第7話 新たな能力とミステリーな依頼

外国人や観光客にとっては嵐山と言う土地はただの人気の観光スポットだが、

観光コースを外れてしまうと途端に心霊現象が多く発生すると言われている地域に変貌してしまう。


それも含めて良いところなのだと言える。京都嵐山という地域は。


「相変わらず何もないところだな。」


嵐山の奥地、保津峡に来た、俺と紫音。

(こんな分かりやすい霊が集まる場所ないだろ。)


霊が見えるようになった、今は来たくないランキング上位に入る所だ。


「紫音、あんまり離れずついてきてくれ。」

 悪い霊が出そうな地域だし、娘を守らないと…。


「うん!景色が良いところだね。」と紫音は気にしない。


依頼人の場所は…。まだここより奥地か。

「紫音、足元が悪い。転ばないように注意してくれ。」


「こんな所に依頼人さんいるのかな?」とさすがの紫音も言っている。

(確かに、人が寄り付かない場所だ。)


細い参道を登って行った所に少し広めの場所に出た。

祠みたいな物を見つけた俺は、

「霊廟…か。」と呟いた。


その近くに若い女性が立っていた。

「あの~。もしかして依頼人の方ですか?」と声をかけると、


「依頼?なんの事かしら?」と呟いたあとすぐに、


「もしかして私が見えるんですか?」彼女は尋ねてきた。


「はい。私は神里 光と言います。」


「こっちは娘の紫音です。」


「お姉さん。こんにちは。」紫音は普通に挨拶している。


「あなたみたいな霊体のお願い事を聞く仕事をしています。」

 そこまで説明すると、彼女は語りだした。


「ああ、良かった。私は上本 恵令奈(うえもと えれな)と言います。」


「数日前にこの近くで亡くなったみたいなのです。」と彼女は言った。


「上本さん、亡くなった事は覚えていらっしゃるんですか?」


「はい。詳しい事は覚えていないのですが……。」


「では、依頼の内容とは。真相解明調査で良かったですか?」


「はい。よろしくお願いします。」と彼女は俺に握手してきた。


その時だ。彼女のなにかが自分の中に入り込んでくる感覚に襲われたのだ。(これはどういう……。)


それは一瞬の出来事だった。

(霊、彼女の記憶?が…。)


少し立ち眩みしてしまい俺は、ボーッとしていた。

「お姉さん、大丈夫?」紫音が心配している。


「ああ、大丈夫だよ。紫音。」と俺は答えた。


「………。あれ?体が変だ。」


祠に祀られている鏡に映る俺は、上本さんになっていたのだ。

(女性に変身した?)

「ええ~!どういうこと!」と思わず大声で叫んだ。


「お姉さん?」紫音を見るとまじまじとこちらを見つめてくる。


「……紫音。俺だ。上本さんじゃない。」

 事情は分からない…でも、上本さんの姿をしているのは、俺だ。


「お父さん??」紫音も理解出来ずに困った顔をしている。


「そうだ。原因は分からないが、体が上本さんに変わってしまったらしい。」

 身振りをすると見えてきた手はキレイだった。


「とりあえず、お母さんに連絡してくれ。」

 まずは依頼人の女性の姿になった事を話して、社長に告げないと…。


「分かった。」紫音は未央さんに連絡した。


「ここを離れよう。紫音。こんな現象は尋常じゃ無いし、危険だ。」

 若い女性になったのに、いつも以上に頭が冴えている。何故か、冷静に物事を判断できるのだ。


「どうするの?お父さん。」

 女性の体だが、紫音はまだ…お父さんと呼んでくれる。


「一度、家に帰る。この事象を報告しておかないといけないからな。」

 霊に取り付かれたのかな?女性になったと言うよりは、上本さんそのモノに感覚が変わったみたいだ。


今、気付いた事は彼女に触れた際に彼女の姿見になってしまった。

(困ったな。彼女の感覚を吸収した感じになっている。)


帰り道に気付いたのだが、

運動能力は彼女の状態らしい。細身の女性なので体力が無いし、

山道で足が腫れて動けなくなりそうだ。


(こんなに体力が無いのか彼女は。)

あと、背が低くなり目線が下がっている事、少し視力が落ちた事。


それに女性のスーツ姿なのだが、着なれている感覚がある。

(スカートで歩いているのに全然、恥ずかしさがない。)


上本さんの姿でいるのが普通である感覚なのだ。


家に戻ると未央さんに、

「あらあら、光さん。ずいぶん可愛くなりましたね。」


冷静な未央さんに俺は、

「未央、それは褒められてる?それより、上本さんについて分かった事は?」


すると、彼女は安堵したみたいに、

「冷静な所、いつもの光さんですね。安心しました。」


いつもの情報屋、未央リサーチの時間だ。

「………って言う感じです。」と未央さんは言った。


聞いた事をまとめると、

上本 恵令奈 24歳。聞いた事が無い会社の会社員をしているみたいだ。

独身で交際相手もいない。交友関係は特にトラブルが無い。

会社とのトラブルも無し。両親との関係も良好みたいだ。

五日前から会社を無断欠席、失踪しており、会社は両親に話をして捜索願いが提出された所らしい。

(いつもながら見事な情報収集力だ)


「未央、毎回のサポートすごく助かる。」

 彼女の短時間に依頼人を調べ上げる技術はこの仕事の要だ。


「若くて可愛いなんて羨ましい…。」と未央さんの見る目がいつもと違う。


「お父さん、いつもより柔らかいし良いにおい。」紫音が抱き付きながら感想を述べている。

(胸などを触られてもくすぐったいぐらいで、羞恥心の感覚が無い。とはいえ、やりづらいな。)


「捜索願いが出ていると言うことは、目立った行動が出来ないな。」

(死んだ人間が動いていると分かれば何かと面倒だ。)


「そうでも無いわよ。」未央さんが言う。


「妹と偽って行動する。体は若いからメイクでごまかせるわ。」

(さっきから若さについてのトゲがあるな。女性の嫉妬という奴か。)


「これが2つ下の妹さんの情報よ。」


上本 玲奈 (うえもと れいな) 22歳で東京の大学生らしい。


「妹さんに成り済まして、探るという事にしましょう。」と未央さんは言った。


「服はどうしようか?スーツ姿だとさすがにバレるだろう。」

(少しでも幼く見せないと。)


「そうね。紫音。お姉さんに着れそうな服を貸してあげなさい。」


(えっ?紫音の服を着るの?)


「は~い。さ、お父さんお着替えしましょうね。」紫音に連れていかれた。


 そのあとは着せ替え人形のような扱いを受けて、女子大生風の服装に着替える事になった。

(羞恥心が無いのはすごいな。若い女性の下着姿を見ても何も感じないんだから…。)


今の俺は、紫音より少しだけ背が高くて少しだけ胸の大きな女性だ。


ほぼ変わらないサイズのため、紫音の服も普通に着れた。


「お父さん、かわいい。」紫音は違う意味で喜んでいる。


「紫音、お父さんではない。玲奈お姉さんだ。」

 俺は22歳の上本 玲奈になりきるつもりだ…。


「光さん。その対応力、さすがです。」と未央さんが言っている。


「うん!お姉ちゃん!」紫音は楽しそう。


「じゃあ、紫音。なかよし姉妹で調査開始だ。」

 今度の俺たちは親子から姉妹への立場の変更になる。


「お~!」紫音はノリノリだ。

(お~?)(お~で合ってる?のかな。)

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