第136話 姉妹の新たな絆
俺は今、目の前でいちゃつく妹と前の俺の体の神里を見て、顔をしかめていた。今までは…遠くに離れるって事で何も感じなかったが…、いざ、近くに前の体がいるとなると…複雑な気持ちが止まらなくなるのだ…。
「あ、恵令奈お姉さま~。お元気でしたか?」
見た目、喋り方すべてが別人の妹に声を掛けられたので、イラってしたから返事をせず…無視した。
「お久しぶりです。恵令奈さん。元気でしたか?」
丁寧な言葉で神里さんに挨拶をされたので、
「こんにちは、神里さん。お盆だから…母に呼び出されたのですか?」
事情は分かる…。神里家の息子は光だけだし、毎年の恒例だから…な。
「はい、しかし…私はこの体の記憶を持っていないので…あなたが頼りなんです。よろしくお願いします。」
そう言って、神里の記憶を持つ俺に深々と頭を下げてきた。
その体が馴染み過ぎた彼の記憶は女子中学生のものだから…当然、あの実家の事は知らない…。俺は恵令奈になってから一度も実家には連絡をしていない…。若い女性になったと母に言った所で、絶対に信用されないからだ。
「お姉さま~。なんで私を無視するの?」そう言って隣に引っ付いてきた。
その喋り方は神里の実家用なのかな…。お姉さま呼ばわりする、ウザい妹が絡んできた。何もかもの報告が遅い、妹に腹を立てていた俺は、彼女をしばらく放置する事にしたので、神里さんと引き続き…話すことにした。
「神里さん、実家に帰省するのに…これ、要らなくないですか?」
隣の妹を指差すと、
「いえ、彼女と交際している事を挨拶しようと思っていたので…、連れてきたのですが…、何か、迷惑でしたか?」
もっと前に俺に話が来ていた…その口振り…、なるほど…。
彼がそう言ったので、はっきりした。玲奈は姉に文句を言われるから、黙って進めようとしていたが、良い案が浮かばずどうしようも無くなった時に、俺から電話があったんだ。それで…妹はこの事実をバレたくなくて…お姉さまと呼んで、ご機嫌を伺っているのか…。
俺は溜め息を付いたあと、玲奈に…、
「玲奈ちゃん…、お姉ちゃんがどういう人間か、分かっているよね…。こう言う事をするとその後が大変って…分かるよね?」
もう、隠していた事が全部バレてるよ…と言いかけたら、
「お姉ちゃんって…最近…昔に戻ったみたいな感じだよね。嘘が嫌いで私の嘘はすぐに見抜いていた。そして、最後はさっきみたいに…優しく諭してくれるんだ…。玲奈ちゃん…誰かに迷惑を掛ける嘘はダメだよ…って。」
妹の玲奈には、昔からこう言う所があったみたいだ。
妹の話を聞いて…俺は確信に変わった。やっぱり…、
「玲奈ちゃん…聞いて…。恵令奈さん…君の大好きなお姉ちゃんは…、自殺なんかしていないよ。」
俺は実の妹に真実だろう事実を告げると、
「えっ?」当然、玲奈はそう言ってくる。
「記憶は無い…でも…、今の私の考えは…ほぼ、本物の恵令奈なの。そこにいる神里さんもそうだけど、脳は体にあるモノを使っている…だから、分かるの…。」
(俺は…真相を間違えた俺は…玲奈に謝らないと…。)
「何が分かるの?お姉ちゃん…。」玲奈が聞き返してくれたので、
「恵令奈さんは不倫をしていない…。それは殺害した犯人の偽装工作だったんだ…。そして、恵令奈になったばかりの俺や恵令奈の周りが…犯人の周到な根回しに騙されたんだ…。」
そうだ…、犯人は…恵令奈の不倫相手だったあの人の意識を乗っ取り、言葉巧みに彼の元へたどり着いた…当時は玲奈を名乗っていた俺を騙した。
その真相を話すと、玲奈は…、
「やっぱり…お姉ちゃんは…、私の大好きなお姉ちゃんは…真っ当に過ごしていて…亡くなったんだね。」
真相を知って泣き出してしまった。
泣き出した玲奈に、
「お姉ちゃんは死んでいないよ?ほら…。」
恵令奈の姿をした俺が玲奈の目の前に立って、
「玲奈ちゃん、ただいま。お姉ちゃん…昔の事は忘れちゃったけど…、大好きなお姉ちゃんが戻ってきたよ?」
目の前で手を広げて「おいで、玲奈ちゃん。」と呟くと、
なぜか、笑顔になった玲奈は、
「本当のお姉ちゃんはそんなに優しくないよ?でも…、たまにはお姉ちゃんに甘えたいな…。」
そう言って、妹らしく…甘えながら抱き付いてきた。
落ち着いた玲奈は、
「これからは、今のお姉ちゃんには何でも相談するよ。前よりも優しいし、ダメな事はちゃんと指摘してくれる…。黙っててゴメンね。お姉ちゃん。」
恵令奈よりも背の高い玲奈は体型の差を気にせずに甘えまくってくる。
ずっと、恵令奈に甘えて離さない事に機嫌が悪くなった恵麻が、
「れいな!め!」
そこは私の席だと言わんばかりに母の隣を奪い返そうとするが、
「ふふ~ん、お姉ちゃんは渡さないよ~、恵麻。」
と言って、姉を掴んで離さない玲奈が恵麻に意地悪をしたので、
「こら!自分よりも小さな子に意地悪しないの!」そう叱って、
玲奈を払い除けて、恵麻を抱っこして上げた。
「れいなのまけ」母の隣を奪い返した恵麻が、玲奈に向かって言っていた。
(二人とも…仲良くしてよ。まったく…。)
呆れていると、玲奈は近くにいた、神里さんに抱き付いて、
「いいもん!私には光さんがいるもん。」と次は彼に甘えだした。
それを神里さんは優しく、
「大の女性が子供と張り合ったり、公衆の面前で男性に抱き付いたらダメだよ?玲奈。」
そう言って冷静に引き離したあと、手を握って、
「大丈夫、私は玲奈のそう言う所も含めて…好きだよ。」
それを聞いた、玲奈は嬉しさが込み上げたみたいで、頬がユルユルになっていた…。
(う~ん、…俺の目の前ではイチャつかないで欲しい…。)
元俺、神里の体が女性と絡み合うのは、やはり見たくないな。
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