新たな能力の目覚め
第6話 人も霊も悩みはある
ここで働き始めて、半月が経とうとしていた。
その間の依頼は一日で終わるような安易なものばかりだった。
悩みを抱えたまま亡くなってしまい、秘密を聞いて欲しいとか、
一緒に亡くなった妻の霊体がどこにいるのか探して欲しいとか、
恋人に別れの挨拶を代弁して欲しいとか。
(まあ、あんなミステリー小説案件は来ないだろう。)
そのどれもが、悔いという鎖で縛られた霊ばかりだった。
そして……。
ある日の午後。光は社長に呼び出されていた。
「来てくれたか、光くん。どや、仕事は慣れたか?」
社長はこの数日間の事を聞いてきた。
「ええ、最近は霊と話すのは普通みたいな感覚ですよ。」
俺には霊が見える。それがよく分かる日々だった。
「それは良かった。急なんやけど、依頼がまた来てん。明日に紫音と嵐山に行ってくれへんか?依頼内容はいつも通り、現地で依頼人から聞いて解決してくれたらええ。」
その社長の説明に、
「分かりました。」場所を聞いた俺はいつも通り依頼をこなすことにした。
俺は、紫音の事もあったのでこの家で一緒に暮らすことにした。
未央さんとも一緒で夫婦生活みたいな状態だ。
(このまま未央さんと結婚して暮らすのも悪くない。未央さんは俺の事が好きみたいだし。)
いつしかそう思うようになった。
「紫音、明日は仕事で嵐山に行くことになった。」
紫音を呼ぶとすぐ側に寄ってきた。(随分、この子に好かれたよな…。)
「紫音は、お父さんと一緒ならどこでも行くよ。楽しみだな~。」
満面の笑顔だ…。もし、実の父親だったら…飛んで喜ぶよ。
(紫音は笑顔で暮らすことが多くなり、性格も社交的になりつつあった。このまま行けば学業に復帰出来るだろうが、対人関係という問題がまだ残っていた。)
「未央、相談があるのだが…。」俺は紫音の事で未央さんを呼んだ。
「どうしましたか?光さん。」こっちもスゴい距離で近付いてくる。
「紫音はまだ16歳だ。出来れば学業に復帰して欲しい。でも、本人の意志が大切だ。どう思う?」
未央さんに娘になった、紫音の事を相談していた。
「紫音は特殊な能力を持っている子だから、周りとは違う。誰か年の近い同じような力を持つ子がいてくれたらいいのだけど…。」
(問題はそこなんだよな。)
「私は光さんと違って霊が見えない。紫音の事を分かってあげられない部分がある。母親としてはそこが悔しいの。」と未央さんが答えてくれた。
「すまない、未央。でも紫音が甘えられる母親は君だけなんだ。」
紫音は未央さんを心から信頼している。
「それに、俺は未央を心の底から信頼している。俺にしか出来ない事と未央にしか出来ない事をやり尽くして紫音の明日を守っていく、それでいいんじゃないのかなって思っている。」
俺の新しい生活は娘を守る…父親として過ごす生活だ。
「光さん。」
「どうしたの?未央。」
「子供の将来を相談する。私たちは本当の夫婦みたいですね。」
(俺はいつも頼りになり、思いやりのあるそんな未央さんが好きなんだ。)
じゃあ、今の俺が言うことは、
「紫音の事が落ち着いたら、結婚しようか俺たち。」
「はい、よろこんで。」と未央さんは即答してくれた。
同じ境遇の男女が恋に落ちるのは必然なのだろう。
翌朝、
「それじゃあ行ってくる。」
「お母さん。行ってくるね~。」今日も紫音は元気一杯だ。
「光さん、紫音。気を付けてね。」と未央さんが見送ってくれた。
俺と紫音は京都市北西部にある、有名観光地嵐山へ向かった。
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