第62話 女性だからこそ、悩みが多い

 依頼を終えた俺と紫音は依頼人の孫の朱里ちゃんと歩いていた。

「朱里ちゃん、今日はうちでご飯を食べていきなよ。」

 俺が提案すると、


「そうしなよ、朱里。お母さんにも会って欲しいし。」

 紫音が俺の意見に賛同した。


「ありがとうございます。じゃあ、そうさせてもらいます。」

 朱里ちゃんも一緒に家に向かうことになった。


道中では若者の悩みがたくさん出てきた。

「恵令奈さんの恋愛対象は男性なんですよね。昔は女性が好きだったのにやっぱり体の方が優先されるですかね?」

 朱里ちゃんは随分とグイグイと来るようになった。


「あの日が来る度に男性を求めちゃうんだから…仕方ないかな…。」

 女性のホルモン周期の話をしていたのだが、恵令奈の場合は特に激しい。


「お父さんは男性でいた方が良かった?」紫音からも質問をされた。


「女性は楽だと言う男はいるけど、全然、そんなこと無いよ?体力は無さすぎだし、生理中は気分が滅入って、仕事にならないんだよ。」

 貧弱な恵令奈の談話を話していた。


「それに未央も言ってたけど年を取ったら、異性にモテなくなって男女の差が顕著に出てくるよ?きっと…。」

 俺は未央さんの若さアピールの件を話した。

(若い、若い、と異様な固執をしてくる、未央さんを見たら分かるよ。)


「恵令奈さん、夢が無いですよ~。」朱里ちゃんに突っ込まれるが、


「朱里、事実だよ。うちのお母さん、恵令奈と私への嫉妬心がヤバいもん。」

 親友の朱里ちゃんに若さという、地雷が存在することを告げていた。


「男にとって、女は若さだけなのかな~。嫌だな~男って…。」

 朱里ちゃんがおばさん発言をし出した。


「朱里ちゃん、うちの家では若さの事には触れちゃダメだよ?」

 俺が注意を促すと、コクコクと無言で頷いていた。


家に到着したので早速、

「未央~。どこ~。」家族サービスの時間だ。

 あれ?返事が無いよ、いないのか?


するとゆっくりと俺の所に未央さんがやって来て、

「光さん、お帰りなさい…。」(ん?何か、おかしいぞ。)

 彼女に何があったんだろう?いつもなら、優しく笑ってくれるのに…。


「未央、どうしたの?元気無いよ?」

 朝、俺のイチャイチャが足りなかったのかな?愛を充電させるか。


「私は、もう、若くないから…。」未央さんの様子が、おかしい…。

(誰かが未央の若さの地雷を踏んだ形跡がある。本郷くんか?)


「何があったの?」話を聞こう、動くのは…それからだ。


「本郷くんがね…私といると安心する…お母さんみたいって言われたの…。」

 本郷よ…。褒めたつもりだろうが、逆効果だよ、それは…。

(ん?でも待てよ…それって…。)


「未央、もしかして、本郷くんの事…好きなの?」

 好きじゃなきゃ、母と言われたくらいでここまで落ち込まないだろう?


未央さんは複雑な胸中を語りだした。

「私は今でも、光さんが好き。でも、今の光さんの見た目は若い女なんです。心では男性として接しているんだけど、体が好きって反応しないの…。」


 俺と一緒だな…どれだけ激しい性的なスキンシップをしても、恋愛対象の性別は誤魔化せない。男が、男の体が好きな今の俺と未央さんが女の体同士で愛し合ったとしても限界は必ずやって来る。


 この機会だ…ちゃんと向き合おう。


「未央。話があるんだ…。今の俺の体は男じゃない…だから他の男性を好きになっても構わないと思っている。お互いに無理をして接していると、いずれは限界がやって来る。男女関係でもそれは言えていて、中身が大好きな人でも、体があんまり好きでは無いタイプの人なら当然、拒絶の反応が出てくる。」


元々、未央さんは恵令奈みたいな甘えんぼの女性を嫌う傾向にあったから…。


「俺の中身…人間性が大好きなんだったら、これからは大好きな親友として接して見てはどうかな?その距離を保ってみて、改めて、今後の事を考えよう?未央。」

 俺のこの提案に彼女は、


「こんな身勝手な私を許してくれるの?光さん。」彼女が言ったので、


「許すもなにも、大好きだから、お互いにそうした方が良いんだよ?」

 俺は未央さんの事がすごく好き、だから素直に生きて欲しい。


そのあと、俺と未央は抱き合った。男と女では無く、大親友の女同士として、


その光景を見ていた若い女子高校生の二人は、

「大人って大変だね?紫音。」朱里ちゃんがそう話すと、


「だから、朱里もお母さんとちゃんと話し合いなよ?」

 家族の対話が必要だと、親友に話していた。


「そうするよ。恵令奈さんを見ていたら、自分に勇気が出た。好きな女性への愛が溢れているって言う感じ…人間として憧れちゃう。」

 朱里ちゃんが年下キラーの恵令奈先生を慕う目になっているのを見て、


「お父さんは本当に罪な人です。また私の親友を誘惑しちゃうんだから…。」

 俺の知らない所でまた一人、紫音の親友を虜にしていた。

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