京都のお盆は長い

第137話 神里家と恵令奈

 記憶の中にあった実家へ約一年ぶりの帰省になった。しかし、俺はもう、別人。きっと、母さんは気付いてくれないだろう…。神里家は母、姉、姉の旦那さんと、姉の娘が二人、今年で高校生一年と中学生二年だったはず…。俺は神里だった時から、とある理由で実家には寄り付かなかったため、この盆の時期に帰省する程度にしている。


 実家の近くまで来たので、俺は神里さんに家族の説明をしていた。


「神里さん。以上がウチの実家の家族構成になります。父は亡くなっているので、今は姉の旦那さんが、お盆の行事を取り仕切っていますので、神里家の長男ですが、そこは気になさらないで下さい。」

 そう言って、記憶の引き継ぎみたいな事を神里さんにしていた。


「分かりました、貴重な情報をありがとうございます、恵令奈さん。あと、何か注意しないと、ダメな事はありますか?」

 お礼を言われたあと、注意点について聞かれたので、


「そうだな~、姉の長女の小鈴こすずちゃんには気を付けて下さい。神里さん、叔父の事が大好きみたいなので…。」


(俺の天敵とも言える姉の長女…、小鈴だ。)


 俺が実家に寄り付かない理由…。それは姉の長女の小鈴にあった。


 小鈴は俺に会う度にベタベタ引っ付いてきて、「私は光叔父さんと結婚するんだ~。」って言ってくる困った子だった。玲奈、大丈夫かな…、交際を宣言したら、小鈴に恨まれるぞ。しかし、なんで小鈴は叔父にゾッコンだったんだろう…。妹の鈴音すずねちゃんはそんなこと無いのに…。


 俺はその時、小鈴だけが、その理由が分かった気がした。


「お姉ちゃん…、小鈴ちゃんって、まさか…。」

 話を聞いていた妹の玲奈もどうやら、ピンと来たみたいだ。


「ああ、たぶん、霊が見えるし、魂の色が見えるんだろう…。」

 前に会った一年前では、気付かなかったが、今ならどうして俺だったのかが、分かった…。


(ん?って事は、まずいぞ。小鈴には、恵令奈が光だって事がバレる…。)


「神里さん、玲奈。悪いけど、実家には二人で向かってくれない?恵令奈の姿で実家に帰ると都合が悪い…。」

 逃げようとしたが、その後ろから、


「あっ!恵令奈ちゃんだ~。」大きな声で恵令奈が呼ばれた。


(この声は小鈴、ヤバい、見つかったよ。しかも、あの子、恵令奈を知っているぞ。)


「あら、光じゃない…、若い女の子を連れて歩いてるし、しかも、一人は恵令奈さん…。どういう事?」


 姉の鈴花すずかにも見つかってしまった…。


すると、機転を利かせてくれた神里さんが、

「姉さん、久しぶり、紹介するよ。今、交際している、上本 玲奈さん。そして…、テレビなんかで有名な、その姉の上本 恵令奈さんだ。」


 鈴花姉さんに姉妹まとめて紹介してもらった。


すると…、しかめた顔をした、鈴花姉さんが、

「光~、恵令奈さんの妹さんって事はまだ、二十歳くらいよね?あなたは女性に興味が無かったのではなくて、かなり、若い女性が好きみたいね…。」


 そう言いながらも、恋人を連れて来た弟に対して…嬉しそうだった。


 鈴花姉さんは恵令奈よりも、自分の弟とその交際相手の玲奈たちとの話に興味津々だが、姉の長女、小鈴は大好きな恵令奈の側へ来て、耳元でこう呟く、


「光叔父さんは本当に可愛くなったよね…。私には見えてるよ?」


 やっぱりと思い、小鈴を見ると、不気味に微笑んでいた。


(その表情、怖いよ?紫音と同い年だよね?この子は、本当にマセてる…。)


そう感じていたら、

「同性になっちゃったら、叔父さんとの子供が作れないよ…。でも、女性だから、いつも一緒に入られるね?」


 神里さんには、目もくれずに恵令奈の姿に夢中だ。


娘のその態度に、

「あらあら、本当にあの子は恵令奈さんが好きね。いっつも、インスタや動画を見てるもん。」


 鈴花姉さんは娘の興味が叔父にあたる弟の光から、恵令奈に変わって、かなり安堵しているみたいだ。


(玲奈!そっちにいないで、助けてよ~。)心の中で妹に助けを求めたが、


 チラッとこちらを見て、目配せしてきたが、玲奈はこれからの事を考えて義理の姉になる予定の鈴花姉さんと仲良くすることを選んでしまった。


(くそ、玲奈め、姉を売りやがったな。そう言えば…、恵麻は?)

 気になって娘の恵麻を見てみると、


「こすず~」霊が見える小鈴の事を気に入ってしまっていた。


小鈴は恵麻に、

「君が恵麻ちゃんね。私は親戚で恵麻ちゃんにとっては伯母に当たるのかな~?よろしくね!」


 恵麻を抱っこしたあと、愛でていた。


(ああ、もし、玲奈が神里さんと結婚したら、恵令奈も親戚の仲間入りするのか。でも、恵令奈とは血縁関係の無い、お前は恵麻の伯母では無いぞ…。)


 しかし、小鈴ちゃんも霊が見えるタイプだとは。姉さんや義兄さんは、まったく見えないはずなのに、なんでだろう?もしかして、母さんか亡くなった父さんのどちらからの隔世遺伝か何かなのかな?


(神里家も、愛華の家みたいな、霊能力集団だったのかなぁ?)


 そう考えている俺や玲奈たちは親戚同士喋りながら、あっという間に神里家の実家に着いてしまった。


(母さん、元気かな。今の俺は恵令奈だし、親類みたいな関係になっちゃったけど…、もうすぐで会えるね…。)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る