第60話 ヤングケアラーの問題点とは?
俺は出てきた女の子に少しびっくりしていた。不登校の子供って活発とは、ほど遠い性格の子供だと思っていたからだ。
「あっ、私はこういう者です。」恵令奈の名刺を渡すと、
「なんでも屋さんみたいな感じの方ですか?悪い人じゃ無さそうだから、どうぞ、入ってください。」
女の子は特に警戒する事もなく、恵令奈の姿の俺を家に入れてくれた。
(やっぱり、恵令奈先生の姿は子供たちに対しては有利だ。)
「ご用は何ですか?」女の子は早速、本題に入る。
(適応力もある、かなり頭が良い子なのかも…。)
「学園に依頼を受けてこの度、スクールソーシャルワーカーの担当になりました。そこでこれからの学校への事について話し合いたいのですが。」
回答内容は心配だが、尋ねてみた。
「必要はありません。母を説得して学校は辞めようと思っています。」
彼女はそう話すと、それ以上は語ろうとしなかった。
俺は、
「理由を聞きたい訳じゃないよ?そう決めたら何も言わない。ただ、それでは亡くなった君のお婆さんがこの世を離れられないだけだよ…。」
俺の依頼人は学校じゃなく、亡くなった故人の思いを伝えたい事だけ。
彼女は少し怒りを見せながら、
「亡くなった祖母に許可なんて要らないですよね?何が言いたいんですか?」
私の言葉に対して妙な反応がある。これは…。
俺は彼女の反応を見て確信した、
「あなたはもしかして、学校に行かずにお婆さんの介護をしていた。ヤングケアラーって言われている方なんですね。」と聞いてみると、
「そうですよ。私は祖母が亡くなるまで傍にいました。自分なりに必死に頑張っていたつもりでした…。でも…。」
彼女が口をつぐんで、話をできなくなってしまったので、
「あなたは、我慢の限界だったんですね。学業、家事、介護、全部をこなしていた所に祖母の死があって、精神の、心の糸が切れて何もする気が無くなったんですね。」
そう、この子はもう何もする気が起こらなくなって学校も家の事も何もかもどうでも良くなった。
「私は自分の境遇を恨んで、母や祖母を嫌悪していた。仕事が忙しい母も、介護の事で毎日謝ってきた、祖母に対しても…なんで私だけってこんな目に考えてしまった。」
彼女は罪悪感を覚えたまま、祖母とのお別れをしてしまったみたいだ。
「もう、辛いんです。だからもう、どうでもいいんです。放っておいて貰えませんか?」彼女には頼まれたが、
「そういう訳にはいかないの。私は前に娘に言ったことがあるの。もし、耐えられなくなったら誰かを頼れって…。」
この子の人生はまだ、始まったばかり…諦めるのは、早すぎる。
「でも、どうしたら…。」彼女の心のキズは深いみたいだった。
「お婆ちゃんに会いたい?会ってきちんと謝ったら、学校を辞めるのを考え直してくれる?」俺の現実離れした発言に、
「そんな事が出来るんだったら、今すぐにでもお婆ちゃんに会いたい。会って謝りたい。」彼女は涙を流して倒れ込んでしまった。
俺は、
「じゃあ、会いに行こう?私にまかせてくれれば、願いを叶えてあげるから、私を信じてくれる?」
そう言いながら、微笑んで彼女の手を握った。
俺は紫音に連絡して学校の帰りにここに来てもらうことにした。俺の能力と恵令奈の言葉だけでは足りないと思ったからだ…。
紫音来るまでは、彼女の事を聞いていた。好きなタイプの男の子やどんな事に興味があるか?とかを笑顔で楽しみながら聞いていた。
打ち解けてくれた彼女は、
「恵令奈さんはどんな男性がタイプなんですか?」
この質問にも今なら答えられる。
「私は年上の真面目で優しい人が好きみたい。すぐに引っ付いてベタベタしちゃうの…。」と女子トークもかなり上手くなっていた。
そんな話をしていると、チャイムが鳴り紫音が来た。
「娘が来たから上がってもいいかな?」と聞くと、
恵令奈さんの娘なら良いと言ってくれたので、紫音をサプライズ紹介した。
「初めまして、橘 紫音って言います。同じ高校の一年生です。」
同年代の美少女の登場に、
「恵令奈さん。娘さんって言ったじゃ無いですか~。嘘ついたんですか?」
当然、あまり年の離れていない子の登場に彼女は信じない。
「本当だよ?ね。お父さん。」と紫音が話すと、
「お父さん?」彼女は案の定、首を傾げていた。
それから、彼女には一切、嘘を付かずにすべて本当の事を話した。
すると、彼女は、
「こんなに可愛い女性が元男性なんですか?」と聞いていたので、
「正確には特殊な能力で二つの魂がくっついた結果、体が恵令奈、記憶が俺、神里 光になったんだ。だから、体は男性が好きだし、記憶は紫音のお母さんが好きなんだ。」変な状態をなるべく理解してもらえるようにした。
彼女はすべてを聞いたあと、
「分かりました。恵令奈さんの事を信じます。」と言ってくれたので、
本題に入る事にした。
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