第144話 神里家に眠る、退魔の刀

 朝になり、布団から起きた俺は、京都市内全体に暗雲が立ち込めている事を感じていた…。


 京都のお盆は少しだけ長い、この期間にその霊たちを迎え入れ、そして…送り火と共にあちらの世界へ再び送り届ける…、多くの先祖が帰ってくるって言われているからだ。紫音が作っているあの世への道は坂や橋などの条件さえ整えれば場所を問わないが、通常の行き帰りのルートは決まっているらしい…。


(依頼は応仁の乱の悪霊を祓って、あの世へ連れていく、だったよね。)


 今までの依頼とは格が違う…、強力な霊をあの世へ送るのだから…。


そんなことを考えていると、

「固く考えないの…。あなたの役目はチームの頭脳、リーダーよ。その天才的な頭脳で、私たちを上手く誘導して、依頼をこなすのよ…。」


 そう言いながら、肩を揉んできた。


「ひゃう!母さん!考え事してるんだから、いきなり、私の背後に近付かないでよ。」

 いつも不意を突いてくる母さんに怒ると、


「ゴメンね…、娘が可愛すぎるから…、つい…。」

 完全に自分の娘として扱われているため、反省する気は無さそうだ。


しかし、このピリピリした空気に母さんは、

「始まったのよ。100年に一度あるか無いかの事態…が。」


 そう言ったあと、母さんは部屋の大きい掛軸を外していた。


 その掛軸の奥には…、隠し部屋があり、母さんが歩いて行くので付いていくと、六畳の部屋に…、一つの長めの刀が置いてあった。


(手入れされた武器…、これは?)


 神里家にこんな物騒な物があるなんて、今まで、気付きもしなかった…。唖然としていると、母さんは、


「悪霊を祓うための長巻よ。霊力が無いと見えないし、退魔専用よ。問題は誰がこれを扱えるか、かしら…。」

 これを使いこなせる人間がいない事を話していた。


(母さんは今年で還暦、俺は貧弱で腕力は普通の女性だ。愛華や紫音辺りなら、軽く振り回せそう。どのくらい重いのかな、持ってみよう…。)


俺はその刀に手を触れたら、

「資格なき者が触れるな。」頭の中に声が聞こえた。


(へぇ~。資格に値しない者が触れると、刀自身が拒絶するのか…。)


納得した顔をする俺に母さんが、

「誰かをずっと、待っているみたいなの…。資格条件も言ってくれないし、恵令奈なら、見せてもいいかなって思ったんだけど。それに昔、御前様にも資格が何かを聞いたんだけど…。そんなのは知らんって言われちゃったの。」


 母さんは霊が見える者しか見えない武器の対処に困っていた。


(資格、か、持てそうなのはあの世へと繋ぐ道を作れる、紫音っぽい気がするけどな…。)


「うわ~。何、隠し部屋?」小鈴が部屋に入って来てしまった。


「小鈴!どうして、ここに?」母さんの部屋へ来た理由を聞いてみると、


「朝から頭の中で恵令奈ちゃんが呼んでたからだよ~。何か用なの?」


 小鈴を呼んだ記憶は無いが、誰が恵令奈の声で小鈴を呼び寄せた…。もしかして、そこの刀が呼んだのか?


そう考えていたら小鈴が、

「スゴいね、そこの長巻から出ている霊力…、もう少し短い方が私はいいな~。」


 そう呟きながら、小鈴が長巻を持つと…、柄の長い刀から、竹刀ぐらいの長さに変化してしまった。


母さんと俺が唖然とするなか、

「刀はやっぱりこれだよ~。ありがと~。紅姫ちゃん。」


 小鈴は勝手に名前を付けて、振り回し始めた。すると…、刀身が赤く染まり始めて、側にあった鞘もそのサイズに変化してしまった。


(うわ~。資格者が触ると、刀が勝手に好みの形へ変化したよ。しかも名前を呼んだら、刀身の色まで、薄紅色になっちゃった…。)


俺は母さんに、

「資格者…、バリバリ身内じゃん。なんで気付かないの?」と言うと、


小鈴の思い通りに変化する、家の宝刀に、

「そない言うたからて、小鈴がアレに呼ばれた事なんてあれへんし、小鈴にあんな、刀剣の趣味があったことも…、知らへんかったわ。」


 母さんはパニックになり、京言葉が出始めていた。


(よほど、ショックだったんだね、母さん…。言葉が素になってるよ?)


小鈴はかなりの刀剣女子だった…、やたら、詳しい。

「小鈴は剣道部なの?」


 型が出来ているので、剣道をやっているのかを聞くと、


「私に勝てる同年代がいないのに、スポーツなんかやる意味無いでしょ?」

 刀を振り回して型を取りながら、答えてくれた。


(いや、いるぞ…、お前より強い女の子が…。)


「うちの娘なら、小鈴より数倍強いから、競い甲斐があると思うよ?」

 自分が一番強いと思い込む、小鈴に苦言を呈すると、


刀を振り回した小鈴が、

「これを避けられる女の子なんているはず無いよ?恵令奈ちゃんはその子が可愛いからって、買いかぶり過ぎだよ~。」


 自分の方が上だと、自信満々に話していた、


(なるほど、小鈴は霊能力がある事を嫌とは思わずに、人より優位に立てる自分に溺れているのか…。同い年で学校に通いながら、働いている紫音に会わせて、自分よりも努力していて心身共に強い存在を知り、触れさせて、挫折させる事を覚えさせないと…。)


俺は母さんに、

「母さん、小鈴に私の仕事を手伝わせるよ。世間知らずの小鈴が成長するには、ちょうど良さそうだし。」と話すと、


意図を察した母さんは、

「分かったわ、鈴花に私の方から話しておくし、好きになさい。」


 俺が指摘する、孫の足りない部分を理解しているようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る