第143話 母と過ごす夜

俺は聞きたい事があった、

「母さんは白河社長と知り合いなの?」そう尋ねると、

 

「白河さんは高校の先輩なの…。母さんは高卒で就職して、二十歳で結婚してからはずっと専業主婦をしていたし、それ以来は白河先輩に会うことは無かったわ…、でも、15歳年上だったお父さんも五年前に亡くなって、霊力の無い鈴花は私と同じく二十歳で結婚してその娘婿が家を継いでくれたし、ようやく…自分の時間ができたの…。」


 母さんとこう言う話をするのは初めてだった。ずっと俺や姉さんには厳しい母だったし、年のわりには若々しくて凛々しい母と言うイメージだった。

 

(小鈴に聞いたが、俺が恵令奈になって、テレビでその姿を見てから…、母さんの何かが変わったって…。)


次に母さんは最近の社長との関係を話してくれた、


「えっとね、恵令奈が関東で教育実習を受けていた時にね、依頼をこなす白河先輩に偶然、再会したの…。その時に、白河先輩が私の息子を雇っていることを知って、しかも、私の息子が若い女性の姿になってしまった事を聞いたの。


 白河先輩に物凄く謝られたわ…。桜子くんの長男を霊の世界に巻き込んで、しかも女性の姿にさせてしまって、すまなかった…って。」


 社長からの謝罪があった事を話してくれた。

 

(そうか、母さんはその頃からずっと俺を見守ってくれていたのか…。)


「ずっと、静かに見守っていてくれて、ありがとう…、母さん。」

 改めて、お礼を言うと、


「ここからよ、恵令奈。恵令奈さんをこんな目に遭わせた霊とこれから対峙するのよね…。色々と大変だし、母さんも手伝うから…ね。」


 母さんに、恵令奈の無念を晴らすよう、言われた。


(ん?手伝う?)言葉の真意を聞いてみた。


「母さん、手伝うって何?」と聞くと、


「こう見えても、恵令奈のお母さんなの。娘の仕事も、娘の子育ても、娘の婿探しも…、全部、母さんに任せなさい!今回は相手が相手だし、手伝って欲しいから、家に来たのよね?恵令奈?」


 母さんは何か、勘違いしている…。


(今日は玲奈の付き添いだよ?母さんに会うのが目的じゃないよ?)


「母さん、私の応援は嬉しいけど…、職場には、来なくていいです…。」

 やんわり断ると…、


「体の血が繋がっていなくても、心は、魂は、繋がっているわ!だから、遠慮しなくていいのよ?」


 母さんの発言が過激になり始めた。


(ウチの母はいつから、スポ根みたいな事を言い出すようになったかな?)


「母さん…、落ち着いて。よく見て?私は上本 恵令奈よ。神里家とは無縁の存在なの。」

 そう言って、母と似ていない恵令奈の顔を近付けると、


「大丈夫よ。玲奈ちゃんと光が結婚するから、玲奈ちゃんの姉の恵令奈は立派な神里家の家族よ。」と言い切ってしまった。


 母さんは恵令奈との関係を維持するために、光さんと玲奈の交際と結婚を簡単に認めてしまった。


(良かったね、玲奈。私がいる限り、神里家との関係は安泰だよ?たぶん…、明日から、婚姻届けに判を押されて…、神里 玲奈にされるよ?)


そんな事を想像していたら…、

「でも、恵令奈がお母さんと仲良くしてくれないと…、妹の玲奈ちゃんは光との関係がどうなるのかな?」


 母さんは突然、声色を変えて聞いてきた。


(えっ?玲奈を…、妹を盾に、俺は実の母から脅されるの?)


もちろん…、俺の答えは、

「うん、母さんの好きにしなよ。その代わり、玲奈と仲良くしてね…。」


 母からの最強の脅しに屈してしまった。


その答えを聞いた母さんは、

「もちろんよ!玲奈ちゃんはもう、私の大切な義理の娘だもん!」


 恵令奈を好きに出来ると聞いて、とても嬉しそうだった。


(恵麻…、女同士の関係って難しいね。お母さん、今日、女になって初めて実家に帰って、女をやっていける自信が無くなったよ…。)


 幸せそうに眠る恵麻を優しく撫でながら、俺は親戚付き合いと言う、魔の世界へ来てしまった事を後悔していた。


「さっ、恵令奈。今日はお母さんと一緒に寝ましょうね。」


 そう言ったあと、母さんは俺を人形みたいに抱き締めて布団の中に連れ込んで、眠ろうとしていた。


「やっぱり、肌の温もりって良いわね。おやすみ…、私の可愛い恵令奈。」


 そう言うと、恵令奈を抱き締めた母さんは、その温もりに安心感を得て、一瞬で寝てしまった。


(寝るの早!うん、動けないし仕方ないから…、俺も寝る!)


 俺も抵抗を諦めて、手を伸ばし、恵麻の手を握りながら眠ってしまった。


 娘を思う気持ちは分かるよ?母さん。でも…、私、もう大人だし、今年で体は24歳女性で、記憶は35歳のおじさんだよ?年相応って意味が分かっていないのかな?


 母さん、仕事を手伝ってくれるって言っていたけど…、大丈夫かな…。

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