?アタシの事を幸せにしてくれるって…。」
そう言って、抱き付いて全力で甘えていた。
(あんまり見ない方が良さそうだ…。用があるなら呼んでくれるだろう。)
そう思い、会話の聞こえない少し離れた位置に移動して、紅葉を見ながら数十分ほど待っていると、
三宅さんに声を掛けられて、もう逃げないから誓いを聞いて欲しいと言われた。
「ありがとう、彼を見つけて、優しい彼に戻してくれたんだよね…。紫音ちゃんの言うことを聞いてからは良い事しか無いよ!」
彼女は嬉しさを爆発させて抱き付いて来たので、
「絢美さん、良かったです。私が彼の誓いの言葉の承認になりますから、安心して幸せになってくださいね。」
彼女にそう告げて安心させると、彼に対して、
「もう逃げちゃダメですからね?上司の私に歯向かわず…黙って、絢美さんを幸せにして、ご自身も幸せになってください。」
彼に再度、釘を刺すと、
「分かっているよ。君は怒ると怖いからな…。彼女を絶対、幸せにする。」
その言葉を聞いた俺は、「あとは心ゆくまで、イチャついて下さい。」と告げて、二人の元を立ち去って行った。
麻友が待っていた所まで戻ると、
「立派なお働きです、紫音様。」と言われたので、
「最近、仲人みたいな事ばかりしているね、私。ところで…私のドレスコードの意味はあったの?」
私服でも良かったのでは無いのかを尋ねると、
「紫音様の美しさと紅葉はとても良い絵になります。紅葉狩りをする紫音様…、今日はそれを見れただけで私は満足です…。」
彼女はエロい物を見た感じの顔をしてニヤけていた。
(確実に主を性的対象として見ているよね?)
「麻友は私を恋愛対象として見ているの?」気になるので聞くと、
「はい、もちろんです。主人と従者の禁断の恋は興奮するんです。最近は会話をしなくても、制服姿だけでもイケます。下着姿はもっとイケます。恵麻お嬢様と仲良くしている姿なんて…、最高です。」
同性の体に興奮している麻友は冷静なトーンで話していた。
(うん、冷静沈着に隠された変態性は、神里家の証だよ。でも…。)
「ありがとう、嬉しいよ。私も麻友が好きだよ。」
思わず、好きと返してしまった…。
(あれ?そんな事を言うつもりは…。)
自分の中で麻友に対して恋愛感情を持ってしまっている。その事に気がついたが、それを聞いた麻友はただ、笑みを浮かべているだけだった…。
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