第61話 後悔をしない選択と紫音の役割
俺は彼女に霊の願いを叶える仕事をしていると伝えて理解を得た。だけど、すぐに行動に移さないのには理由があったからだ。
「もし、会えてもすぐにお別れしないといけない。それでも君が堪えられるか?それが不安なんだ。」俺が能力を多用しない、懸念している事の一つだ。
紫音は彼女に、
「私は、この能力でかなり苦しんで登校拒否まで精神を追い詰められました。先輩に失礼な態度で申しわけないんですが、お婆ちゃんに会って会話できたとしても、無気力な状態が元に戻るとは思えません。まだ、問題があるはずです。」
紫音を呼んだ理由、それは俺の出来ない事をしてくれるからだ。恵令奈の最大の欠点は、優しすぎるんだ。人を助けたい気持ちでつい、相手を甘やかしてしまう…。社長にも言われた。大人の教育には向かないタイプだって…。
でも、紫音は違う。最初はこの子ははっきりしてるのだ。俺と未央の間違いを恐れずに正してくる。
紫音はさらに続けた、
「先輩はお母さんとも話し合うべきです。不登校の理由は介護やお婆ちゃんの死だけでは、無いから…。お母さんとも、随分と会話のコミュニケーションが取れていないんでしよ?これからは母と娘の二人で生きて行くんです。二人がどうして行きたいのか?話し合わないとダメですよ?」
紫音は母親とも真剣に将来を話し合う事を進めていた。
それを聞いた彼女は、
「母はいつも私に苦労を掛けていることを詫びて来るんです。それが私には重みに感じてしまって…。」
彼女の親子関係はバランスが崩れている。紫音はそこを指摘している。
(紫音は一度だけあった俺との口ケンカ、失敗を糧に娘は成長していた。)
「先輩は不安定です。だから、私が先輩の親友になって相談に乗ります。私の事を紫音って呼んで下さい。私はなんてお呼びしたら良いですか?」
(紫音はだんだん恵令奈に似てきたね。)
それを聞いた彼女は、
「私の名前は
「朱里先輩だね。よろしく。」紫音がそう言うと、
「年上だけど、朱里って呼んで、私は紫音って言うから」
彼女が言い直しをお願いすると、
「分かった、朱里よろしく!」と紫音。
「うん!紫音!」と彼女が嬉しそうにしていた。
「まとまったね。じゃ、朱里ちゃんのお婆さんに会いに行こうか。ちゃんと話したい事は考えておいてね。」俺が話すと、
「はい!恵令奈さん。」彼女は笑顔で答えてくれた。
そのあと、依頼人、朱里ちゃんのお婆さんがいる場所まで向かうと、
「依頼人の方ですね。上本 恵令奈と申します。少しだけお孫さんと話せる時間を作りますね…。」恵令奈の能力を使うと、
「お婆ちゃん!」
「朱里!」二人は抱き合っていた。
「紫音、俺たちは少し席を外そう。」
俺たちは少しだけ離れた場所で二人を見ていた。
「お父さん、朱里は立ち直れるかな?」紫音は朱里ちゃんを心配していた。
「紫音がいるから大丈夫だよ。俺は紫音の成長を感じられて嬉しいよ。」
そう話して、彼女の頭を優しく撫でると、
「お父さんは恵令奈さんになって、だいぶ経ったけど、大丈夫なの?これからの事を考えないといけないでしょ?」
娘に一番の悩みの核心を突かれる。
その言葉を聞いて、恵令奈としての幸せを考えていた。今は若いからなんとでもなる。十年経ったとき恵令奈は34歳の立派なアラサーだ。紫音も26歳の大人の女性なんだ。この仕事をずっと続けるのか?今の家族関係を続けるのか。それとも恵令奈の両親の事を考えて、同年代の男性と結婚するのか?
男性との交際も悪くないと思うんだ。他者依存の気持ちが強い恵令奈は男性を求めている。だから、今は好みの男性と話している時が一番楽しい。
親子ではなく、姉妹として紫音に聞いてみた、
「紫音は将来、何をしたいか?考えた事があるか?」と言うと、
「どうだろ。普通に考えたら、大学生になって就職するんだと思うけど、私も本当の両親に向き合わないといけないから…。」
恵令奈の俺と娘の橘 紫音の共通点は、未央さんとの関係をどうするか?と、本当の両親との関係を考えないといけない点だ。
「すまないが、また相談に乗ってくれないか?紫音。互いに後悔をしない答えを、選択を選べるようにしておきたいんだ…。」
娘に相談なんて情けない話かもしれないけど、
この境遇はきっと、紫音以外には理解されない。
「OK~、恵令奈さん。私たちは親子で姉妹で相性バッチリの相棒だもん!」
(本当に便りになる、相棒だよ。紫音は…ありがとう。)
そんな事を二人で話していると、朱里ちゃんたちが来て、
「上本さん、ありがとうございました。孫と話して満足しました。」
朱里ちゃんのお婆さんは旅立つ決心がついたみたいだ。
「ありがとうございました、恵令奈さん。」朱里ちゃんも満足そうだ。
「あなたが紫音ちゃんね…、孫と友達になってくれてありがとう。」
彼女は紫音にもお礼を言ってくれていた。
「朱里の事はまかせて下さい!」
紫音は彼女を安心させるために元気よく返事をしていた。
そのあとはいつも通り、
「お婆ちゃん、一度、進んだら、振り返らないでね。」紫音が話すと、
朱里ちゃんのお婆さんは微笑みながらゆっくりと旅立って行った。
霊が見えない、孫の朱里ちゃんは最期の光景は見えなかっただろう。
でも、彼女も祖母と同じように優しく微笑んでいた。
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