第140話 姉と弟が一年に一回する事

 お盆には必ず実家へ帰っているので、俺は慣れているが、今年は恵令奈としての帰宅になっていた。家族はすでに夕方のテレビや夜のラジオで恵令奈の存在を知っており、光さんの交際相手の玲奈はすぐに家族に迎え入れられた。神里家で恵令奈の正体を知っているのは、霊が見える母の桜子と姉の長女の小鈴のみだ。


(玲奈はさすが、だよね。すぐに他人と仲良くなるもん。光さんは、体の影響でほぼ俺だし、その相性の良さも頷ける。)


 夕食の準備のため、鈴花姉さんは台所に向かって行ったので、恵麻のご飯も作りたかったので手伝うことにした。玲奈も気を使って、手伝うと言ったが…、お客様だし、母さんと話してもっと仲良くなってくれと頼んでいた。


(玲奈が本気で神里の家に入るなら、うちの母さんとの関係は絶対だ。鈴花姉さんは誰にでも優しいし、義姉との交流は後でも構わないだろう。)


「恵令奈ちゃんが行くなら私も…、」小鈴も台所に行こうとしたが、


 俺が小鈴を静止して、「鈴花姉さんと二人で話したいし、恵麻の事を頼む。」と囁くと、恵令奈ちゃん、これは貸しだよ?って言われた。


(やれやれ、マセた姪っ子は対価を求めてくるよね。)


「あら、恵令奈さん。手伝ってくれるの?」姉さんが言ってきたので、


「恵麻はまだ食べられる物が限定されてるし、うちの妹がお世話になる家になりそうなので…。」と話したら、


「ふふっ、妹想いのお姉ちゃんなのね…。」

 姉さんは笑いながら話してくれた。そして、夕食作りを始めた。


 一年に一度の姉と弟が作る夕食。俺は普段、あまり姉さんと会話しないが、この夕食作りの時は必ず、一年の報告をしていた。


「光にね…。毎年、結婚しないのか?って聞いていたの。なのに…、今年は、あんなに美人で若い女性を連れて来て、ビックリしたわ…。」


 姉さんは人付き合いの悪い俺の姿をした光があの玲奈を連れて来た事に驚いていた。


「妹は…、おじさん好きで、熱狂的な神里さんのストーカーでした。明るくて誰とでも仲良くなれるのに…、昔の私のせいで、同年代の男性をまったく信用しなくなって、年上で包容力がある男性ばかり、好きになってしまいました。


 自分勝手の熱烈なストーカーから、彼好みの女性へと変貌したんです。その努力を神里さんは認めてくれたんじゃ無いでしょうか…。」


 と交際に発展した理由を話した。


 未央の洗礼を受けて、恵令奈の前以外では、言葉使いや服装などの見た目まで、大好きな彼のために、大人になった妹を褒めていた。


「妹の事が好きなのね。私も一緒、弟が好きだもの…。」

 彼女はそう言ったあと、


「それにしても、女性になっても心は変わらないわね。光…。」

 恵令奈の俺に向かって言ってきたので、


「姉さんには、やっぱり、バレちゃうよね。なんで分かったの?」

 恵令奈の中身が弟だと気付いた理由を聞くと、


「簡単よ。小鈴が叔父の光に見向きもしないで、恵令奈さんにベタベタ引っ付いて離れないし、玲奈ちゃんへの気の使い方は光らしいし、何よりも、この料理の味は料理上手の弟にしか出せない味だもの…。」


 鈴花姉さんにはお見通しだった…。


「でも、一番の理由は母さんよ。あの厳しい母さんが、テレビで見た若い女性の事を好きになるなんて…あり得ないもの…。小鈴と二人で意味不明なくらいいつも盛り上がってるし…もし、恵令奈さんが光だったら…って考えたら、すべての辻褄が合うし…。」

 二人の恵令奈に対しての行動や発言が、かなりオカシイらしい…。


(母さん…霊がまったく見えない姉さんにもバレる行動や発言って…普段から、恵令奈をどんな目で見てたの?)


「理由は聞かないわ。私は、母さんや小鈴みたいな力は無いし、それに…、姉妹になれたのなら、それはそれで構わないわ。」


 そう告げたあと、また、いつものように笑顔で料理を作っていた。


 それからは、俺の事を恵令奈さんと呼んで、対応してくれた。体だけ神里 光の彼に対しても、弟として扱ってくれるし、鈴花姉さんはとても素敵な姉だ。


 料理を運んでいると、いつの間にか義兄さんが仕事から帰宅していて、玲奈が挨拶をしていた。義兄さんは玲奈の若さに驚いていたが、義弟の光と娘の小鈴との関係を心配していたので、玲奈の存在にかなり安堵していた。


(義兄さんは露骨だよな…。娘の異常な愛が、光さんから恵令奈に反れてかなり嬉しそうだ。小鈴が彼氏を連れて来たら、仲良くしつつもさりげなく、娘はお前にやらんとか、言いそう…。)


 と、少し偏見の目で見ていた。


神里家でいつもどおり、恵麻に夕食を食べさせていると…、

「現実の恵令奈ちゃんって、子煩悩だよね。料理の腕も相当だし…、なんで男性ファンが少ないんだろう…。」


 霊が見えず、理由を知らない鈴音が呟くと、


「鈴音、恵令奈ちゃんの本当の良さは乙女にしか分からないのよ。」


 魂の色が見える小鈴が恵令奈の良さは女性にしか分からないと妹に言っていた。


「恵令奈は私の自慢の娘なの、分からない男には説教してやるわ。」

 母さんは恵令奈の良さが分からない人を明らかに敵視している。


 鈴花姉さんが言う通り、恵令奈への言動が…、常にオカシイようだ。


(母さんは恵令奈のいない食卓でも、こんな過激な発言をしているのだろうか…。俺が男だった時はこんなに溺愛された覚えは無いぞ?もしかして…歳の離れた娘は可愛すぎるっていう…、アレかなぁ?)


 もし、他人にそれを言っていたら、かなりヤバい恵令奈ファンだぞ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る