第65話 芸能人の闇と日向の才能

 日向が暴走気味に休養中で若手女優の大原さんの所に行ってしまったため、俺は一人で依頼人に会うことになった。

(仕事を放り出す、ひなちゃん…後でお説教しなきゃ。)


 そのまま少し進んだ小高い山の中腹、霊廟がある場所に依頼人はいた。

「依頼人の方ですか?」20代後半の女性がそこにおり、俺は声をかけた。


「あなたが、私が見える例の方ですね。私は宮元みやもと 奈都美なつみと言います。女性芸能人にメイクなどをしていた、フリーのメイクアップアーティストをしていました。」

(ひなちゃんの予想は当たっていたのか、迅速解決と言う点では、勘が良いし現場向きだな。)

 日向は一見、直感的に見えるが、情報を組み合わせて、最善な答えを論理的思考で導き、動く超行動派の人間なんだ。もし、霊が見えたら俺は敵わないかもな…。


「はい。上本 恵令奈と言います。さっそく、依頼の件でお話を伺いたいのですが…。」

 俺はいつも通りの流れで話を進めようとしたら、


「あなた、女優みたいね。まるで女性を演じている。」宮元さんに指摘され、

(男性っぽくは話したつもりないけど、専門の人には分かるのかな?)


「ごめんなさい、年齢の割に落ち着きがあるし、不思議に感じて…つい…。」

 彼女が謝罪してきたので、


「大丈夫ですよ。この見た目だと大学生に見られますから…。逆に安心してください、必ず依頼を解決して見せますから。」

 そうだ、日向と恵令奈は競う分野が違うんだ。恵令奈は人に落ち着きを与え、現場のみんなをまとめる教師。日向は行動力を活かして情報収集をする探偵。

それぞれが良さを活かすことで、依頼を迅速に解決して霊を導くことで、俺たちは良い仕事として周囲に認められる。


「依頼は愛奈を…心の拠り所だった私を失い、失意の彼女を立ち直らせてください。」この間の朱里ちゃんの件とほぼ同じだな。


 霊となって現世にとどまる理由は大きく分けて二つ。

一つ目は死の真相、記憶を無くした本人に関連する依頼。

二つ目は自分の死によって、影響を受けた者に対して、大きい未練を残してしまい旅立てない。その故人に代わり、関係者の心を救うという依頼をこなす。


「分かりました。その依頼をお引き受けします。」

 俺がそう言うと、「よろしくお願いします」と彼女は頭を下げた。


 依頼は難しいかもしれない。俺は女優の気持ちが分からない。恵令奈の見た目は可愛いが、女優の列に並べると容姿は劣るだろう。紫音ならいけそうだけど、女優向きの性格をしていないからな。

(そこだ…、彼女の性格は本当に女優向きだったのか?身内の死を乗り越えるくらいの精神力が無いと続かないんじゃないのかな…。)


少し考えていると、日向から連絡があった。

「恵令奈先生。今、愛奈ちゃんといるんだ~。先生、これからどうする?」

 なんだ…この子、仕事ができる女性じゃないか。俺の行動を読んだのか?


「今からそっちに行くよ。待ってて…。」

 俺は彼女たちが待っている場所に向かっていった。


俺が近くのカフェに到着すると、

「恵令奈先生!こっち~。」日向が呼んでいたのでそこに行くと、

 大原さんが座っていた。(サングラスなんかで変装とかしないの?)


「お待たせしました。私は上本 恵令奈と申します。あなたが女優なのは、ひなちゃんから聞いています。まずは宮元さんの事故の件で、あなたの話を聞きたいです。」

 彼女は大きなストレスを受けたのか、美人だけどやつれていて、とても女優とは思えない風貌だった。

(テレビに出ていた時とは別人みたいだから、変装はいらないのか。)

 仕事が忙しくてテレビを見てなかった、俺はこの子の元を知らないけど…。


彼女は俺を警戒している。(女優だから、敏感なのか…。)

「大丈夫だよ~、愛奈ちゃん。恵令奈先生は私の憧れの人だから。」

 警戒している彼女を日向が解きほぐす。

(ひなちゃんはどうやって、この短時間に信頼を得たんだ?)


日向が説得すると俺に話をしてくれた。

「奈津美さんと私は仕事で知り合い、プライベートでも仲の良い友達でした。私が例の映画に出ると決まって、彼女は私に帯同するスタッフとして着いてきてくれました。映画撮影期間中にホテルの近くで暴走する自動車事故に巻き込まれて彼女は帰らぬ人になりました。」


「もし、この仕事を事務所が受けていなければ、もし、私が彼女に着いてきてと言わなければ…と考えるようになり、私はまったく仕事ができない人間になっていました。」

 彼女は自責の念に押し潰されたパターンの人間だった。


俺は彼女に

「今はどうされているんですか?精神科とかに通院されているとか?」

 精神的に追い詰められた彼女には早急に治療が必要だと感じた。


「今はなにもしていないです。東京の自宅で静養している事になっていますが、ほぼ京都にいます。なぜか、ここにいるのです。」

 自分の行動すら、彼女はコントロールできていないのか…。

 もう気持ちが限界だ。女優としての立て直しはかなり難しそうだな。


「恵令奈先生。先生の家に連れて帰ってもいい?」

 日向が言ってきたので少し悩んだのだが、


「まずは社長に報告。行動はそのあとにしないと…。」

 報告無しで勝手に行動するのは、社会人としてダメだからな。

(ひなちゃんが勝手に動いた事も報告するよ?俺は。)


 俺と日向、大原さんは社長に会うため、白河家の事務所に戻る事にした。

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